朝市を歩いて

 翌日、外の賑やかな声に三人は目を覚ます。

 まだ日が昇ってまもないと言うのにすでに大通りは賑わっていたのだ。


「朝早いのにみんな楽しそうね」

「祭りというのはこういうものなのか」

「うーん、ここまで早いのは初めてだけどここならそうなんじゃないかな」


 少し早過ぎる朝の賑わいに戸惑いながらも、そんな会話をして階段を降りていく。

 そして、その内容を聞いていたのかテルミーが大きな紙袋を持って挨拶をしてくる。


「おはようなのにゃ。感謝祭はいつも朝市をやっていてそれでみんな買い物を楽しんでいるのにゃ」


 そう言ってテルミーは先ほど買い出しに行ってきたのであろう食材を手に持って自慢する。


「なるほど、朝市か」

「それなら納得だね」

「じゃ、早速この食材を使って朝食にするのにゃ」


 そう言ってテルミーは朝市で手に入れた食材を使って朝食を作りに行ったのであった。

 朝市で手に入れた食材は全て新鮮なもので、非常に美味しい朝食であったのだ。


 朝のいつもより新鮮な食材での朝食を済ませた三人は必要最低限の装備を持って感謝祭に向かうことにした。


「やっぱり祭りはいいね」


 大通りを歩いているとシスティがそう呟いた。

 確かに大通りの装飾は華やかで活気ある街中は歩いているだけで心地がいい。


「いつもの時間でも十分に活気があるのだが、祝日となればさらに増すな」

「ええ、ここだけ見ていると平和だと錯覚してしまいそうね」


 ユイが言う通り、この王都だけ見ていると平和そのものだ。しかし、城壁から少しでも離れればそこは魔物の巣窟であったりする。


「そんなことはいいからさ。楽しも?」


 そうシスティはムッと頬を膨らませて二人に話す。

 楽しい時間にそう言ったことを考えたくないのは当たり前であろう。


「そうね。楽しみましょう」


 ユイはシスティの言葉を受け入れる。

 しばらく歩いているとシスティは屋台の一つを指差す。どうやらアクセサリーを売っているようだ。


「あそこ、綺麗なもの売ってるね」

「魔石を使ったアクセサリー、どんなものかしら」


 屋台で売っているアクセサリーには魔石が埋め込まれている。


「ふむ、これは色々と使えそうだな」


 そのアクセサリーを見てアルフェルトはあることを考える。

 魔石ということは魔力を一定量貯めることができる。そうすれば、戦闘で役に立つかもしれない。


「じゃ、ボクはこれにするよ」


 そんなアルフェルトの言葉を聞き流すようにシスティはアクセサリーの一つを手に取る。

 手に取ったものは黄色い魔石が埋め込まれたブレスレットで黄色は彼女の好きな色のようだ。


「ユイも一つ買うといい」

「どうしてかしら」

「今後役に立つものだろうからな。それにアクセサリーとしても非常に似合う」

「え、そう。じゃ私も一つ選ぶわ」


 そう言ってユイもシスティに混ざってアクセサリーの一つを選ぶことにした。

 彼女の選んだものは非常にシンプルなもので赤く小さな魔石の付いたいたネックレスを手にしたのであった。

 その様子を見てアルフェルトはそれらをどう利用するべきか、少し思案するのであった。


 そして、三人は他の屋台を歩いている。

 屋台では様々な商品があり、中には壺のような高級なものからアクセサリーのようなものまである。

 さらに食べ物も多く売られている。

 フランクフルトなどのメジャーなものから少し変わった地方料理まで全てが揃っているようだ。

 もちろん王都で唯一の大きなイベントであるからそれは当然であろう。


「いっぱい食べたね」

「ああ、これ以上にないくらいに食べた」


 この世界独自の料理など彼らにとって刺激的だったようだ。

 それはユイも同じ考えのようだ。


「そうね。この国のことがよくわかるわね」


 王都にはない地方の料理も多く屋台にあるため、どこか新鮮である。


「確かに今までに見た事のないものが多くあるな」

「テルミーちゃんも面白い料理作ってくれるけど、こうした料理も美味しいし面白いね」


 そんな話をしていると、奥に見覚えのあるフードが見えた。


「あ……」

「イルエも感謝祭に来ていたのか」

「もしかして、アルフェルト様もですか?」


 少し控えめにイルエはそう言う。


「そんなところだ」

「で、でしたら、私と一緒に……」

「ダメだよ」


 間髪入れずに否定したのはシスティであった。


「なんでシスティがいるのよ」


 先ほどの恥じらいを持ったような口調とは裏腹に強めの口調でイルエはそう言った。


「当たり前でしょ。同じ”チーム”なんだから」


 そうシスティは『チーム』を強調するようにイルエに言う。

 どうやらシスティはアルフェルトを取られたくないようだ。

 仲間想い、とはまた別の何かなのだろう。


「それ言ったら私も同じチームよ」

「ボクたちは、ここに来る前からいるの!」


 子供が駄駄をこねるようにそう言う。

 確かにここにいる三人は女神に転生されてここに来たわけだが、その時からチーム意識があったかと言えば少し違う気がする。


「と言っても期間的にいえば、そんなに長くはない気がするがな」

「そんなこと言わないの」

「いいわ、仕方がないから四人で祭りを回りましょう」


 イルエはため息を吐きながら気怠げそうに言った。

 その発言に憤りを感じてはいるものの、仲間だとは認識しているようでシスティは軽く頷いてそれを肯定した。


「うん、わかった。それでいいよ」

「なんか不服そうね。ならそれでいいわ」


 そう言うとイルエはすぐに俺の横にくっつくように並んだ。


「なんか上から目線……まぁ別にいいけど」


 不服をあらわにしたところで目線を逸らしたシスティはそのまま屋台の道を歩いていく。

 それに続くように三人も後に続くのであった。


「じゃ、そろそろ昼食にしようかしら」

「あ、サンセー」

「イルエはそれでもいいか」


 二人はどうやら昼食を食べる勢いであるため、アルフェルトはイルエに声をかけた。


「あ、えっと。アルフェルト様が食べるなら……」


 彼が声をかけたと同時にイルエはびくっと肩を震わせて、頬を両手で抑えながら返事する。


「なるほど、それなら昼食にしようか」

「はい」


 そう恥じらいながらイルエは頷いた。

 そうして、四人は昼食を選ぶために屋台を歩いて行った。


   ◆◆◆


 その頃、屋台の裏ではフードを深く被った男性が数人集まっていた。


「いよいよ、開始の時刻だ」


 そう言って男が腕時計を見る。時刻は十二時を超えた頃だ。


「おうよ、ついに革命の時が来たって感じだ」

「もう覚悟は決めている。この王都はもう汚れているからな」


 男の一人が拳同士を叩きつけて、自分を鼓舞する。

 すると、奥からフードを被っていても大柄なのがわかるほどの大男がやってきた。


「我々がやることは一つ、この王都を滅ぼすことだ。わかっているな」

「当然だ」「当たり前だろ」「早くやりましょう」


 集まった数人の男性はそれぞれ口にする。


「その勢いに任せて突っ切ろうぜ」

「「おう」」


 そう言って男たちは歩き始めた。

 その先はこの感謝祭の一番のイベントである。

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