第4話(六)
親が翌日の午後に帰ってくると言うので、そこまで間宮にしつこくされるかと思ったが、意外にも朝から掃除にはげんでいる。
証拠を隠滅しているような感じが面白かったので、勝手にさせておいた。ちなみに「真純は見てていいよ」と言うので、遠慮なくリビングで見守っている。どっちみち無理をさせられたせいで動けなかったが……。
なんだかんだ朝まで寝させてもらえず、リビングやお風呂でもいたしてしまった……。
そのつもりだったけど……。夜だけのことだと思ってたので、ちょっと……どうなんだと思っている。だから間宮が一人片付けているのを見るのは当然の結果なんじゃないかな、とも思ってもいた。
……良くないわけじゃなかったんだけど……。
お風呂はのぼせてしまってそんなでもなかったが、他では……良かった、と思ってしまう。いろいろ思い出して一人赤面してしまう。
(また……こういう機会ないかな……)
「今度はお風呂掃除してくるね」
てきぱきと動きながら間宮が言ってくる。が、はたと俺を見つめた。近寄って来て、間近まで顔を寄せてきた。
「? なんだよ?」
近いよ、と戸惑っていると、間宮がニヤリとする。
「……何、思い出してたの?」
「っ、てなんだよ、なにも思い出してないよっ。いいから、掃除してこいよ」
カッと顔がさっきより熱くなっていると、間宮は得たりとばかりに目を細める。
「足りなかった?」
「なっ、充分だよ! ば……っ、」
ぎゃあっ、となっている俺に慣れた感じに口付けてくる。
「んっ、ダメ……もう、無理っ」
まだ身体は触られた感触が生々しくて、すぐさま熱がぶり返しそうだったが、唇が触れる合間に抵抗していると、満足げに笑って間宮があっさり身を離した。
「また二人きりで泊まれたらいいね」
ニッコリして間宮が告げる。……同じことを思っていたが、なんか素直に頷くのはシャクだったので、
「俺はいい」
と言うと、わかっていると言わんばかりに「はいはい」と、間宮が受け流し、バスルームに消えていった。
* * *
夕方「ただいまー」と母親が帰ってきた。
リビングで間宮と古典落語全集のDVDを見ているところで、「お帰りー」とソファー越しに振り返る俺らを見て、母親が動きをとめる。しばらく黙った後、
「……ごめんなさいね」
と間宮に謝った。なんだよ。「いいえ……」と間宮が答える。なんだよ?
「あれ、なんか片付いたままなんだけど、掃除してくれたの?」
「あ、はい。簡単にですけど」
母親の問いに間宮が平然と答えるのに、嘘つけと思う。必死だっただろうが。証拠隠滅に。
「ありがとう。帰ったら掃除しなきゃと思ってたから助かったわー」
ニッコリ笑う母親に、間宮もニッコリする。少し後ろめたいのか、心なしかひきつっていたが。
「じゃあ……俺そろそろ帰ります」
「え? 夕飯作るからそれからでもいいんじゃない?」
帰ろうとする間宮を母親が引き留める。俺も驚いて立ち上がった間宮を見上げた。
「もう帰るの?」
「また明日迎えに来る。学校あるし。じゃあ、また」
そっと俺に笑って、間宮が荷物をまとめている。母親とあいさつしながら、いっしょに玄関に行って帰ってしまった……。
……なんだか、けっこうあっさりだな……。
少し寂しく思いながら、しばらく立つと母親が戻ってきた。
「普通に彼氏なのね、間宮くん」
「……どういう感想なんだよ、それ」
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