変人クラブ
ITSUMONO
第1話
うわあこれは、やっちまったな。というのがその時の俺の感想だった。
1日12時間、殆ど睡眠時間を削りながら、中学時代の赤点連続記録を作ったこの俺が怒涛のリカバリーをみせ、埼玉県内でもトップクラスの進学校に入学し、クラスでも上位のカーストになんとか入り込め安堵していたのだが。
ある日、ある部室の中、目の前に立ちはだかるのは、3人の男子生徒。同じ学校の同じ学年。
3人とも少し眼つきが悪い、いや少しどころじゃない。
1人のヒゲが濃い男子生徒が、演説口調で前置きなしに話しだした。
「えっとですね...変革達人クラブの部員たる者、部活動を忌避しまくるのは、チッ...如何なものかと思慮しますが..チッその点につき如何思いますかあああぁぁぁぁぁ...?と相手に考える余韻を残すと...私の慈悲の心を示すと...」
「だから言った通り俺は、そんなクラブに入ったつもりは無いんですよ!しかもなんすか?語尾に自分の意図を織り込んでいます的な行間まで言っちゃてる気持ち悪い変なアピール、いらねえし、ちょっとだけなんか宗教の勧誘的な感じがしてモワっとくるし!」
「えっとですね....まあその点は私の親心というか先輩部員としての先輩心というかまた別の回で語りましょう。また君がクラブの部員であるかどうかに関しては疑義を申し立てないと言わざるを得ないですね、だってこの書類にあなたのサインがあるじゃないですかあああぁぁあ?少し声を半トーン上げて相手に思慮をさせる親心的〜な配慮マシマシ」
「いや、その書類はアンケートに答えて下さい的なものでしたよね!そのサインした紙の下にカーボン紙か何かでサインコピーしたんでしょう!」
そう俺が言い放つとその髭面は、目を一瞬そらせて目尻を高速でピクピクさせながら動揺し、話題を急に変えて話し出した
「ゴホン!えー事が滞りなくこちらの思惑どおり首尾よく運んだ、しかるのちに、我々は、変革達人クラブの真の目的を遂行する段階へと、ついに進むのであります……!」
他のメンバーが、どこかの独裁国家のパレードの時みたいに、激しい拍手した。
宣言したのは、阿知向手(あちむかって)方位。
何故名前が分かったのか理由は簡単、高校生なのに小学生みたいな名札を付けているから。
その目はうるんでおり、鼻水も若干垂れていた。感極まっているのか、ただの花粉症かは判別できない。
「遂行って……なんか急に物騒な空気出してない?え、俺もう帰っていい?」
俺はこっそりとカバンを背負い、ドアの方向に足を向ける。
「帰宅……却下ぁああああ!!」
突然、教室のドアがものすごい勢いで閉まった。いや、正確には閉められた。
そのドアの向こうには、無表情の女子生徒。髪は真っ黒で肩まで。眼鏡の奥の瞳は、何かを見透かすように鋭い。
「……鍵、かけました」
「かっ……鍵……だとぉ?」
俺は震えた。まるでサスペンス映画のような展開。しかし、こいつらの悪ノリのクオリティが異常に高いせいで、演出がガチっぽく見えるのがまた腹立たしい。
「紹介しよう。我々が誇る諜報部隊の紅一点、情報処理班班長にして"鍵っ子のクミ"こと、黒野久美嬢である!」
黒野さんは黙って頷いた。無言のプレッシャーがすごい。
「わかった分かりましたよ、じゃ仮に部に入っなら何をするの?そろそろ普通に本題的な話しに入ってくれる?俺の精神ゲージが地味に削られてるんだけど!」
「本題?ああ、それは簡単な話です。君、公知くんには──」
ぐっと阿知向手が俺に近づく。
彼の顔が近い。近すぎる。息がミント臭い。
「──伝説のプリント整理ボックスを、取りに行ってもらいたいのです」
「プリント?ボックス?……なんか、拍子抜けする響きだな……」
「ところがぎっちょん!そのボックスは、旧校舎地下、通称“幽霊倉庫”の奥深くに保管されているのです!」
「出たよ。そういうの!そういうテンプレ!」
「大丈夫!我々は常に万全の体制です。ピュアぞう、出番だ」
「うふふふ、僕はね、サバイバル・ホラー系のマップは全て記憶しているのです!地下倉庫の詳細図も、ばっちり頭に入ってるよ!あと、いなり寿司持ってきた!」
「……なんだよこのクラブ」
俺はもう一度だけ逃げようと試みた。が、黒野さんがガチャリとチェーンロックまで追加していた。
「さあ、君の冒険が始まる。健闘を祈る!」
阿知向手が笑う。
なぜか背後でBGMっぽくスマホから『運命の戦い〜クライマックスVer.』みたいな曲が流れている。
俺の脳裏に浮かんだ言葉は、ただ一つだった。
──やっぱ俺、この学校ミスったかもしれん……。
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