第9話(三)

 急に背後のドアから間宮が叫んできた。

「───────」

 ぼかんとして、俺は振り返る。藤井先輩も同様だ。

 ───だが、

「ちょっと、邪魔だったかな」

 藤井先輩が調子に乗って、ニンマリして言った。ぐいっと俺の肩を引き寄せる。

「やめて下さい。そういうの」

 俺は即座に咎める。

「いいから離れて下さい!」

 俺と藤井先輩の間に入って、間宮が叫ぶ。

「間宮……これ、藤井先輩の冗談だから……」

 いいから落ち着け、となだめたが間宮は聞く耳を持たない。

「だって!」

「仮にも先輩なんだから、本当落ち着いて」

「仮にもって何」

 俺の言葉に藤井先輩がツッコむ。

「……何やってんだ?」

 第三者の声がして入り口を見ると、佐々木が立っていた。

「どうしたの?」

 あんまりここにはこない佐々木に不思議に思って俺は聞いたが、

「ちょっと佐々木聞いてよ! 藤井先輩が真純に手ー出した!」

 間宮が必死に佐々木に訴えた。

「出されてねーよ」

「あははー」

「───仲いいのな」

 それぞれの反応を見せる俺らに、佐々木が感想を漏らす。

「良くない!」

 間宮一人がエキサイトしている。

「だから落ち着けよ」

 俺がなだめたが、間宮はジタバタしている。

 なんだかな。

「とりあえずこれで藤井先輩に帰ってもらいなさい」

 佐々木が紙袋を藤井先輩に手渡した。

「? 何?」

 中にポスターが丸まっていて、藤井先輩が広げる。

「────────っ、」

 俺は絶句する───。

 例の天音さんが撮った俺の写真だった。

「なにこれ?!」

 立ち上がって呆然と聞く俺に、佐々木は、

「天音さんにいろいろ送ってもらった」

「何通じてんの!?」

 いつの間に何やってんだ?!

「間宮じゃ話が通らなくて、俺が窓口になって街ん中のポスター外してもらったりしたんだよ」

「───ごめん、俺役に立てなくて……」

 佐々木の言葉に間宮がシュンとなる。

 いや、そんなことより、

「だからって、何それ藤井先輩に渡してんの……?」

「いや……これ」

 俺がツッコんでると、藤井先輩がポスターをじっと見てたが、口を開く。

「いろいろ黙っとくから」

「………………」

 ───────なんで?

「賄賂に使えるんだわ、このポスター」

 佐々木が俺に耳打ちする。

 なにそれ?

 ………………………賄賂って、何?

「じゃあこれ遠慮なくもらっとくわ。それで帰る」

「……………。そうですか」

「じゃあまた」

「……………」

 さっさと帰っていく藤井先輩を見送って、俺らはしばらく無言になる。

「なんだったんだ」

 俺がつぶやくと、佐々木は少し笑って、

「まぁ、ポスターの件は黙っててくれそうで良かったな」

 と言って、自身も「じゃあ俺も生徒会もどるわ」と手を振って帰っていく。

 間宮と二人になって───、

 ぐいっと手首をつかまれた。

「痛っ、痛いよばか……」

 文句を言うと、

「今日、真純の家行くから。覚えといてよね」

 怒った口調で言われてびっくりする。

「な……なんだよ……お前わかってないけど、藤井先輩は冗談でああ言ってるだけだぞ」

「わかってないの真純でしょ?」

 ……えぇーと思ったが、とりつく島がなくて黙った。

 なんか……ひどくされそうでやだなと思って、

「今日……は、やだ」

 そう言ったら、さらに間宮の機嫌が悪くなる。

「なんで? 俺がやだの?」

「そうじゃなくて───」

 少し口ごもってから、

「お前がそういうとき、ねちねちするからやだ」

「────────」

 間宮は目を見張ってから、ニヤリと口元を歪めた。

 そっと、俺を抱き締める。

「お、おいっ」

 学校は駄目だって言ってるのにっ、と続けようとすると耳元でささやかれる。

「ねちねちされるの好きでしょ?」

「っ! す、好きじゃねーよ!」

「ここでするよりいいでしょ」

「なんでその二択?!」

 もうっと間宮を押し返してると、

「もう帰ろうか」

 いけしゃあしゃあと間宮が間近で言ってくる。

「なんでっ?」

 なんだよもうっ!



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