第8話(六)

 慌てた様子で間宮が俺しかいない教室に入ってきた。

「なんかあったの?! 真純……って……え?」

 そこでドーナツにかぶりつく俺と目が合うなり、ぽかんとして俺を見た。

「大丈夫……?」

「大丈夫だよ。佐々木は何言ったんだ?」

 椅子に座って、炭酸を一口飲んでから俺は聞いた。確か佐々木は間宮を呼んでくるとは言ったが。

「いや、真純が大変だからって言われて」

 困ったように眉をひそめて、間宮が言う。

「お前からかわれてるよ。前から思ってたけど、お前と佐々木の関係性ってどうなの?」

 気になったことを聞いてみると、間宮はちょっと笑って、

「佐々木にはいろいろしてもらって感謝しかないんだよ」

「ふーん」

「そんなことより、その格好、似合うね」

 すぐ側まで来て、間宮が俺を見下ろしながら言った。

 忘れていたが、メイド服だ。

 ───少し黙ってから、俺は間宮を見る。

「お前はそのウェイターの格好、似合うね」

 真似して言って見ると間宮は少しすねたように、

「そう? でも真純はけっこう人に囲まれてた」

 と言ってきて、俺は「はぁ?」と目くじらを立てる。

「お、ま、え、が! 女の子に囲まれてただろうが」

「ちょっと話してただけだよ。……って、真純もしかして妬いてるの?」

 直球な物言いに、ぐっと俺は詰まった。

「───妬いてなんかいない」

 強がって言った。ムカつくな、と思ってしまう。間宮はニヤリと口端を上げた。

「妬いてるんだ」

「だから妬いてなんかいない」

「この頃、妬いてくれるんで嬉しい」

「聞けよ、話」

 言い張ってるのに聞いてくれない。

「俺、真純にしか興味ないよ」

 間宮が穏やかな口調で言った。

「───────」

 俺はそっと間宮を見上げる。

 間宮が顔を近付かせてきた。

 軽く唇を合わせてきた。

 すぐに離れた二ッとした間宮の顔を見る。

「───なんだよ」

 照れてしまうのを文句でごまかした。

「そんなに俺キスしたそうかよ?」

 なんかさっきも佐々木にからかわれたのを思い出す。

「ん?」

 満足そうにまた笑って、間宮はまた口付けた。そして間近でささやく。

「真純しか大事じゃないよ」

「……でも、女の子の方がいいんじゃないの?」

 本音が出てしまう。間宮はそっと俺の頬をさわりながら、続ける。

「真純だから、好きになったんだよ」

「………………」

 カッと顔が熱くなった。

 ───嬉しいと思うのは、なんでだろう。

「───間宮……」

 もう一度キスしたくて、俺は目を伏せた。

 また優しくキスされる。

 嬉しかった。

「でもあれだね」

 満たされた感に酔っていると、急に間宮が切り出した。

「真純のこの衣装もらえないかな」

「───なんで?」

「一度これでしたい」

「したいって、なんだ」

 俺は突っ込んだ。

 まったくこいつは。

「この格好うちの親が見たら、お前の人格疑われるぞ」

「かなー」

 間宮がそうかなーと考え込んでいる。

 しょうがない。

 佐々木にこのぴらぴらの服もらえないか聞いてみようと思うのは───、

 甘やかしてるなと思ってしまう。




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