俺の推しにソックリな転校生が幼馴染とバチバチ過ぎる。
みりお
第1話 消えた推しと推せない彼女
昼休み、教室でスマホを眺めていると、些細なネットニュースに目が留まった。
俺はアニメ好きで、しょっちゅうアニメ関連のお勧め記事が個人情報を抜き取られてスマホに配信されて来る。それはそれでいいのだが、その記事はバッドニュースだった。
「嘘だろ……?」
思わず声が出てしまった。ショックと言うほどでも無いが、俺の淡い期待が裏切られたのはちょっと悲しい。
「どうした?
友人の坂下亮が、机に腰かけたまま放心した俺の肩に手を乗せ手元のスマホを覗き込む。
「
「それってアニソン歌手の? 確か別名でコスプレもしてるやつだよな?」
「声も顔も可愛いから最近気に入ってたのに……、しかも俺たちと同じ17歳だし。今年札幌でライブあったら絶対行きたいと思ってたんだ」
「それは残念だったな。しかしその写真、黒髪ロングでめちゃくちゃ可愛いな! 胸も結構大きそうだし……」
亮がニヤニヤするから俺はスマホの画面を消した。何だか御園エリスを汚されたみたいで気分が悪い。
「あっ! 消すなよ! しかし勿体ねーな。こんなに可愛いのに出し惜しむなんて」
亮は自分のスマホでニュースの続きを読み、御園エリスの記事と画像を漁る。
「推定Eカップか⁉ って何だよこのエロいグラビア、本当に歌手かよっ! しかも札幌出身だってよ! 帰りに札駅歩いてたら会えるかもな?」
「んな訳ねーだろ? 芸能人だし、どうせ都内で暮らしてるって」
と、言いつつ、彼女が同郷だと知った時は少し嬉しかった。だって相当な人気者でもない限りライブは東名阪、良くて福岡、仙台の五都市を全国ツアーと謳い、北海道は大抵の場合蚊帳の外だからだ。だけど札幌出身ならきっと……。
この北海道、俺の住んでいる札幌市は日本で5番目にデカイ都市、だけどライブはハブられることが多い。やっぱ移動や機材の輸送に経費が掛かって採算が取れないのだろうか? 道民ヲタクはアニメやライブイベントから干され気味だ。
せめて陸続きなら原付で遠征……。いやいや、無理だろ!
俺が通う市立札幌情翔高校はバイク通学は禁止だった。俺ん家はバイク屋で、俺は原付免許保持者でバイクも持ってるけど通学は自転車、気分だけはバイク乗りで、いつもエアスロットルは全開だった。
一日中亮と下らない話をしながら迎えた今日の放課後もいつも通り自転車を飛ばし、初夏の生温かい風を浴びながら寄り道の算段をしていたのだが……。
ん? 何だあれ?
歩道の片隅で色褪せたオレンジ色の原付に跨り、後ろ姿でキックスタータを蹴り続ける人物が目に入る。
調子悪いのかな? すっげー気になるんだけど……。
俺は自転車を少し離れた所に停めて、キックスターターを蹴り続ける人を眺めた。
黒いタイトなパンツに派手なTシャツを着た姿は曲線的でシルエットが奇麗な女の子。痩せて足が長く、オフロードバイクに乗っても地面に足が届きそうなモデル体型だ。
「あ~っ、もうっ!」
彼女はバイクに蹴りを入れた。
ん? そう言えば全くエンジンが掛かる気配無かったな? 点火系の故障か?
ちょっと気になるけど、ヘルメットから出ている背中に掛かる長い髪の毛が銀髪で話し掛けづらい。初夏の日差しにキラキラ輝く髪は西洋人形のようでもあるが……あの髪色、もしかしてヤンキー?
「はぁ? 何見てんのよ?」
不機嫌な彼女が俺に気付いて顎を上げ、大きな声で威嚇した。
げっ! やっぱヤンキーだ。でも、ジェットヘルメットから覗く顔は色白で可愛らしかった。
同い年くらいか? 尖ったピンクの唇はプルッとしているが不満げで、バブルシールドを庇のように上げて俺を大きな二重瞼の目で睨んでいる。
「い、いや……。なんつーか……エンジン、掛からないのかな~って?」
俺は若干ドギマギして答えた。
「だったらどうだっていうのよ!」
「俺……少しならバイクのこと分かるから……」
「あっそ!」
ソッポを向いて俺をガン無視する彼女からイライラが伝わって来て、話し掛けた事を後悔する。
きっつ! 何だよこの女。係わるんじゃ無かった。
俺はそそくさと自転車のペダルに足を乗せ、体重を乗せて走り去ろうとしたのだが……。
「どこ行くのよ! 早く直してみなさいよ!」
彼女の声に耳を疑った。俺を寄せ付けないかと思えば、上から目線での命令とは……。
は? それが人に物を頼む態度か? 無理無理、一生そこでキックしてろって!
見捨てて走り去ろうと自転車を漕ぎなが振り返ると、彼女の顔が一瞬曇った気がして、俺は気が付けば何故かUターンをして原付の隣に自分の自転車を並べていた。
げっ! 体が勝手に……。どうしてエンジンが掛からないのか調べたい欲求に負けた……と言っておこう。決して女子とお近づきになりたい訳じゃないからなっ!
「エンジン、掛けてみてもいいか?」
俺は自転車を降りて彼女に訊いた。
「えっ⁉ う、うん……。別にいいけど……」
彼女は若干の戸惑いを見せてバイクから一歩離れた。
顔小さいな……。目鼻立ちも整っていて背も高く、ヤンキー女じゃなかったら高得点なのだが、なんか勿体ないな。
古いスズキの原付か、キャブでキックスターター、エンジンはまだ暖かいからチョークは要らない。
とりあえず数度キックしてみる、けど掛かる気配が全くない。プラグは……。
俺は屈んでエンジンを横から眺めた。
あ? プラグコード抜けそうになってる……。それだけかよ!
俺はプラグコードをグッと奥まで差し込み、指先にパチンとプラグとコードの端子が噛み合う感触を確かめた。
「直ったよ、掛けてみて?」
「は? アンタ、何もやってないじゃない!」
2秒で終わった修理に、ヤンキー女は気づいていない。
「いいから、キックしてみなよ」
俺にジト目を浴びせながら彼女は原付に跨り、軽くキックする。すると、エンジンはスムーズに回転し始めた。
「えっ⁉ 何で? 神⁉ 神なの⁉」
「じゃあな!」
気が済んだ俺は自転車に跨って走り出した。
「ちょ、ちょっ! 待ちなさいよ!」
彼女は慌てて自転車で遠ざかる俺を走って追って来たが、追いつけないと分かると足を止めた。
ありゃ、暴走族の卵だな、銀髪ヤンキー女にこれ以上絡まれないようにしないとヤバいだろ。変に気に入られて仲間のバイクメンテさせられたら面倒くせーし!
と、思ったものの、原付に追いかけられれば俺にはどうすることも出来なかった。彼女は俺の自転車に横並びに原付を走らせ、何かをわめいている。
ヤバ……。考えなしでやってしまった自分の行動を俺は呪った。
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