第2話(七)

 校門を出るところで間宮を見つけた。

 数人の生徒が帰ろうとしたり、体操服で部活中だったり、と視界に入る。

「間宮!」

 呼び止めると、こわばった表情で間宮が俺を振り返った。───間を置いてから、間宮は口を開く。

「……俺、謝らないから」

 またそれか。

 前にもあったな、と思いながら、俺は人目を気にして間宮を校門横の木陰に引っ張った。ぐるぐるする思考回路を整理しようとして、言葉を選ぶ。

「とにかく、だな……ちゃんと、気持ち言わないのも……ああいう……ああいうこと、させなかったのも、俺が……男、だからで」

「だから。わかってる」

 間宮は冷静に俺の話を遮るように、割って入る。

「小学生の頃から真純が男だってわかってる。わかってて、ずっと真純が好きだった。───それに」

 少し目を細めて、間宮は俺の腕を捕った。

「さっき、触って、余計に───」

「…………っ」

 言い方がやらしかった。さっきまでの感触も思い出して、カッと全身が熱くなる。俺は慌ててうつむいた。熱くなるのをごまかすように、視線を泳がせて、

 ───俺で、いいのかな、と思う。

 男、だけど、間宮は本当にいいのかな、と思う。

 変な感じが、した。

 ───変に、

 満たされる。

「…………………………………………好き」

 ───小さく、俺はつぶやいた。

「──────は?」

 間抜けな声が頭上から聞こえてくる。

 ものすごく時間がたった後、確認するように間宮が言ってきた。

「………………………今、好きって、言った?」

 視線を上げると、間宮が疑り深く俺を見ていた。

 ───なんだか腹が立ったので、

「言ってない」

 思わず、言っていた。

「でも、さっき……。もしかして空耳……?」

「じゃあ空耳だ」

「もう一回言って」

「言わない」

「─────────」

 その後の、間宮の表情を見て、俺は黙り込む。

 ───とても、幸せそうに穏やかに微笑んだのに、俺は釘付けになった。

「中間テストの勉強で───」

 急に間宮が言い出したので、俺はぽかんとした。

「………は?」

「普通に部室でイチャイチャしたかったんだ」

「………………………は?」

「なのに真純、スパルタで」

 ん?

「問題解けるまで恐くて」

「あれは……お前が簡単な場所でつまずいてたからっ」

「ただ単に、イチャイチャしたかったんだよぉ……」

 ……なぜ泣きになる?

 そしてなぜ今?

 呆れて俺は間宮を見上げた。

 ─────しょうがないなぁ。

 俺は頭をかきながら、上目遣いで言ってみた。

「……今日……うち、泊まりにくる?」

「………………………」

 驚きに目を見開き、間宮は俺を見た。

「……………意味、わかってる?」

 無意識の発言か確かめるように、聞いてくる。

 俺は意を決して、間宮を見た。

「───わかってる」

 間宮は俺の目を凝視して───何か言いかけた途端、

「───あれ? 二人とも何してるの?」

 第三者の声が入った。

「っ!」

「…………」

 藤井先輩だった。

 ちょっと離れた校舎の窓からこっちを覗いていた。

 そういや柔道部の部室、こっちの方だった。

「もしかして、お邪魔だった?」

 硬直する俺を尻目に、藤井先輩はのんびりとした言葉をかける。はっと我に返った。

 ……俺は何を考えてたんだっ!!

 全身熱くして、俺はなりふり構わず───逃げ出した。

「ま、真純っ!?」

 間宮が必死に呼び止めてきたが、構っちゃいられなかった。

 全速力で走り込み、すごい短時間で俺は家に入り込んだ。

「……う、うわああぁっ!」

 一人玄関口で座って、俺は頭を抱えた。ゼイゼイと息が弾む。心臓がヤバかった。いろんな意味で。

 ───俺は何を言ってんだ!

 恥ずかしいっ恥ずかしい!

 ぎゃぁぁぁっとなりながら、そういや荷物準備室に置きっぱだ、と気付き、それを後で持ってきた間宮と、泊まる泊まらないと押し問答になったのは───、

 また別の話───。


おわり


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