俺がこの世界の諸事情等を振り返りながら一人旅を満喫する件

俺が長年暮らしていた赤竜の里を旅立って、早20日が経過した。


この異世界でも暦は前世の地球と同じく、基本的にひと月は30日で、閏年がある。

もっとも、竜として前世よりも圧倒的に長い年月をこの世界で過ごした俺にとって、その感覚は人間族の社会に交じって冒険者生活をしていたときの名残の様なものだった。


里の外は殺風景な岩山か荒野だけだったから、里の結界の中に俺が四季を設定していたのも、今となっては苦笑いが浮かんでくる感傷だと俺は自嘲せざるをえなかった。


俺は、今はヒトの姿で、赤竜の里のある所謂いわゆる、一般的な人間族やエルフ等の亜人種、魔物達が住むのには適さない火山の麓から、多くの魔物が生息している大森林の中を進んでいる。


もちろん、本来の竜の姿で、大森林の上空を飛行して通過することはできるのだが、それをやってしまうと、大森林に生息している魔物共が緑竜とはいえ、最上位種である宝石竜の姿を目にして大混乱になることは想像に難くなく、魔物スタン大氾濫ピードが発生してしまう。


そうなると、暴走した魔物どもを鎮静化するという、とてつもなく面倒な後始末をしなければならない羽目になる。


魔物大氾濫は殲滅が一番ラクな解決策ではあるが、それをやってしまうと、この大森林全体の生態系に大きな悪影響がでてしまうので、それはあくまで最終手段と、俺は同じ過ちを犯した今は亡き親友と共に師匠に激しい雷を実際に落とされたときに固く誓った。


故に以前、やらかしてしまって、その後始末の大変さを経験しているので、俺は大人しくヒトの姿で、道なき道を進んでいき、必要に応じて行く手を阻む大木を伐採して道を文字通り、切り拓きながら、歩を進めている。


閑話休題それはさておき、この世界の食文化は前世地球のものと比べると全体的に発展途上と言わざるを得ないレベルだ。


魔力が素材の旨味にも関連する影響で、塩だけで済ます地域もあれば、更に香草や香辛料を使って研究を繰り返し、試行錯誤を重ねて後の世代へと引き継いでいる地域もあった。


俺がヒトの社会に紛れて冒険者として生活したころに前世知識を使って、相応の数えるのも馬鹿馬鹿しくなる数の失敗を積み重ねて、醤油や味噌、ソース、マヨネーズと言ったラノベの異世界転生ものの定番である調味料は全て製作し、レシピを作って量産にも成功した。


移動の時間は当然、鬱蒼うっそうと茂る森という障害物の影響で、飛行していくよりもかかってしまうが、特に急いで先に進む理由は寿命とはほぼ無縁の存在になった俺にはない。


日々の食料と消耗品の魔導具の素材となる魔物達が向こうから来てくれるので、それらの素材や食材としての鮮度を落とさずに瞬殺できる俺としては態々獲物が向こうからこうしてやって来てくれるから、手間が省けて助かっている。


工事現場の削岩機が発する様な断続的な轟音を奏でる俺の打撃を受け、

「GWOOOOOU⁉」

深い森の中に断末魔をあげて、本日三体目のキングベヒーモスが大きな音をたてて、その巨体を横たえた。


現在位置は森の〔中層〕くらいだから、俺のヒトの姿を侮った、身の程知らずの魔物共がこうして襲いかかってきている。当然全て返り討ちにして、いろいろおいしくいただいている。


いずれもこの世界のヒトの身で俺の様に簡単に斃せる存在ではない。


俺がこのキングベヒーモスに放った攻撃も、一瞬で億の打撃を放つという、「某鬼をも屠る滅の拳を振るう神を超えし者の一瞬千撃」と言われる代表技をこの異世界で再現しようとした成果だから、楽勝だったと言える。


ちなみに、ルベウスと共に、一時期、この世界のこの身で、どこまで再現できるやれるか突き詰めて、マンガやゲーム、アニメの技のいくつかを武技スキルアーツとして再現して使えるようになっている。


そして、キングベヒーモスを屠ったこの技は、基本的にこの世界在来の人間族では、放ったときに発生する衝撃対策や消費する魔力等、諸々の発動条件をほとんど満たせないため使えない。


その上、発動が可能な使い手は俺の知る限り、俺とルベウス、他に二人だけだ。


もちろん、普通に襲撃者達と戦っても今の俺であれば負けることはないが、俺にとって余計な時間しかかからない。

時間に余裕はあるが、流石に時間の無駄は、俺は許容できない。


だから、鎧袖一触よりも酷い勢いで俺は襲撃者達を見敵殲滅サーチアンドデストロイしている。

今日の夕食のメインはキングベヒーモスのステーキで確定だ。


ちなみに、前世のアニメやラノベなどの異世界転生もので、ほぼ確実に登場しているチートの空間収納やインベントリ、アイテムボックスといった類の鉄板ものは、この世界でもスキル、魔術、アイテム(魔導具)、各種で存在する。

相応に苦労させられたが、俺はそれら全てを所持・習得している。


【空間収納】のスキルは冒険者時代にスキルが取得できる『スキルオーブ』、【魔術】の【空間収納】は掘り出し物の『魔術巻物スクロール』、魔導具の『アイテムボックス』は名前こそ違うけれども【空間収納】とほぼ・・同じ性能だったので、用途に合わせて使い分けている。


ダンジョンの宝箱から取得した魔導具の『アイテムボックス』はスキルと魔術の【空間収納】と異なり、収納容量や温度、時間経過設定などが固定だった。

それに対して、スキルと魔術の【空間収納】は希少で、容量が少なかった。


故に、他の設定が不便な『アイテムボックス』でも高値で取引されている貴重品だった。俺にとってダンジョンで取得した『アイテムボックス』は使い勝手が悪く、不満点が満載だった。


それを解消すべく、【付与魔術】を使って、俺は魔術の【空間収納】を付与する形で、試行錯誤の研究を今も繰り返し、魔導具の『アイテムボックス』を3桁を超える数で自作している。


改修を重ねた結果、今では収納容量や収納内温度設定、収納内時間設定も自由に設定変更ができるため、ダンジョンで取得したダンジョン産の『アイテムボックス』よりも自作の『アイテムボックス』を重宝している。


また、絶対に他人に渡さない重要な物などは使用者が絶命した際に収納空間が消滅するスキルの【空間収納】にしまい、それよりも重要度は下がるが、使用頻度が高い大切な品々は即応性の高い魔術の【空間収納】、普段使いの魔導具や消耗前提の物品、世間に出して問題ないと判断している試作魔導具等は前世のミリタリーバックパックのデザインで擬装している『アイテムボックス』に収納している。


他にも俺は、冒険者時代に前世の生活家電等を参考にして開発に成功した魔導具を複数所持している。


上下水道機能をはじめとした生活インフラ魔導具を完備した警備ゴーレム付きの一軒家や、この大森林では障害物が多くて通れる道がないため使えないが、馬の代わりに馬型ゴーレムが引くゴーレム馬車など、いろいろな物を思いつくまま、気の向くままにこれまで製作してきて背中の自作『アイテムボックス』に入れている。


その1つである魔導チェーンソーで、俺の歩行の邪魔をする木や樹木に擬態して襲いかかってくるトレント系の魔物を簡単に伐採し、【生活魔術】で伐った木を乾燥させて木材にしている。


それから、俺は魔導具完備の家でバランスのいい食事を摂り、今日もしっかり疲れをとって明日に備える予定だ。

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