若井南と出会った次の日、意識してか、コンタクトをしていない若井南を校内ですぐに見つけることができた。

「よっ」

　声を掛けると

「あっ、どうも」

　と少し気まずそうにする彼女。

「目のゴロゴロは大丈夫？」

「はい。大丈夫です。あの、先輩」

　先輩⋯⋯呼ばれ慣れているはずなのに、どうしてこんなにドキドキするんだろう。

「ん？　何？」

「昨日はすみませんでした。なんか、図書室に行かないとか嫌な感じで言ってしまって」

　気にしていたのか。確かに少しショックだったけど、俺はそこまで気にしていなかった。ただ、寂しかったくらいだ。

「気にすることないよ。そういうこともあるよね。それに、はっきりと言ってくれた方が俺的には合うと思うし」

　言ってから、ん？　と思う。

「あー、合うっていうのは、まあ、そのはっきり言ってくれる人の方が話しやすいってことで」

　なんで俺、テンパってるんだ⋯⋯

　俺のテンパリ具合など気にせず、彼女は落ち着いたまま言った。

「そういうこともあるよねって、なんか良いですね。それに私も、そう思います。はっきりしてる人の方が、傷つかないで済みますし」

　彼女の本来のテンションを知らないけれど、昨日も今日も、何だか本来の彼女ではない気がした。悲しんでいる気がした。

「会って二回目でこんなこと言うのも変だけどさ⋯⋯何かあった？」

　俺がそう言うと、彼女は顔を上げて驚いた顔をした。図星だったようだ。

「同じメガネを選んだよしみでも、二回しか話したことないから敢えて、でも。何でもいいから、話してみる気になったら図書室来てよ。今日の放課後は俺しかいないから。テスト期間は図書室閉めることになってるし、部活もないし。ちょっと悪い俺だけが図書室に侵入できるってわけ」

　彼女を元気づけたい思いだけだったと思う。それは言いたいことだったのか、言ってしまったことなのか、とにかく俺は話し終えると最高の笑顔（自分では見れないが）でその場を去った。そして、去った後で思う。若井南のことが好きかもしれないと。

　結局その日の放課後、若井南は図書室に現れなかった。そのまま何も起こらず、夏休みも終わり、初めて図書委員長らしいことを河辺さんと多良さんに言った九月の終わりの日になってしまう。

　あれから彼女を校内で見かけても、お互いに何も言わなかったし、何の予感もなかった。俺の一方的な気持ちが、少しずつ少しずつ切なく募るだけで、時は流れてゆく。