労く

 カキンッ…… カキンッ……カキンッ

 振り上げては下ろしてを繰り返す。何も出てきやしないのに、欠けたツルハシを何度も地面に叩きつける。




 「意義なんてないよ」


 一部の人間の懐を潤わせるために、私は今日も頭を下げる。先のわからないままに、言われた通りを少し超えるくらいに。1ミリも失敗は許されない。




 自動販売機に差し込んだ千円札。

 いくら残業しても重たくならない財布。

 おもちゃみたいな味のメロンソーダが胃酸と調和する。明日死んだら、紙切れになるのに。張り付く喉、冷や汗が流れる。こんなモノのために不規則な心臓が踊る。




  誰かに必要とされたいと生きてもいいと思いたいから、社会貢献と言うのに。多くの人に必要とされるものばかり生み出せればいいのに。




 手の傷が少し増えた。穢れていると何度も水で流した両手。せめて綺麗に見えようと日焼けを避け続けていた肌が小麦色になってきた。それでも、傷だらけの玄人の両手と瞳に憧れる。




 お世話になっております。


 お手数ですが、期日までにご連絡ください。


 ご確認よろしくお願いいたします。


 ご迷惑をおかけして申し訳ありません。


 こんなクズでも使い道はあります。どうぞこき使ってやって下さい。




 明日はない。終わりはない。誰も何も保証しない。幸せになりたい。

 それだけの願いを叶えるのに残りの寿命で足りるだろうか。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る