そういうこともあるよね〜溝口敬太と若井南〜1
初めて委員長らしいことを言えた。河辺さんのお陰で、それから河辺さんの彼氏になった藤沢航のお陰で、今のこの青春時代っていいな、なんて思った。図書室によくいる多良さんを見ていても、恋をして変わっていく姿って最高かもって思った。でも、逆もある。逆とはつまり、片想いだ。
河辺さんの本音を聞き、サボってた俺って最悪だったと反省していたゴールデンウィーク明け、五月の放課後。どちらかと言えば顔の広い俺が、初めて見る女の子を見つけた。なぜ目に入ったかというと、俺と同じメガネを掛けていたからだ。その小顔から推定すると、もちろん俺とサイズは違うが、特徴的なデザインを見る限り明らかに同じもの。
俺なら当たり前のことなのか、それともそうする運命だったのか、すぐにその子に話し掛けていた。
「あの。お揃いじゃないですか?」
いきなり声を掛けられ驚いた彼女は、俺のメガネを見た瞬間、ちょっと嫌な顔をした。げっという感じ。
「そ、そうですね。すみません、同じで」
名札には、“1年B組若井”と書かれていた。後輩だと分かると、それも一年生となると、相手は緊張してしまうだろうなと気づく。
「あっ、違うんだよ。嬉しくてつい声掛けちゃったけど、迷惑だったよね。ごめん」
迷惑がられることを考えないで声を掛けるなんて、馬鹿だと反省する。反省することがまた一つ増えた。
「私、普段はコンタクトなんですけど。今日はなんか目がゴロゴロして、メガネだったんです」
「そうだったんだ。このメガネ、自分で選んどきながら言うのもなんだけど、めっちゃ格好良いよね。オシャレだし」
そう言うと、彼女はようやく笑った。
「はい。一目惚れしました。それですぐに買いました」
一目惚れか⋯⋯
「俺も。そんな感じ。えーと、ごめんね。本当にいきなり。じゃあ」
笑いながらもどこか哀しげな彼女を、これ以上引き留めることはできないと思った。
「いいえ」
俺は急に気まずくなり、若干圧倒されていた彼女はすぐに立ち去っていく。
「あのっ!」
俺はその後ろ姿に声を掛けた。また迷惑がられるのに⋯⋯と思いながらも。
「はい」
「俺、溝口敬太っていいます。三年で、帰宅部。でも図書委員です。もし読書好きなら今度図書室来てください」
「ええと、私は若井南です。一年で、剣道部に所属してます」
「すごっ。格好良いね」
「いいえ。小さい頃からやってるので、それだけの理由で入部しました。あと、読書は一年に一冊ってところです。図書室は行きません」
キッパリとそう言うとお辞儀をし、彼女は去ってしまった。なんとなく引っ掛かりを感じた。図書室に行かないなんて、そんなはっきり断ることないのに、とも思う。
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