後編

「あいつもヤキがまわったわねっ」

 国語教諭がぶっちゃけた。


「ほんとにね」

 養護教員、原ネクタルも同感だ。


 放課後の保健室は無法地帯。


「なんで、婚姻届の証人が、わたしたちなわけっ」

 ふたりは同時に叫んだ。

「ささくれの傷口に塩、ぬるかよっ」


 かつての同期から、白紙の婚姻届が書き損じ分も含めてか、3枚、簡易書留で届いた。

 差出人は〈牛飼うしかいトオル〉。バリバリの偽名だろ。

 彼女らの同期で今は組織を抜けた、そのコードネームを、全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れと名乗っていた男にちがいなかった。


 『ふたりを見込んで頼む。他には話さないでくれ。』

 そう書いた一筆箋いっぴつせんと、律儀に切手を貼った返信用封筒付き。


「あいつ、他に頼める人、いないわけっ」

 国語教諭は完全に切れた。


「中学のときから、祖父の家に引き取られて育ったって言ってたなー」

 ネクタルは、思い出を引き出した。


「そっから、信頼する人を作れっつーの! わたし、自分の婚姻届を先に出したかった!」


「だよね。どうする? 一生、誰かの婚姻届の証人欄にサインする人生になったら」


「事実婚でっ! 年下かっ、年上のっ、全方向のいいのをつかまえるべしっ!」


「ははは」

 原ネクタルは証人欄に自分のコードネームを、さらさらと書いた。


「え……。ネクタル、意外と鬼。初恋の彼に、そんな仕打ちできるんだ」

 婚姻届の紙をまわされた国語教諭の同期の手がふるえる。

「あたしもっ! コードネーム書いとこ! そうさっ! 同期の女心をふみにじってぇ! ただですむと思うなぁぁ!」


「婚姻届、3枚あるからねー。しばらく遊んでやろ」

 ネクタルは聖母の笑みを浮かべた。

 

 最後の1枚は、マジメに書いてやらんでもない。

 同期、だからね。





            〈しあわせをはなさないでね

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天童君には秘密がある 5〈KAC2024〉 ミコト楚良 @mm_sora_mm

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