第24話 恐怖の恋バナ責め

「離せ! 触るな! 薄汚いないウジ虫どもめ! その酷い匂いのする顔をこちらに向けるな! 息を吐くな! 呼吸もするな! チギューズドンでも食ってるんじゃないか、このキヲモタが!ドテウイこじらせてノロジャリのケミモミでコシってろ!あぁ、視線だけでも肌が汚れる!目玉をくりぬいてやろうか!! 死ね、死ね! 死ねぇぇぇぇぇ!」 


 連れてこられたダークエルフは、なかなかに元気な生き物だった。

 ところどころダークエルフの言葉による罵声が混じっているが、意味がわからん。


 なお、淡いグリーンの髪を長く伸ばした、黒ギャル系の美少女である。

 もう2カップほど胸があったら、個人的には目の保養なのだがな。


 さて、こいつがここまで元気でいられる原因だが……。

 ふむ、さしずめ少し小さめのCカップと言ったところか。

 たしかにこれではSOPの効果もあるまい。

 運のいい奴め。


「さて、正直に話してもらおうか」


 今日の尋問役であるルシェイドが、ライトの光をダークエルフの顔に当てる。

 彼女が顔をそむけると、ルシェイドは奴の顎を掴んだうえで、その顔へと押し当て

んばかりにライトを近づけた。


「んくっ!」

 ダークエルフの口からかすかに苦悶の声が漏れ、ぶれたライトの光がルシェイドの眼鏡のレンズを白く染め上げる。


 くくく、さすがダリオンから陰険眼鏡と呼ばれることはあるな。

 なかなか様になっているじゃないか。


 なお、ルシェイドが少女の注意を向けているうちに、背後から回り込んだ部下の嬢僕が少女の髪を一本盗み、呪符の張り付いた人形の中に入れる。

 よしよし、条件が整ったな。

 そろそろ始まるぞ。


 私は隣の部屋で隠しカメラからの映像の視聴しつつ、拳を握りしめた。

 あー、ヴァネリス。

 ポップコーンおかわり。

 Lサイズでね。


「まず名前を聞こう。 名乗れ」


 ルシェイドの命令に、ダークエルフの唇が硬く閉じられる。

 当たり前だ。

 妖霊モーの急所が名前であるように、この世界において名は重要な魔術の触媒となる。

 正直に名乗れば、どんな呪詛に使われるかわからない。


 私は大丈夫なのかって?

 普段名乗る以外にもちゃんと"隠し名"とか"忌名"という物があって、これを知られない限り私の名前は呪術の触媒にならないのだよ。

 こちらの貴族の常識だね。


「では、お前に名前を与えてやろう。

 今日からお前はチチナシだ」


「ち……チチナシ!?」


 怜悧な顔から吐き出されたとんでもない名前に、ダークエルフ改めチチナシは悲鳴に似た声を上げる。

 これはけっこう高等な呪術で、名前を知らない相手に勝手に名前を押し付ける事で支配力を得るやり方だ。

 ちなみにクラリッサみたいな奴隷商人が得意とする術である。


「ではチチナシ、お前に尋ねる。

 初恋の相手とその結末は?」


「は……? え? 私の初鯉はアネッサおね……んぐぅっ!」

 予想外の事を聞かれ、思わず動揺して意識が緩んでしまったのだろう。

 気づいた時には、よりにもよって固有名詞が出てしまっていた。


 慌てて舌を噛み切るも、すぐに治癒魔術を使える従僕がチチナシの口に手を突っ込み、千切れた舌を繋ぎなおしてしまう。


「ルシェイド様、処置が終わりました」


「よろしい。 では尋問を続ける」


 部下である従僕の処置が終わると、なんでもなかったかのように軽く眼鏡を押し上げて、ルシェイドはダークエルフに向き直る。

 チチナシとなってしまったダークエルフの美少女は、歯を鳴らす音が聞こえそうなほどほど大きく震えていた。


 しかし、アネッサか……ダークエルフの文化はよく知らないが、おそらく女性の名前だな。

 この女、そういう趣味か。

 ダークエルフは女ばかりだから、そういう奴も多いのかもしれない。、


「で、チチナシよ。

 お前の初恋の相手はアネッサというのか」


 陰険眼鏡がニヤリと笑う。


「じゃあ、その恋の結末はどうなったのかな?

 答えろ、チチナシ」


「んぐぅぅぅぅっ!? んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎっ!」


「ほほぅ? 抵抗するというのかね?

 ならば、こうだ」

 ルシェイドが指を鳴らすと、別の従僕が大きな鳥の羽でもってチチナシの脇腹をくすぐる。

 チチナシは全力で口を閉ざそうとするが、ルシェイドの呪力と鳥の羽の絶妙な刺激が、彼女の唇を強引にこじ開けた。


「いちゃあぁぁっ!? わ……わたひの……告白した時……おにぇ様には……しゅでにしゅきな人が……いにぇ……」


 誰にも聞かれたくない恥ずかしい過去を口にしながら、チチナシの目からポロポロと涙がこぼれた。

 おぉ、ちゃんと告白まではしたのか、偉いぞチチナシ。

 結果は見事砕け散ったようだが、それはそれでポップコーンがあと3杯は食える。

 他人の不幸は持つの味と葉よく言ったものだ。


 なお、ルシェイドは美少女を苛めて遊んでいるのではない。

 どう答えてもダメージになる事を尋ねてわざと抵抗させ、精神を大きく疲弊させているのだ。

 心が力を失ってしまえば、あとは何を聞いても素直に答えてくれる。


 これぞ我が公爵家に伝わる秘伝の拷問方法「恋バナ責め」だ。

 呪力の消費が半端ないので、使い手はかなり限られているが、私の執事はしても優秀でね。


 スレっからした相手には聞かないんじゃないかと思うかもしれないが、実は裏で知性を下げる呪術を同時に使っている。

 なので、これに素直に答え続けると呪力が浸透してしまい、次第に自分がなぜ質問を拒んでいるのかが分からなくなるのだ。

 つまり結果は同じこと。


 さて、チチナシちゃんといつまでこれに耐えられるな?


「……ごめんにゃさい、にゃんでも答えましゅのでゆりゅてくだひゃい」


 10秒!?

 わずか10秒だと!?


 チチナシ、貴様ぁぁぁっ!

 ダークエルフの誇りはどこにいった!

 お前には心底失望したぞ!


「お前たちはこの街の襲撃を予定しているのか?」


「ひゃい……あらひたちのあとから、おにぇーさまたひが、500名ほろきへ……」


「なぜオークたちを襲ったのか?」


「おーくの……おひんひんがほしかったんれふぅ……」


 ……おい。

 フラグメント目当てじゃなくて、エロ目的だったんかい!

 こいつら、さてはうちの領地の肉食系女子どもの同類だな!


 そうなると、オークたちを追ってくるのは確実でも、アスタロトの断章フラグメントについては気づいていない可能性もあるのか。

 いや……策はすべて最悪を想定して立てるべきだ。


 しかし、ダエオンは行方不明だし、ベア子が秘密兵器をもって帰ってくるのはもう少し時間がかかる。


 ダークエルフの動きは想定よりもずっと早かったし、対応が後手に回るとけっこう辛いぞ。


「せめてオークたちが戦力として役に立つならいくらか手はあるのだが」


 私がポツリと呟くと、実はさっきから横で尋問を鑑賞していたオークたちがデヘヘと情けない笑い声をあげる。

 ちなみにズボンの前はパンパンだ。

 どんだけブツがでかいんだよ。


 しかし、オークたちに股間を押さえたまま戦えとは言えないしなぁ。

 私にはわからないが、かなり動きにくいらしい。


「あぁ、そうか。

 薬で性欲をなくしてしまえばいいんだ」


 今日は領主をしていたのですっかり失念していたが、私は天才錬金術師でもある。


「オークの体に人の薬がどれほど効果があるのかわからないけど、とりあえず5倍ほど飲ませて実験するか。

 最悪、勃たなくなる程度で済むだろうし」


 その瞬間、オークたちが全力で逃亡を開始した。

 だが、領主様は素早く回り込んだ。


 領主様の攻撃。

 領主様は布団たたきを振り回した。

 効果は絶大だ!


 ……オークたちはおとなしくなった。




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カクヨムの31まで毎日更新のイベントが終わったのとリアルが忙しくなってきたので、ちょっとペース落とします。

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ゴブリンの上に死の金が成る 卯堂 成隆 @S_Udou

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