第2話 錆びた守護者



「さて、俺達の臨時収入になってくれよぉ?」


 俺のトラクトの名前は「ステン」外見はそのまま昔のトラクターに手足を生やした感じの機体だな。


 キャビン、まあ四角いガラス張りの運転席があってその前面に長四角のボンネット、ズングリとしたドラム缶状の手足が生えている。クボーダ社の象徴である赤い塗装はところどころ錆びが浮いてるが、古い機械らしく構造は単純。パワーだけなら最新の機体にも引けは取らない。


 おっと、勘違いしないでくれよ?けして俺が掃除キライな怠け者だからサビを放置してるんじゃないんだ。コレはアレだよ、ジーンズとか革のバッグや財布みたいなのは使い込むと“味”が出るって言うやん?アレなんよ。“錆び付くまで壊れずに形を保っている”ってゲン担ぎがあってさ、実際同業者からは一目置かれてたりするんだ。


(あと金は中身に突っ込んでるからガワまでは予算が回らないからね)ボソッ


 防衛地点に到着して銃を構える。実弾だと万が一跳弾や薬莢が畑プラントの方に飛んだらコトだから安物のビームガンね。ビームは誤射ってもビームコーティングとか錯乱膜とか対処法があるから。お、来た来た。


 結構な勢いで飛んで来てはいるが、アレは……まあ一般的なトラクトだな。何か違法改造されてるが。

 おおかた、高値で取引されるオーガニックな生鮮食品を狙ってるんだろうが、ウチに来たのが運の尽きだったな。


 ここは障害物の岩がそこらに転がってる上に防衛用のタレットがあるからさほどスピードは出せないハズだ。

 さらに長年ここで働いてる俺は経験からある程度ルートは読める。コイツのスピードと船幅からして……ココだな。


 岩陰から身を乗り出すとちょうど目の前に岩を避ける為に減速したホバートラクトが来た。


「そこっ」


 まずは足を止める為に安物のビームガンでスラスターを撃つ、たちまち岩にぶつかってひっくり返るトラクト。すぐに違法トラクトが顔を出してオープン通信でダミ声を響かせて来る。


「誰だゴラァ!隠れてないで出てきやがれ!ぶっ潰してやる!」


「俺はこの農場の人間のセイウチだクソァ!そのトラクト置いてお縄に付けァ!」


 ビームを撃つと岩陰に身を隠す相手のトラクト、その岩陰からこちらに銃をぶっ放して来た。


「ここの農民かァ!てめぇもバカ正直に農場守ってないで俺と一緒に楽しくやらねぇか!」


「俺の職場が被害を受けるでしょうが!」


「……まて、まさかお前知らねぇのか?」


「知らないって何が!」


 俺は手が止まっている相手のトラクトにステンの脇腹に装備されているモリを打ち込む。


 何故モリかって?もともとウインチなんよね。それに槍と発射機構を付けてモリにしたオリジナル装備なのよコレが。連射は効かないし、射程はワイヤーの届く距離までだから使い所は選ぶんだが………ヨシッ、ヒット!


 モリが刺さったのを確認すると一気にワイヤーを巻き取り相手トラクトを引き寄せる。


 自分の方に向かって倒れてくるトラクトに俺は強烈なパンチをお見舞いすると、中の賊が気絶したのか敵トラクトが動かなくなった。


「話は事務所で聞く。死にたくなけりゃ素直に付いて来い」



◇ ◇ ◇



「だーかーら、確かに俺ァケチな火事場泥棒だが、今はンな事言って無いの!この辺の中央都市で大規模なクーデターが起きて上から下までてんやわんやよ。ウソだと思うなら雇い主に連絡してみな!」


 捕まえたイノシと言う害獣……ゲフン火事場泥棒がそんな事を言うからユニクに確認して貰うと、マジでウチの社長のおエラい様に繋がらない。


 え……マジで?


「マジかよユニク、ニュース付けろ」


『……緊急ニュースです今日の午後12時30分、ここシコクニオン中央都市で現市長のレイクダ・トヨート氏の統治が不服とする武装勢力が蜂起しセンタービルを占拠しました。中心人物の声明は………』


「マジかよ……ウチのボスも俺達にかまってるヒマが無いワケだ。で、アンタは混乱に乗じて金目のものをってか」


「あぁ、そうだよ。警備隊に突き出すか?今はそれどころじゃ無さそうだが」


 ユニクが社長からのメールが来たと見せてくれる。湾曲表現で遠回しに書いてるビジネスメールでクッソ読み難いが要約すると、

「農場は惜しいが、そこで出来たモノをさばくルートが全部死んだから君たち解雇します。※退職金はその農場にあるもので良いよねミ☆」


 俺達は頭を抱えた。


「バハハハハ!いくらオーガニックな農場だからって陸の孤島じゃやってけないだろ!!どうだ?俺と一旗挙げねぇか?お前のトラクトのウデはなかなかだったぜ?」


 イノシは豪快に笑いながら話を持ちかけてくる。

 うぅむ、給料が無くなるんだよな。


 じゃあ……アリかもな

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