間宮の場合②(ニ)

「つまり、最初にキスしたのがお前じゃなかったら、そいつのことを俺が好きになってたってことか?」

 真純が俺を真っ直ぐ見上げ、聞いてくる。

「───うん」

 俺は真純の目を見返せなくて、視線を外してうなずいた。

 しばらく間があってから、真純は言い放った。

「お前帰れ」

「ななななんでっ?」

 ───今日はどっちにしろスルつもりだったのに。

「なんでって、お前俺のこと馬鹿にしすぎだろ。キスされたら誰かれ構わず好きになるわけじゃねぇよ」

「……でも」

 わかってるけど、それでもと思ってしまう。

「キスしなきゃ、俺のこと意識してくれなかったでしょ?」

 「あー」と真純が目を逸らした。そしてうなずく。

「まぁ、そうかも」

 ほら、認めた。

「じゃあ俺じゃなかったかもしれないじゃないか」

「あーもうだから!」

 イラっとした態度を見せて真純は大きな声を出す。続けて、言葉を選ぶように、言うのが癪だというように、

「最初に俺にっ、好きだって言って……最初にキスしたのがっ、お前だから……! お前だから……そのっ、好きになったんだろ……!」

「え?」

 ぽかんとする俺に、真純は照れているのか、まだ怒っているのか、微妙に赤くなりながら、

「お前がずっとっ、好きって、言ったからっ! キ、キスだって……あんなの、ずっとされてたらっ……、好きになるだろ……!」

 すでに真っ赤な顔を隠すように真純は手で覆った。

「………………」

 やっぱりキスが良かったんじゃないか……とも思ったが、俺、うまかったのかな、とも思ったりした。ずっと好きって、言ったのも良かったのか、とも思った。

 少し考えて、ここで納得すべきなのかな、と思う。ずっと好きだった真純に好きになってもらうのは、思えば奇跡に近いのだ。

 まだ赤くなったままの真純を見下ろして、俺はそっと笑った。

(……いいのかな)

 そうだ。

 最初に好きと言って、キスしたのは、俺なのだ。

 そして、それで真純が俺を好きになってくれたのだ。

 お風呂上がりの、甘い香りがする小柄な体躯を側に感じて、幸せを噛みしめる。

「……俺のこと……好き?」

「うるさいな」

 恥ずかしがりながら、真純は吐き捨てる。

 可愛かった。

 素直じゃないが、わかりやすい感じが。

「好き? ……ちゃんと言って?」

 まだ赤い真純の頬に手を伸ばしながら、

「俺は真純のこと好きだよ。ずっと真純のこと好きだよ」

「……っ、」

 カッと耳まで赤く染めて、真純はうつむいた。

 俺は幸せを感じると共に、面白くもなってくる。

 自分がこんなふうに、俺に好きだと言われてあたふたする真純にしてるのだと思うと、満ち足りた思いが募ってきた。

「真純?」

 見られてないと思いながら、ニンマリと口端をあげる。

 愛されてる自覚が出てきた。

 何を不安になってたんだろう。

「……」

 真純が意を決したように顔を上げて俺を見た。

 次の瞬間、胸倉をつかんで引き寄せ噛みつくように俺に口付けた。

「……っ、!」

 意表を突かれびっくりする俺に、真純は唇を離して二ッと笑う。

「すんの? しないの?」

 艶やかな笑顔に釘つけになる。

 ───いや、好きって、言って欲しかったんですけど……と絶句したのち、俺は魅力的な笑顔に抗えなくて、ポツリと返した。

「───します」

「うん」

(なぜだろう)

 結局翻弄されっぱなしなんだけど……。

 なぜか勝ったみたいな顔をする真純に、いかがなものかと思ったが、俺は目の前の細い身体を押し倒した。お返しとばかり補食するようにキスをする。どう鳴かせようか考えながら、

 ああ、もう。と思う。


(───幸せだ)


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