正義と大罪のユートピア
@マ行の使者
プロローグ
とある島を目指してリベルティの大海原を進み続ける一隻の船。特に大した事も起きない船内では寝ることで時間を過ごす者も多い。
彼女、マリナという名の冒険者もその内の一人。最初はその場で出会った人と喋りながら適当に飲み食いしていたが、次第に周りが船酔いなどで倒れてしまい結果としてマリナだけが残されてしまった。
もうこうなったら寝るしか無いだろう。しかし、マリナは度々夢を見る。遠い昔の記憶を彷彿とさせる…………夢。
◇◇◇
マリナの故郷はツェー大陸と呼ばれる小国が集まる不安定な大陸の中にあった。周りは紛争ばかりでいつ自分たちが巻き込まれるか分からない。だが、この夢の中の『自分』と『妹』はそんな事すらも知らない。普通の子供だった。
「おねえちゃん、コレもらってもいいの?」
「うん。アタシが直々に描いたスライムの絵が入った…………ロケットペンダントって言うんだっけ? ま、そんな感じのやつだから」
マリナは不器用ながらに笑い、妹も嬉しそうに銀色のペンダントの中の絵を見る。…………中の絵はお世辞にも上手いとは言い難いとても微妙な出来だったが、マリナの妹からすればとても嬉しいプレゼントだった。
だが、そんなプレゼントを用意する為にたまに村に来てくれる商人の人からなんとか安い価格で、空のロケットペンダントと紙と黒色の線を引ける道具をマリナは手に入れていた。様々な手間をかけてでも最愛の妹にはとびきりの贈り物がしたかったのだ。
そんなマリナのとびきりのプレゼントは彼女の妹のツボを刺激したようで、全身で喜びを表現しながら飛び跳ねる。
「わぁ!! なんかよくわかんないけどかわいい!! ありがとーおねえちゃん!!」
ガバッとマリナに抱き着いてくる。全身で愛を表現してくれる、そんな我が妹が愛おしくて愛おしくてしょうがないマリナだった。
しかし、今の彼女の傍にはもう……誰もいない。
◇◇◇
「…………夢、か」
ふと目が覚めると、まだ不規則に揺れる船の中。マリナは頭を掻きながら身体を起こす。廊下の木の床にそのまま寝っ転がっていたせいで身体中が痛む。
「次に行く街で何か見つける事が出来れば良いんだけど」
グググ……と背を伸ばしていると船内に大声で船員の声が響き渡る。
「まもなく貿易都市『オデュッセウス』に到着致します!! 現在の時刻は夜の真っただ中ですので降りる際には足元にお気をつけ下さい!!」
オデュッセウス。世界三大大陸の内一つであるヨナ大陸が誇る都市。…………と、よく言われるが実際のオデュッセウスはヨナ大陸では無く、ヨナ大陸の最西端にあるルボワ国周辺の孤島に造られた街である。
その為、こういった船を用いた入島が必須。例え上級転移魔法で移動するにしてもこの先の関所を無視すると身柄を即拘束されるので、船で来る人と同様に港の関所に向かう事になる。
マリナは観光のついでに離れ離れになった妹の手がかりを探しに来ていた。この幾千万もの人々がお金の為に交わる貿易の街ならば、何かしらの情報を持っている人が居るんじゃないかと考えていたのだ。
「……ヨシ。行こうかな」
彼女は、揺れが収まり港に停泊した船から降り関所へと向かっていった。
◇◇◇
「名前は?」
「マリナ」
「職業は?」
「協会本部所属の冒険者。一応上級冒険者成りたてだよ。ちゃんと証明書もあるし、ほら! 名前も書いてあるでしょ! なんなら盾も剣も持ってるから!」
「いや、武器類は見せなくても結構。うむ…………偽造では無さそうですね。書類の印鑑も本物のようです。では、この街に来た目的は?」
「観光だよ」
「滞在期間は?」
「まだ決めてない、かな」
「……うむ、良し。大丈夫そうだ。入って良いぞ。もう夜遅いからな、気を付けるんだぞ」
オデュッセウスでは、関所で少し面倒な質問に答えつつ身分を証明する書類を一点用意して提出する必要がある。マリナはたった今、その面倒な第一関門を突破した。
「ッ…………ハァ。疲れるなぁ。まあ貿易の街って言うくらいだから少しくらい厳重に確認しておかないと危ないのかもねぇ」
彼女はひとまず自分の今夜泊まる宿を探すべく、居住区の方へと向かっていった。
ちなみに、オデュッセウスの関所を抜ける際には担当の職員に『入島許可証』を受け取って適時島内で見せないといけないのだが…………。
マリナを担当した職員は……その『入島許可証』を渡し忘れていた。時間も遅いので、あの職員も眠かったのだろう。
まぁ、間違いなく処罰はされてしまうだろうが。
「さーーてと、豪華な宿が良いかなぁ。アレだ! 部屋の中から色々頼めるシステムの付いてるヤツ無いかな?」
そんな事とは
新世紀302年。銀の月の終わり頃のこれから暖かくなっていく時期の出来事だった――――――
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