誰が為の奇襲
ゆっくりと昼食を食べた四人は祭りのメインに向かう途中であった。
「これから起きることって知ってるの?」
「いや、知らないな」
イルエがアルフェルトにそう言った。
どうやらイルエはこの話は他の二人に向けて話していないが、ユイとシスティはそっと耳を傾ける。
「東西南北の大通りから大きな人形が通って、それが中央の城までたどり着いた時に花火が上がるの」
「そんなことがあるのか。なかなか面白そうなイベントだ」
「行ってみようよ」
システィがイルエの言葉にそう反応するとあからさまにイルエが嫌悪感を示した。
しかし、アルフェルトと一緒に行きたいことが大きいのか、すぐに態度を正した。
「そうね。行ってみたいわね」
「ボクも行ってみたい〜」
「そう、こっちよ」
二人がそう言うとイルエはアルフェルトの裾を引っ張りながらそう言った。
アルフェルトはイルエに連れられるように王都の中央に向かう。
「まだ来ていないようね」
「時刻的にはもうそろそろなんだけど……」
そうしていると西通りから大きな人形が揺れながらこちらにゆっくりと向かってきている。
イルエの説明によるとあの人形は西を象徴する神様のだそうだ。
東西南北から集まった神様がこの王都に恵をもたらしたと言うことを表現しているようだ。
「あれ。いいよね。かっこいい」
「なるほど、ではあれも人形というやつか」
アルフェルトが南通りを指差すと、その先には大きな禍々しい神様というよりかは悪魔に近いような体をしたものが立っていた。
「えっと、あれは明らかに違うよね」
システィがそういうと次第に人々の声が悲鳴に変わる。
「あれは……魔族!」
イルエの一声で三人は警戒態勢に入った。
「あれほどの大きさのものが魔族か。想定していたのよりかは相当大きいな」
「うん、だからあれに単独で挑むのは危険なの」
確かにイルエが以前、魔族に怯えていたと言っていた理由に頷ける。
人間は自分よりも遥かに大きい巨体を目の当たりにした時、自然と恐怖を感じるものだ。それは防衛本能であるため仕方ない。
しかし、そんな防衛本能はアルフェルトやシスティ、ユイには存在しない。
守るべきことがはっきりしているからこそ、そこまで覚悟ができるのである。
「俺が足止めをする。イルエはその間に応援を呼んでくれないか」
「私だって戦えるわ」
「情報の伝達は重要だ。はっきり言って前衛で俺らが戦うよりも大切な役割だ」
戦略において情報の伝達は一番大切なことである。
それならイルエにここを任せる方が適任と言えるだろう。
「わかった。絶対に、死なないでね」
「この程度で死ぬような人間ではない」
そういうとイルエの耳は赤くなり、目を伏せる。
「……そんなこと、知ってるから」
「そうか」
「じゃ、伝えてくるね」
魔法陣を自分の足元に展開し、高速で飛翔して城の方へと向かって行った。
「じゃあ、あれをどうにかしなければだよね」
「ああ、あの様子じゃまともに弾丸も通らないだろう」
アルフェルトが言うように魔族は非常に強力な肉体を持っているようだ。それに魔力で 防御していることもあり弾丸は意味をなさない。
「私が斬りかかってみようかしら」
そう言ってユイは鞘から剣を引き抜こうとする。しかし、その手をアルフェルトが止める。
「ここは俺が少し力比べをしてもいいか」
「力比べ?」
「魔力の強さを比べる」
当然魔族だから魔力に長けている種族なのだろう。しかし、それがどの程度の強さなのかを知らなければ対策も戦略も組めないからである。
「リスクがないなら、いいよ」
システィがそう言う。
それで何かわかるのなら、それに越したことはない。
「俺が倒れるリスクはない」
そう言ってアルフェルトは魔族に向かって手のひらを向け、魔力を集中させる。
「魔族の力とやらを見せてもらおうか」
ドン! と強烈な音と同時に魔族の勢いが止まる。
どうやらアルフェルトの魔力が強力なために魔族の進行を止めることができたようだ。
「おお! すごい!」
「ユイ、市民の避難誘導に回ってくれるか」
「わかったわ」
アルフェルトの言葉にユイは周囲にいる市民を誘導し始める。
「システィ、ここで時間を稼いでおくから自分の銃を持ってきた方がいいかもな」
「うん。ここからだと少し時間かかりそうだけど」
「オレとユイでなんとかしよう」
「ありがと」
そう言ってシスティは宿の方へと走り出した。
「強力な魔力を持っているとは聞いていたが、ここまでとはな」
アルフェルトも最強の魔力を持っているとはいえ、それは人間の中での話。
人間以上の魔力を有している魔族なら強力なのは当然だろう。そして、それと互角以上の彼はまさしく人類最強の魔術師と言えよう。
「アルフェルト、市民はもう移動したわ」
「ああ、そろそろ戦ってみるとするか」
「そうね。力試しの方はどうだった」
そう言うとアルフェルトは魔力の放出を止める。
「おおよそオレの三分の一程度の力だな」
「あなた、本当に人間なのかしら」
「これでも人間をしている。さて、どう戦おうか」
アルフェルトはそうユイに話しかける。
この間にも魔族は屋台を破壊しながら歩いてきている。
「そうね。巨体ではあるけど、なんとか戦えそうね。私が先行するわ」
「ふむ、あとでシスティも銃を持ってきてくれるようだからな。オレらが時間を稼ぐとしよう」
「ええ」
ユイはそう言うと勢いよく駆け出し、魔族の足元に斬りかかる。
当然魔族の分厚い皮膚はなかなか斬れるものではなく、苦戦する。
「硬いわね」
一旦攻撃をやめ、ユイは魔族から距離を取る。
魔族は自身の魔力を右足にため、彼女に向かって蹴りを繰り出す。
「速いっ……」
魔族の蹴りは予想に反して高速であったのだ。
ユイはその攻撃を予測していたために避けることができた。しかし、その風圧は強烈なもので、バランスを少し崩してしまう。
「!!」
地面に手を突きそうになった瞬間、突風が地面から発生しユイを持ち上げる。
アルフェルトが発動した魔術だ。以前、彼女が提案していたことをアルフェルトが実演したのだ。
「立てるか」
「ええ、ありがとう」
どうやら魔術は成功したようで、ユイはバランスを崩さずにすぐに体勢を整えることができた。
「グアアア!」
どうやら魔族もアルフェルトたちのことを敵だと認識したのか、雄叫びを上げる。
「ふむ、畳み掛けるとするか」
「そうね」
ユイはそう言うと剣を構え、アルフェルトはその背後に立ちすぐにフォローできる態勢を取る。
「ヌウ!」
アルフェルトたちを見た途端、魔族は走り出しユイを攻撃する。
先ほどは蹴りであったが、今度は拳で殴りかかってくるようだ。
あの巨体から繰り出される一撃は常人であれば、押し潰されるであろう。
「風よ、守れ」
アルフェルトの一声で、突風が魔族の拳にまとわりつく。
「!!」
魔族は突風に絡まれて、力が出ない。
それほどの強力な風は魔族でも取り払うことはできないようだ。
「いけそうか」
「助かるわ」
そう言ってユイは駆け出すと、一気に魔族の足を土台として上半身の高さまで飛び上がる。
「や!」
そう言って振り下ろされた剣はアルフェルトの魔術がかかった鎧の効果により、強力な一撃となる。
そして、その一撃は見事に魔族の左腕に直撃した。
「ガアアア!」
一撃で魔族の腕は斬り落とされ、魔族が悶える。
「普通に斬れたわ」
「それはよかった」
どうやらアルフェルトの魔術は効果が十分にあったようだ。
しかし、まだ魔族は倒れていない。
「お待たせ!」
すると、背後からシスティの声が聞こえてきた。
大きな銃を肩に背負っており、無事に持ってこれたようだ。
「うん、いつでも撃てるよ」
「そうか。少し離れたところから、ユイの支援を頼めるか」
「了解!」
システィはそう言って銃を持って駆け出した。
しばらくすると、銃声が鳴り響く。
その強烈な音はこの市場を轟かせる。空気が動く。
「グガア!」
左胸に直撃した銃弾は魔族の筋肉を抉る。しかし、それだけでは致命打にはならない。
「ユイ! 狙えるか!」
「ええ!」
アルフェルトの魔術とユイの斬撃がうまく連携し、魔族の抉られた胸に二人の攻撃が交差する。
「!!」
当然、魔族といえど心臓を破壊されれば動きは止まる。
「うまくいったな」
「そうね。アルフェルトのおかげよ」
一瞬危ない場面があったが、それらは全てアルフェルトの魔術がカバーしてくれたのだ。
強化された鎧、魔術や長距離狙撃で支援してくれている仲間たち。そんな安心感がユイの攻撃を確実にしていく。
どうやら三人はお互いに信頼し合う関係にまで発展していったようだ。
しばらくすると、イルエが宮殿から騎士団を連れて応援しに来てくれた。
「魔族はどこ?」
「あそこで倒れているのがそうだ」
そうアルフェルトが指差した方をみるとそこには胸を完全に破壊された魔族が倒れていた。
「私がここを離れてから十分ほどで倒せるなんて……」
「確かに強力な魔力を持っていたが、頭が良くなかったようだな。オレらの連携にうまく対応できなかった」
「あなたたち、本当にどこから来たの?」
「そのことについては答えられないよー」
そう聞かれるとシスティが悪戯顔で答える。
こことは別の世界から来たとは到底言えることではないからである。そのことは誰にも言えないのである。
「そう、でもアルフェルト様が最強ということは十分理解できたわ」
「それは……」
「ボクだって頑張ったんだもん!」
アルフェルトの言葉を遮るようにシスティはムッとした表情でそう口を開いた。
今回はあまり目立ってはいないが、システィの狙撃で相手に急所ができたのだから彼女の活躍があっての討伐と言えよう。
「遠くの方から銃弾を撃っていただけにみえるのだけど……」
確かに他人から見ればそうなのだが、一撃で完璧に命中させるのは普通はできない。それに扱いが難しい銃を扱っている。
そんな彼女は縁の下の力持ちなのだ。
「その銃弾が相手に弱点を作ったんだ」
そうアルフェルトが解説すると、少しだけ納得したのか小さく頷いた。
「そうなのね。でもそれにしても最後のアルフェルトの魔術は凄かったよ」
「何、あの程度ならお前もできるだろう」
「できるかできないかで言えばそうだけど、咄嗟には難しいよ」
先ほどの凛々しい雰囲気はなくなり、乙女のような恥じらいを持ちながらそうイルエは言った。
「ちょっと馴れ馴れしいよ!」
「システィ、無駄だわ」
突っ掛かりに行こうとするシスティだが、すぐにユイに止められる。
イルエはこの世界の高位の魔術師である。当然ながら、今のシスティには近距離で勝てる見込みはない。
「ふん!」
そうイルエから顔を背けたシスティであった。
三つの世界からこんにちは! 結坂有 @YuisakaYu
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