第14話
☆
「あら? なんだかちょっと会わない内にお仲間が増えました?」
「何を言ってるんですかレアーナさん。 こちらのメルさんが僕の初めてのパーティーメンバーです。 なので増えましたか? という質問は少々おかしいかと」
「ひどいですティーケル様! どうして私を仲間はずれにするのですか! もしかしてティーケル様も、アハト族がお嫌いなのですか?」
早朝からひどい状況だ。
レアーナさんからは冷ややかな視線を向けられ、涙でうるうるした瞳を向けてくるユティたん。 そんでもって立ちながら器用に居眠り漕いで、鼻提灯を作ってるメルさん。
アハト族と言うワードと共に捨てられたチワワみたいな視線を向けられると、さすがの俺も心が傷んでしまう。
『もう、連れてってあげればいいじゃない。 またこの子を一人にしたら面倒な奴らに絡まれるかもしれないでしょ?』
『そうは言ってもピピリッタ氏、この子は間違いなくヒロイン候補! しかも見た目がロリだ! 絵面的にお巡りさんを呼ばれる危険性が……』
『ここは異世界なんだからそんな物騒なもの呼ばれないわよ』
ピピリッタ氏から脳内説得を受け、俺は渋々と言った流れでユティたんの頭をゲシゲシと撫でてやった。
「ったくしょーがないなー。 危ない旅になるかもしれないから俺の言う事はちゃんと聞くんだぞ?」
「もちろんです! ティーケル様のために私は頑張るのです!」
「と言うわけでレアーナさん。 パーティーメンバーは二人追加でおなしゃっす!」
「何そのムカつく頼み方。 まあいいです。 じゃあさっさと向かいますよ」
そう言って街の入り口に待機させていた馬車に乗り込んでいくレアーナさん。 この馬車は俺たちがこれから旅をするために、ギルドマスターが厚意で譲ってくれた馬車だ。
つまりこれは、俺が移動するために使う馬車。 その馬車に、レアーナさんがしれっと乗車している。
はっきり言って意味がわからない。
「あの、レアーナさん? それって俺がもらった馬車ですよね?」
「はい? 昨日ギルドマスターの話聞いてなかったんですか? これはあげたんじゃなくて貸したんです」
「あ、まあそこら辺は置いといて、なんでレアーナさんが乗車してるんです?」
「なんでって、一緒に行くからに決まってるでしょ?」
「あなた受付嬢ですよね、仕事ほっぽって俺の旅に同行してもいいんですか?」
「何を言ってるんですかあなた! これは仕事ですよ! 誰があなたなんかと好き好んで旅を一緒にするんですか!」
心に痛恨の一撃を食らった。 メンタルは大崩壊だ。
俺は涙目で馬車に乗車する。 脳内にはピピリッタ氏の爆笑が響き、心配そうな顔で俺の背中をすりすりしてくれるユティたん。
ちなみにメルさんは、いつの間にかしれっと馬車に乗っていて、寝息を響かせていた。
これから俺たちが向かうのは大都市ヘルシッキ! ……ではなく。
ラピランドと言う北の方にある地域である。 そこは影の国ポホーラの入り口があり、サーミー族という遊牧民が多く暮らす土地だとか。
そこまでの道のりはめちゃくちゃ寒いらしいので、途中の村などでトナカイの毛皮を加工したコートを購入した方がいいらしい。
最初の街に到着するなり事件続きで目まぐるしい日々だったが、馬車で移動している最中は特にやる事もないから暇でしょうがないだろう。
そんな事を思いながらぼんやりと馬車の外を眺めていた。
ユティたんとレアーナさんは仲良さそうに会話に花を咲かせており、しばらく馬車が進んだところで目を覚ましたメルさんは何やら肩からかけていたバックから占いでよく使われるようなガラス玉を取り出し、何やらぶつぶつと念仏を唱え始めている。
少し興味が湧いたのでメルさんの様子を横目で伺っていると、ガラス玉の中が紺色に染まり、紺色になったガラス玉のところどころにキラキラと夜空のような輝きが目につき始めた。
レアーナさんもメルさんの様子に気がついたのだろう、興味深げな顔でガラス玉に視線を釘付けにしている。
「もしかしてメルヴィさん。 それって
「ええ、占星術と三賢人の一人、イルマーリン様は密接な関係にあります。 メルがイルメリと仲がいいのはそういう関係があるのです」
「そーなんですか、ちなみに占星術でどんなことが占えるんです?」
「なんでも占えますよ? 例えば、この旅がどのような旅になるのか、旅の運命を占ってあげましょう!」
メルさんとレアーナさんは会って間もないと言うのにすごく仲良くなっているようだ。 レアーナさんのコミュ力は物凄いのかもしれない、かなり毒舌すぎて軽くトラウマものだけど。
そんなことよりさっきのメルさんの話が引っかかる。
『ピピリッタ氏、質問』
『何かしら?』
『三賢人? のイルマーリンさんと、占星術ってなんの関係があるの?』
さっきメルさんが賢人イルマーリンと占星術は密接な関係にあると言っていた。 俺の記憶では占星術とは太陽系とか天体の動きに応じて未来を占うという
俺は馬車の窓から肘を出し、馬車に吹き付けるほどよい風を顔に浴びながらピピリッタ氏に質問してみる。
『いやいや、考えればわかるでしょ? イルマーリンは大空を
『は? 嘘でしょ? イルマーリンさんって空作ったの? もはや神様じゃん』
『神として
『いやいや、大神ウォッコ様なら知ってるっしょ? ちょっと聞いてみようぜ?』
『あんたね! ウォッコ様を便利辞典みたいに扱うんじゃないわよ! バチが当たるわよ!』
バチが当たるとか縁起でもないこと言うなよ。 もしかして面倒なイベントのフラグか?
なーんて考えていた結果、メルさんが大騒ぎし始めた。
「ななな! なんてことなの! 馬車を止めてぇぇぇぇぇ! 早く! メルたちに、今すぐ災いが訪れるわよぉぉぉぉぉ!」
「どどどどど、どうしたんですかメルさん! 一体何が占えたんですか!」
メルさんが甲高い悲鳴をあげ、ユティたんがびくりと肩を跳ねさせている。 これはもしかしなくても、
『ピピリッタ氏が余計なこと言ったから面倒なことになったんだが?』
『は? あたしのせいにしないでくれる?』
馬車の中は大騒ぎだ。 ギルドマスターが俺のために専属で雇ってくれた御者さんが力一杯に手綱を引き、慌てて馬を止めたのだが……
耳をすませば聞こえてくる、なんかでかい生物の足音が……
「嘘でしょ? どうして街道にルナガルムの群れなんかが現れるのよ!」
「大変なのですティーケル様! ルナガルムがあんなにたくさん襲ってきているのです!」
「ああ、この世の終わりだわ! あんな大量のルナガルムの群れ、きっとピエサンキの街が滅びる前兆! 勇者様! どうかお救いの手を!」
三人揃って慌てふためいており、御者さんに関しては怯えて暴れてだした馬を必死に
俺は目を凝らしてみんなの視線を追いかけてみると、黙々と上がる土煙の中に、でっけぇ狼が大量にいるのを確認できた。
額に三日月のような模様が入った紺色の狼で、大きさはこの距離で見てもでかいのだから、目の前に立たれたら二階建ての一軒家ほどの大きさだろうか?
「え、なに? あれって強いの?」
「ななな、何を言ってるんですかティーケル様!」
「あなた、筋金入りのバカなの? ルナガルムは一頭だけでも
「どうか大神ウォッコ様よ、我々をお守り下さい! どうか、どうかお命だけでもお守り下さい〜」
俺の腰にしがみついてプルプル震えるユティたんの頭を撫でながら、目が血走ってるレアーナさんの説明に耳を傾ける。
なんだか話を聞いただけでもやばそうだな。
「でも相手はモンスターだろ? 遠慮なくぶっ飛ばしていいんだよな?」
「ぅえ、遠慮は、確かにいらなっ、ぅえぇっ? あれを倒す気でいるんですか! あなた、本当に何者なんです?」
レアーナさんが動揺しすぎて意味のわからない口調になっている。 俺は確かにギルドマスターには遅れを取ったが、あの時は人間相手にどの程度本気を出していいのかわからなかったからである。
要は手加減してたってことになるな。 だが今回の相手は手加減なしにぶっ飛ばせるモンスターときた。
こうなると俺の力がどんなもんか、試してやるのもやぶさかではない。
準備運動がてら肩をぐるぐる回しながら馬車を降り、
しかし、面倒なことが一つだけある。
「あのー、レアーナさんたち。 助かりたいのなら、今から起きることは絶対に他言無用でおなしゃーっす」
「助かるんだったら絶対にしゃべりませんから! そんな悠長に話してないで早く助けてくださいよぉぉぉぉぉ!」
「どうかお救いを! どうかお救いをぉぉぉ! 大神ウォッコ様!」
頭を抱えて
他言無用という
さて、
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