第2話 みおちゃん


 俺の妹(おバカ)が作ったRPGの世界。

 主人公、つまり今の俺の初期ステータスは、一言でいうと「終わっている」だ。



 まずレベルはもちろん1なのだが。

 一番最悪なのは、HPが0・2しかない事だ。


 いや、意味わかんねぇだろ。そんなHPの数値聞いた事ねえぞ?



「そんなHPあり得ねぇよ」

「だから、そんなに人生甘くないって事だよ、お兄ちゃん」



 妹はそんな事を言っていたが、いや高校生のお前がそれを言うんじゃねえよ。



 そして繰り返しになるが、主人公チョチョリゲールの初期装備はステテコしかない。ていうか上半身裸だから、そもそも衣服すらまともに着ていないのだ。



 

 そして今。

 そんな俺に情け容赦なく魔物が襲い掛かって来た。


 普通RPGの最初の敵は、かなり弱く見た目も可愛らしかったりするのだが、俺の眼の前にいる魔物は、そうではなかった。


 

 まず、見た目はラスボス。

 禍々しい角が何本も生えた超巨体の魔物。腕は全部で6本もあるし、巨大な翼と尻尾もある。その尻尾だけで殆どの生物は殺されてしまうだろう。


 威圧感、ラスボス感がハンパ無いが、この魔物の名前は「みおちゃん」と言うらしい。みおちゃんと言えば、妹の幼馴染みで今でもよく遊んでいる女友達の名前だ。



 ……おいおいナナミ、みおちゃんに怒られるぞ。



「グギャアァァァアっ!!」



 そう思っていると禍々しいオーラを放ちながら、みおちゃんは口から物凄い炎を吐いて来た。俺のHPは0・2しかないのに、ダメージ500とかは有りそうな攻撃である。




「ナナミ、このゲームって死んだら所持金が0になったりするのか?」

「……はぁ、これだからゆとり世代って言われるのよね。人間はね、死んだらそこで終わりなのよ。やり直しは出来ないの。命は1つしか無いんだよ、お兄ちゃん」



 あぁ、前世でそんな会話をしていたな。

 おそらくこの世界に「やり直し」は無い。HP0・2しかないから、みおちゃんの攻撃がかすっただけで俺は死んでしまうだろう。



「くそっ、死んでたまるかぁ!」



 俺は傍に置いておいた「勇者に授ける伝説の剣」を手に持った。




───すると、ヨボヨボだった俺の体に大きな変化が起きる。



 大きく曲がった腰は、真っ直ぐに。

 骨と皮だけだった手足は、たくましい筋肉が。

 禿げ上がった頭には、黒黒としたツヤのある髪が。



 俺は伝説の剣を持つことで、10代後半の肉体に若返ることが出来るのだった。




「うおぉぉおおーっ!」



 俺は間一髪でみおちゃんの炎攻撃を躱して、攻撃態勢に入った。

 今の俺はレベル1でHPは0・2だ。しかし俺には「勇者に授ける伝説の剣」があるのが大きな救いだ。



 妹が作ったこのゲーム世界には、様々な武器がある。

 その攻撃力の平均値は、だいたい500前後らしい。強い武器になると3000くらいだと妹は言っていた。



 だが俺が持っている伝説の剣の攻撃力の数値は……



 なんと

 めちゃくちゃな設定にも程がある。



「うおぉぉぉおおーっ!!」



 俺は伝説の剣を大きく振りかぶると、そのままの勢いでみおちゃんの胴体を真っ二つに引き裂いた。



「──ギャアァァァァアアっ!!」



 みおちゃんは断末魔の悲鳴を上げて死んでいった。

 何だか物凄い罪悪感である。みおちゃんごめんなさい。



「……ふう。また命が繋がった」




 もうこの洞窟にやって来て3ヶ月経つが、俺は数えきれないくらいのみおちゃんを倒して来た。



「……くそ、200年もこんな事してられるかっ!」



 俺は解決策を見つける為、妹の作ったゲームのストーリー展開を思い出していた。きっとどこかに突破口があるはず。



 バカな妹が作ったゲームではあるが「RPGツクレール5」の凄い所は、最新式のAIが搭載されている事だ。


 例えプレイヤーが少し無理なゲーム設定をしても、ちゃんとゲームとして成り立つようにAIが細かい所を微調整してくれるらしい。

 まあ、もっとも妹はかなりメチャクチャな設定をしているので「微調整」では済まないだろうが。



 例えば俺が「伝説の剣の恩恵」で生き延びている様に、どこかにAIが作ってくれた突破口があるわけだ。



「洞窟で200年生き延びて故郷に帰る……か」



 もういっその事、勇者を待たずに故郷に帰ってしまうか。

 また200年後にこの洞窟に戻ってくるか、誰かに伝説の剣を託してもいい訳だし。


 そうだ。そうしよう!

 とりあえず、この洞窟から脱出だ。



 こうしてチョチョリゲール=フリードリッヒ=ルイ14世こと、俺の冒険は始まった。

 

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