今日も、生きる。

輪ゴムとピン

第1話ー世間は湧いた。あの馬に。ー

その走りは最初から衝撃だった。20XX年8月9日。札幌6Rの2歳新馬戦。ゼッケン4番のコタノエスコート。鞍上は西岡祐輔。4コーナーでの手応えは抜群で観客は勝利を確信していた。その期待に応えるかのようにノーステッキで4馬身差の快勝。

「あの馬は怪物だぞ。」「三冠取れるんじゃね?」「かっこいい走りだわ」

世間はざわついた。しかし、あの走りが伝説になるとまでは思わなかった。

ある商社のデスクでは、「新馬戦強いなあ。これすごいぞ。な、吉岡。」

「皆川、俺そういうの興味ないって〜。」

競馬の話が飛び交っていた。

俺は西村商社の平社員23歳の吉岡祐武(よしおかひろむ)。さっきのやつは同僚の皆川尚史(みなかわしょうじ)。俺らは同じ大学で出会って同じ会社に就職して同じじ部署に配属された。皆川は大の競馬好きで毎週のように競馬場に通っている。

対照的に俺は競馬はもってのほかギャンブルすらしない。給料もほぼ貯金に回している。

定時退社のチャイムが鳴ったので早速家に帰ろうとする吉岡だが、皆川が肩を掴み「おいおい、残業しないのか〜?w」

「俺は仕事終わったから!」

と、キレ気味に返した。足早に会社を後にすると街中の大型ビジョンに、

「新馬戦快勝 コタノエスコート 東スポ杯2歳Sへ」の文字が。

「みんな競馬競馬、どんだけ好きなんだよ…」

呆れながらも少し顔に笑みを浮かせる吉岡だった。

続く…

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