佐々木の場合(二)

 ───昼休み。

 お昼も食べ終わって、次の授業が始まるのを待つ中、高橋真純は席に一人ついていた。イヤホンで何か聞いているのが目にとまる。

 いつもは一年から一緒だという堀とつるんでいるが、堀は部活関係でまだ帰って来ていないらしい。

「何聞いてんかなー」

「クラシックかな」

「てか、やっぱきれいな面してんな」

「可憐だよねー」

「一緒のクラスになって、ほんと良かったー」

 俺の席の近くで吉川らが高橋真純を評している。

「……俺に何聞かせてるんだ」

 とりあえず言ってみたが、

「佐々木の席からが高橋のことじっくり見られるんだよー」

「ここ良いよなー」

 ───よくわからない反応が返ってくる。

 カシャッ。

 スマホのシャッター音がした。

「何撮ってんだ……?」

 わかっていたが、一応聞いてみる。

「高橋。写真うつりもいいんだよ」

 吉川がちゃっかりスマホ片手に言った。

「あ。佐々木にも送るわ」

「! いらねーよっ」

 自身のスマホに機械音がして、なにやら届いたようだ。

「高橋の写真って幸運の画像だぞ。他のクラスのやつが画像のお礼にジュースくれるんだ」

「……金取ってないだろうな」

 送られてきたやつを削除しようとしながら呟くと、

「消すなよー。すげーよく撮れたやつなんだよー」

 そうこうしているうちに、予鈴のチャイムがなった───。

(消すに決まってるだろっ)

 額に血管が浮かびそうになりながら、俺は心に決める。───授業が始まった。


 * * *


 授業が終わり、帰る間際───。

 生徒会に行く廊下の前で高橋真純が帰るのに気が付いた。

 確か部活は入ってなかったはずだ。このまま帰るのだろう。───ちょっと気になって、俺は声をかけた。

「高橋」

 高橋が立ち止まって、俺に振り向いた。

 俺を見て、ああと、口を動かした。それを確認して俺は続ける。

「高橋は、生徒会から役員なってくれって言われなかったのか?」

「俺? 言われたけど断った」

「断った? 嫌いなのか、そういうの」

 学級委員もやらなかったのもそういう理由か。

「あんまり」

 と高橋が呟いた。

「でも、お前また誘われるんじゃないか、学年トップだし」

 変に人気あるし───と無言で続けた。

 高橋が意外そうに俺を見上げた。

「トップだと生徒会やらないと駄目なの?」

「そうなってくるんじゃないか?」

「……ふーん」

 高橋が視線を下げながら、言った。

「わかった。ありがとう」

 じゃあ、と言って高橋が去って行く。

(わかったってなんだ)

 つーか。

 俺のこと名前呼ばなかったが……。

(名前おぼえてんのか?)

 なんとなく疑問に思って、俺は高橋の背中を見送った……。


 * * *


 数日が立ち───、

 俺は中間テストの結果を前に怒りに震えていた。

 一位は俺だった。それはいい。

 高橋真純は10位ぐらい成績を落としていた。

 ───わかった、と高橋が言ったのを思い出す。

(あのクソガキ! 生徒会やりたくなくてテスト手ぇ抜きやがった!)


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る