十章 決着(4)
螺旋状の階段を駆け下っていたゼルディアは、うなじに痺れを感じて、はっと身を躱した。直後、壁に矢が当たって跳ね返った。振り仰ぐと、エルフの娘――シェリアが手すり越しに弓を構えていた。
シェリアがさらに矢を放つと、ゼルディアは舌打ちして鉈状の剣を抜いて鎬ではじいた。さらに細身の短剣を抜いて、錐状の切っ先をシェリアに向けた。とたん、切っ先から閃光が放たれた。
シェリアは、その場に身をかがめた。閃光は手すりを砕き、壁をえぐった。シェリアは身をかがめたまま階段を駆け下り、さらに矢を放った。ゼルディアも飛んでくる矢を躱しながら階段を下り、閃光を放ち続ける。
シェリアの矢には限りがあったが、ゼルディアを追いながら階段を下りていたため、放った矢を拾いながら射続けることができた。しかし……。
(これでは、じり貧だ)
長い階段を下りながらの射ち合い。拾っては放たれる矢の鏃は徐々に潰れ、殺傷力は衰えていっている。中には矢柄が折れ、使えなくなったものも出てくる。階段を下りきり、外に逃げられたら追い続けるのも難しくなる。相手もそれが分かっているから、無理に攻めようとはしない。
(仕方ない)
シェリアは意を決した。手すりに足をかけ、螺旋状になった階段の向い側へむかって飛び下りた。勢い込んで壁に身体をぶつけながらも、ゼルディアの目の前に立ちはだかった。
ゼルディアはとっさに剣を振るったが、シェリアはそれを弓で受け、横にはじいた。弓が砕けながらもシェリアはそのままゼルディアの懐に潜り込み、閃光を放つ短剣を持つ腕を掴み、その手から短剣をもぎ取って投げ捨てた。
ゼルディアはシェリアから逃れようと後ろに飛んで距離を取り、後ろ腰に隠し持っていた小刀を取って剣と一緒に構えた。シェリアも両腰に佩びた短剣を抜いて構えた。肩で息をしながら互いに睨み合う。やがて足場の悪い階段での斬り合いがはじまった。
力の差はほとんどなかった。互いに刃を打ち交わしていくうちに相手の攻撃を躱しきれず、刃がかすって血が飛び散るようになった。しかし、ギラギラと光る二人の眼には戦意を喪失した様子はなく、むしろさらに激しさを増していく。
それでも互いに消耗していった。先に崩れたのはシェリアだった。突然、足に力が入らなくなり、ガクンと膝が折れた。戦いの興奮で気づいていなかったが、階段を飛び下りた際、膝を強く打っていたようだ。
体勢を崩したシェリアの頭上に、ゼルディアは剣を振り下ろした。シェリアはとっさに腕を掲げて剣を持つゼルディアの腕を受け止めた。ゼルディアは小刀を突き込む。シェリアはぎりぎりのところで躱して、その腕を脇にはさんでおさえた。脇腹を斬られ、血が飛び散る。二人は同時に頭突きをし合い、そのままの体勢で我慢比べがはじまった。
負傷したシェリアを、じりじりとゼルディアは押し返す。シェリアは負傷していない足をゼルディアの足に掛け、押し倒そうとした。ゼルディアは掛けられていないほうの足を引いて、逆に身体を前に倒して踏ん張ったが、その瞬間、シェリアはゼルディアの身体に肩を当てて背負い投げた。
階段に背中を叩きつけられたゼルディアは、息が詰まったような声を上げて、そのまま気を失った。
しかし、シェリアもそこで力つきた。壁にもたれて、ずるずると崩れ落ちた。足は完全に力を失い、立ち上がることができない。全身に受けた傷――特に脇腹に受けた傷から大量の血が流れている。
「――たいしたもんだ、と言っておこうか」
低い声がして、シェリアはぎょっとした。かすむ目でその声の主を見て、臍を噛んだ。狼人の男――リバルが階段を上がってくるところだった。
「く、そ……」
「無理はしないことだ。もう、立ち上がることもできまい」
そばまで来て、彼は気絶したゼルディアを抱え上げた。シェリアを見て苦笑する。
「お前も運んでやりたいが、一緒に連れ出すとほかの連中が驚くからな。こいつのあとで、お仲間のいるところまで運んでやる。少しの間、ここで休んでいろ」
シェリアは言葉を返す気力もなかった。踵を返したリバルの背を見つめていたが、重い瞼がそれを遮り、意識は闇の中に落ちていった。
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