「篝火」と「嘆きの民」

「それで お婆さんを誘拐しようとしていたのは誰なんだ」

スイカジュースを喉を鳴らして飲み干したキヨミに聞くと

「奴らは「嘆きの民」と名乗って禁忌の岩戸を開ける為 多数の孤児をさらい生贄として捧げ 後は魔力の強い者に開放させるだけにまでしているようです」口元を拭いながらキヨミは続ける

「世界を消滅されては困ると 篝火との間で大きめの諍いをおこしております」

そりゃ そうだよな せっかく民衆の支持を集めても 肝心の民衆どどころか 自分自身もいないとなればな

「しかし 既に多くの子供達の命をうばってるのか」イラついてくるのが自分でも分かる 腹の底から魔力が暴走しそうだ

「主様」ユカリがそっと俺の肩に手を置くと 少し落ち着いた

「使徒様の怒りの魔力って苦くて美味しくない」妖精にまで言われてしまう

「そういや お前の名は何だ? まだ聞いてなかったな」気を紛らわせるのに聞いてみる

俺の頭の周りを飛びながら歌うように 「あたいは ウィンディ 使徒様の事が大好きな風の妖精よ」

一瞬 ユカリのオーラが黒くなった気がするが勘違いだろう 平常心 平常心と


宿の人に禁忌の岩戸の場所を聞き「最近 変なのがうろついてるから 気を付けて下さいね」 と見送られ森向こうの岩山に向かう

岩山が近づいてくると ウィンディが俺の懐から顔を出し鼻をクンクンさせて「血の匂いがするわ」

間を置かず キヨミが現れて「篝火と嘆きの民が斬り合いをしております」

「暫くは お互いに潰し合いをさせとこう どうせ どちらも俺達が潰すからな」

斬り合う音が聞こえる所まで移動し 座り込み様子を見る

「グガっ」「クソッ」「お前等には我々の崇高な考えがわからんのか?」斬り合う合間にいろいろと喚いているみたいだ しかし それも終わり 辺りを静寂が包む

「さてと」のっそりと起き上がり斬り合いの現場に行くと 50人ぐらいが倒れていた  岩戸の両側に穴を掘って捨てられている子供達の死体 一人づつ確認するが 皆 もう死んでいる

巫女様とヤヨイを呼んで 業火で火葬したあと鎮魂の儀式をしてもらう


斬り合って死んだ奴らは魔物になられても迷惑なので 取り合えず燃やしておく

好きで死んだんだから鎮魂もいらないだろう 

それよりも岩戸だな 魔力を流して調べてみると 岩戸は中から鍵がかかってた

親父が頑丈に作って 誰も開ける事の無いように細工がしてある

子供達の生贄で腐食したり 流れが詰まっている個所を直し 新たに外側からも鍵をかけておく 俺以外が解除しようとしたらお望み通り解除者を消滅させるトラップも仕掛けておく


「嘆きの民はあそこにいたのが全てですので 殲滅完了です 篝火の方は国を跨いでの構成人数も多く 未だ全容を把握しきれておりません」

宿に帰って改めてキヨミから報告を受ける

「大体が貴族や大商会の次男 三男で構成されております 今のままでは窮屈どころか屈辱的な生活しか待っておりませんので それなら いっそと言う感じでしょうか」

「そうか ありがとう キヨミ」


夕飯の前に街をぶらつこうという事になり 皆で繰り出す

途中 ベットさんが世話になっている店にも寄ってみたが中々繁盛していた 俺が教えたシャーベットが好評だそうだ


市場を歩き廻り砂糖と小豆 卵 ミルクを見つけもち米ともども買っておく

宿に帰って台所を借り卵と砂糖を木鉢に入れてこれでもかと混ぜ込み そこにミルクを加え 更に混ぜる 鍋に移し弱火で焦がさないように温め 火から下ろし 氷魔法で冷やす ヴァニラや生クリームは無いが 基本のアイスクリームが出来た


次に鍋に小豆を洗って入れて茹でて一回笊に上げ お湯を捨てて再度煮ながら灰汁を取る 柔らかくなったら 塩を一つまみ入れ 砂糖を2回に分けて入れ混ぜながら水分が飛ぶまで煮込む 炊き上がりに塩を一つまみであんこの完成


旅には甘味が欲しいからな 特にウチは女性が多いし 思いながらアイスとあんこを次元収納に入れていく


さて 次の封印はこの国の王都にあるらしい 歩きで二日ぐらいだと言うので ノンビリと旅を満喫しよう 道中の魔物 魔獣はユカリとウィンディに任せて 俺は寄り道しながら山菜や果物を採取していく

ぼんやり歩いていると

「おい!!兄ちゃん 女に囲まれやがって 良いご身分だな」

イキった若者五人に絡まれた「全員とは言わねえが 何人かこっちに寄こしな」

歩み寄ろうとする瞬間にはユカリによって全員の足が折られていた

「何しやがる? 手前ら覚えとけよ!!」片足を引きずりながらノロノロと消えていった

「何だったの?あれ」ウィンディが懐から顔を出し呟く

「こんなんじゃ 王都も治安が心配だな」

などと言いながらも このメンツであれば多少の揉め事は大丈夫だろう

野営の時に出したアイスクリームは大好評だったが「食べ過ぎると お腹壊しますよ」と止めるのにも一苦労だった

 



 

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