七章 吸血鬼の城(4)
翌日の昼前、撤退したヴォスキエロ軍の残党を追っていた者たちが戻ってきた。ケイロスに呼び出されディノンたちは議場に向かった。
追手の報告によると、敵はシュベート城から北西、馬で駆けて一時間ほどのところにある渓谷で姿を消したという。夜通し捜索していると、かすかに獣の異臭があって、それをたどっていくと三つの谷底がぶつかるところに、五万を超える軍勢と大量の攻城兵器を発見した。
「変だな……」
五万、という数字にみんなが愕然とする中、ディノンはぼそっと呟いた。
「その五万の軍勢、本当に兵士だったか?」
不思議そうに顔を見合わせる追手たちに、ディノンは言った。
「頻繁にヴォスキエロに侵入してる冒険者の情報に誤りがなけりゃあ、敵の兵力はこっちとそんなに変わらねぇはずだ。一番新しい情報だと二万から、せいぜい三万程度だ。それをいきなり五万も、いったいどこから集めてきた?」
ケイロスが思い出したような顔をして、眉をひそめた。その報告は、彼から聞かされていた。
「そうか。たしかに変だ……」
「もしかしたら、その軍勢の半数以上はまともに訓練を受けていない烏合なんじゃねぇか? 民を徴用したとか、罪人を駆り立てたとか。敵はかなりの数の攻城兵器をそろえているようだし、これを運んで組み立てるだけなら、訓練の必要はねぇ。兵器の性能次第じゃ、多少訓練すれば実際に運用することも可能なはずだ」
なるほど、と呟く声がいくつかあった。
「それでも敵の兵士は三万――いや、首都の防衛のために多少兵を残しているだろうから、多く見積もって二万五千。攻城兵器の用意も万全だし、そんなんで攻め込まれたらこの城の防備じゃ守り切れねぇ」
小さく呻くような声があちこちでした。ディノンは彼らを見回して言葉を継いだ。
「だから、敵が攻めてくる前にこっちから打って出る」
はっとみながディノンを見た。
「二万五千を相手に?」
いや、とディノンは首を振った。
「真っ向から敵とぶつかる必要はねぇ」
ディノンは地図に視線を落とした。
「蛇の胴を突き、尾を叩き、振り返ったところを斬首する」
広大な谷間にそって大蛇のように連なる敵陣営をなぞりながら言い、最奥に置かれたひときわ大きな黒い駒を指で倒した。
その場の全員が、はっと息を呑んだ。
「狙いは、獣魔将か……」
ディノンは深く頷いた。
「今度こそ、奴の首を取る」
言って、レミルを見た。
「そのためにレミルの力を借りたい」
顔を上げたレミルは瞬き、イワンは難しい表情で考え込んだ。
「そなたの策を詳しく聞こう」
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