第48話 和解と新たな旅路の始まり

 聖都から帰還した翌日の早朝、ユーイン家にサンサーラ教大司教オノス・フェニックと従者2人、そして賠償の立会人としてハイメス国の騎士2名が訪ねてきた。

 口約通り、聖都で起こしたマウリッツ卿誘拐事件の清算に来たらしい。


 僕も当事者としてマウリッツさん側の立会人として参加して欲しいと頼まれた。

 それを承諾すると、スピカとレオニスも「俺様もいってやる!」「俺も! 俺も!!」と付いて来た。

 しかし、同じ当事者のクーヤさんは何故か「対応したくない」と言い、部屋に引きこもり出て来る事はなかった。


 結局、王国騎士2名と僕が立会人として上座に座り、マウリッツさんとジョルディさんと対面する形で大司教と従者2人が座る。

 立会人と言っても、書類の確認と互いのやり取りに虚偽や不正が無いかを見届ける役だ。


 まずは大司教と従者が床に両手をつき、自身の額を床に擦り付け謝罪の言葉と共に深く土下座をした。

 それはもう「誠心誠意の謝罪」と言う言葉に相応しかった。

 もう2度と迷惑をかけないという口約をして、その証明として書面契約を交わした。

 書面の内容は以下の通りだった。


 ■ サンサーラ教団は未来永劫ユーイン家、及びユーイン家の領地に関わる全ての人々に決して迷惑をかけない事を誓います。

 上記事項は信者ならびに教団関係者すべてに周知徹底を致します。

 ※別途、当然ながらラルク様に関わる全てに迷惑をかけない。


 ■ サンサーラ教団は未来永劫ユーイン家の所有物の徴発行為を行わない事を誓います。


 ■ 本件で迷惑をかけた事を深くお詫びし、迷惑料・慰謝料を支払います。

 ・誘拐や暴行に対する迷惑料・怪我の治療費

 ・聖都までの旅費 往復分

 ・空腹にした慰謝料

 (順不同)


 上記の件の慰謝料として、合計8000万ゴールドを支払います。


 サンサーラ教団 代表 オノス・フェニック大司教


 僕は一通り書類に目を通すと、教会でスピカが言った事柄までもが全て記載してあった。


 3番目の”空腹にした慰謝料”って……大司教は本気にしたのか?

 僕の肩の上に鎮座するスピカは満足そうに口角を上げて「フフン」と鼻を鳴らしていた。

 まぁ、支払う本人が納得しているのなら僕が口出しする事も無い訳で……。


 スピカもレオニスも書類に文句は無いらしく、僕の両肩でくつろぎ始めていた。

 僕は確認を終えた書類をマウリッツさんに手渡し、ジョルディさんも胸ポケットからモノクルを取り出し入念に目を通していた。

 そして大司教の付き人が持参した箱を机に置き、おもむろに鍵を開けた。

 そこには大量の白金貨が綺麗に整頓して納められており、総額約8000万ゴールド入っていた。

 白金貨は流通量が大変少ないと聞いていたが、実物は僕も初めて見た。

 その後、互いに署名を交わし今回の誘拐事件は和解という形で幕を閉じた。


「ラルク様、もし聖都を訪れる機会がございましたら是非にサンサーラ教団本部へお立ち寄りください。もちろん、スピカ様とレオニス様も歓迎させていただきます」


 大司教はそう言って深々と頭を下げ、早々に聖都へと帰って行った。

 偏見かも知れないが下手に宗教団体に関わるとロクな事が無いと聞く。

 今回の件も因縁をつけて、貴族の…しかも公爵を誘拐するという事件を起こした訳だし、「神の聖名みなのもとには何をしても許される」的な考えがまかり通っていそうで怖い。

 大司教には色々と聞きたい事があるけれど……どうしたものか。



 自室に戻り、これからの事を考えていると部屋にクーヤさんが訪ねてきた。

 彼女は寝不足なのか、充血した目で申し訳なさそうに謝ってきた。


「君には何から何まで世話になりっぱなしで、本当にすまなかった」


「全然、気にしないでください」


 クーヤさんは聖都から帰還してからどうも調子が悪そうで、無理して作り笑顔をしているように見えた。

 ずっと部屋に閉じ籠っていたし、マリーさんの様子も変だった。

 僕は少し迷った末にクーヤさんに何があったのか聞いてみた。

 しかし彼女は何があったのかは話そうとせず、困ったように苦笑いするだけだった。


「そんな作り笑顔してたら心配にもなりますよ」


 あまりにも彼女の笑顔が痛々しくて、つい本音が独りでに口から洩れてしまった。


「心配してくれなんて頼んで無いだろう!?」


 その言葉が気に障ったのか、彼女は充血した目を見開き叫んだ。

 急に出た彼女の叫びに一瞬面を喰らった。


 悪気があった訳でもなく、無神経な台詞だったかも知れない。

 出会ってからそこまで日数は経ってないし、お互いに知らない事は多い。


 ……それでも友人として心配だったんだ。

 それが彼女にとって押し付けでしか無く、逆にストレスを与えていたと知って思わず口を紡ぐ。


 謝ろうと思った次の瞬間、彼女の頬を一筋の涙が流れた。

 叫んだ勢いで我慢していたモノが溢れたような、そんな感じだった。 

 彼女は焦ったようにまぶたを拭う、しかし今度は逆の目から涙が溢れた。


「くそっ! とまら……ない」


 意地でも涙を見せないようにとしているのか、彼女は両手で何度も何度も涙を拭う。

 僕が無言でハンカチを渡すと、彼女は少し戸惑いながら受け取り涙を拭いた。

 しばらくして、落ち着きを取り戻した彼女は気落ちしている原因を話し始めた。


 彼女が聖都に向かった日に隣村で宿を借りたが、襲撃を危惧してあえて宿泊しなかったという。

 そして、泊っていると思わせて村の片隅で野宿をしたらしい。

 予測が的中し深夜に野盗騒ぎが起きたらしく、騒ぎに乗じて村を後にした。

 誘拐事件解決後、その宿の事が気になり村に立ち寄る事を提案したと語った。


 それでクーヤさんはキルニス村を通る帰還ルートを選んだのか。

 酒場で聞いた話では宿の夫婦は野盗に殺され、仕入れに出ていた娘だけが生き残ったと聞いたらしい。

 その事を謝罪する為に翌日マリーさんと村に残ったと言う。


「娘さんに会ったよ、目測だけど私より3歳くらい年下だった。両親の亡骸に縋り泣いている彼女に向かって、私は事実をありのまま話し謝罪した」


 僕は村で別れた時の彼女の表情を思い出し、点と点が繋がったような気がした。

 自分の中の罪悪感に押しつぶされそうになりながら、娘さんの怒りを受け止めると決めた彼女の心境が、悲壮感として表情に出ていたんだ。


「娘さんは泣きながら”どうして!? どうしてお父さんとお母さんが死なないといけなかったの!?”と叫びながら私の胸を何度も叩いてきたよ。私は謝罪することしかできなかった。もしあの時、野盗から逃げなければ……野盗を倒し魔法スペルで店主達を治癒していれば、そんな考えが離れないんだ!!」


 彼女はもう涙を隠そうとはしなかった。

 公爵令嬢としての仮面を脱ぎ捨て、泣いて叫んで取り乱していた。

 僕は模擬戦の時のネイの泣き顔が彼女に重なったように見えた。


 思うよりも早く、そして自然に、泣き喚く彼女の頭を抱きしめて自分の胸に埋めた。

 子供のように泣き喚く彼女の頭をあやすように優しく撫でる。


 不思議な感覚を覚える。

 こういうのを「庇護欲」とでも呼ぶのだろうか?

  自分より強い人だけれど、今はただ”同い年の女の子”という感覚だ。


「つらかったね。クーヤさんは優しいから相手の気持ちを理解して、それがつらくて泣いてるんだよね」


 否定も肯定も返って来る事はない。

 ただただ、僕の胸は彼女の涙で濡れて熱く熱を帯びていた。

 僕はそれ以上言葉を発する事無く、彼女が落ち着くまで抱きしめていた。


 どれくらいの時間そうしていたか分からないけれど、クーヤさんは泣き止み落ち着いたようだ。

 そしてかなりバツの悪そうな表情を浮かべた後、僕を押しのけて背を向けた。


「……大泣きしたら、スッキリした」


 そう言い残し、彼女は部屋を出て行った。


 ……これで良かったのだろうか?

 泣いている女性への対応なんて、誰かに教わる事もなければ生きてきた中でも遭遇する事も少なかった。

 レヴィンに剣術だけじゃなく、女性の扱いも教わっとけば良かったかな。


 僕が溜息をついてベッドに腰を下ろすと、部屋の隅で日向ぼっこをしていた2匹の黒猫と目があった。

 2匹の黒猫は蔑むような眼差しを浮かべ、口を揃えて「たらし!」とか「ジゴロ!」とか聞いた事の無い単語を発していた。

 そういえばコイツら雌だし、やっぱり僕は間違った対応をしてしまったのだろうか?

 そうならそうと、口出ししてくれれば良いのに、終わってから文句を言われても困る。



「こほん。……でさ、明日聖都に向かおうか」


 僕は先程考えていた今後の予定をスピカとレオニスに聞いてみた。

 レオニスは「問題ないぜ」と言い、スピカに関しては「今から行こう!」と言う始末。

 ……この食いしん坊は、よっぽど聖都の屋台に未練があるらしい。


「今日は教団との和解を祝うからって、ジョルディさんが張り切っていたぞ。それでも今から出るか?」


「それを早く言えよ!! 俺様ちょっと厨房に行ってくる!!」


 そう叫んで、スピカは窓から飛び出して行った。

 猫ならではのショートカット方法だな、パーティーの準備の邪魔をしなければ良いけど。


 僕は荷物から地図を取り出しベッドに広げて寝そべる。

 レオニスも僕の横にちょこんと座り、地図に手を置いて「今ここだよな?」とハイメス国を指した。

 地図で大きな城が描かれている場所は聖都ウプサラ、そのずっと北西にあるのが港街レディポート。

 僕はその中間辺りを指さして「ここかな」と教える。

 キルニス村やウルソデン村は街道沿いに在るにも関わらず、この地図には記載されてはいない。

 情報が古いからかは知らないが、それくらい大雑把な地図なので結構不便に感じていた。


「取り敢えず、街道沿いを歩いて聖都の魔法学園スペルアカデミーを目指そうと思ってる」


「ほうほう、そこに何があるんだ?」


 僕はマウリッツさんの書状を取り出し、奥さんを訪ねるように言われた事を話した。

 それから魔法学園スペルアカデミーの敷地内に在る大図書館の地下に禁書庫があるらしいと伝えると、レオニスは少し神妙な表情を浮かべ「……ほう?」と一言呟いた。

 禁書庫と言うくらいだから古代ルーン技術だけじゃなくて、僕でも扱えそうな上位魔法ハイスペルが書かれた魔術書なんかも在るかも知れない、そう考えると結構楽しみだな。



 その夜、近くに住むユーイン家ゆかりの貴族達も参加した盛大なパーティーが開かれた。

 もともと手入れが行き届いた美しい庭園に、大きなテーブルを幾つも並べ、そこに豪華な食事が処狭しと並べられる。

 名前の分からないが、庭園内に咲く彩とりどりの花々が魔導具でライトアップされ、昼間とは違った雰囲気を漂わせていた。

 そんなガーデンパーティーは急な開催にも関わらず大勢の参加者が集まり賑わっていた。


 僕は酔って上機嫌となったマウリッツさんに連れ回され、貴族の人達の挨拶回りをしていた。

 部屋を出たクーヤさんもドレスに着替え、個別に貴族のお客様の対応をしているようだった。

 その表情は、昼間見た時と違って少し元気を取り戻しているように見えた。


 一通りの挨拶回りが終わり、ようやく解放された僕はそっと隠れるように中庭中央の噴水まで避難して休んでいた。

 貴族同士の付き合いって、こんなにも疲れるものなのか。

 平民の目線から華やかに見えた貴族社会も、存外大変そうだなと思った。


 そんな事を意にも返さず、スピカとレオニスはクラウスさんとマリーさんを自分専用の召使いのように指示を出し、パーティーの料理を全種類食べるんだと意気込んでいた。

 喋る猫という珍しい種族に、貴族の人達も驚き大層可愛がられているようだった。


「ここにいたんだね、探したよ」


 のんびりと夜空を眺めていると、クーヤさんがグラスを片手に歩いて来た。

 長い髪を下ろし高価なワンピースを身に着けてドレスアップした彼女は、巨大な槌を振り回していたとは思えないほど印象が違って見えた。


 彼女は僕の横に腰を下ろし、軽く微笑んだ。

 衣装のせいか同い年とは思えないほど大人っぽい雰囲気で、ほのかな香水の香りが鼻腔をくすぐる。

 変に意識をしたせいか、少しだけ緊張してしまった。


「私もこういう貴族然とした付き合いは苦手なんだ。実は冒険者ギルドのような場末の酒場みたいな場所の方が落ち着くんだよね」


 脱いだ赤いヒールを手にぶら下げ苦笑する彼女からは、思い詰めたような雰囲気は感じられなかった。

 ……良かった、どうやらいつものクーヤさんに戻ったようだ。


「な、何か言ってくれないか?反応が無いと寂しいんだが…」


「ご、ごめん。なんか雰囲気が違うから緊張してしまって。その、元気になったようでよかったな……っと」


 彼女は少し照れ臭そうな表情になり、小さな声で「それは君のお陰だ」と言った。

 しばし周囲に沈黙が訪れ、流れる噴水の水音と遠くから皆の談笑する声が薄っすらと聞こえた。


「明日改めて聖都に向かおうと思います、今まで大変お世話になりました」


「そ、そうなのか? もう少しゆっくりしても構わないぞ。父上も君の事を気に入ったみたいだしね」


 有難い申し出だけれど、既に5日間程度この屋敷に居座っている状態だ。

 マウリッツさんから話も聞けたし、何より魔法学園スペルアカデミーという未知の場所に、僕の好奇心が刺激されている。


「いえ、スピカ達とも話して決めたので明日の早朝には出ようと思います」


「そうか、そうだよな。君は旅人で冒険者だものな」


 クーヤさんは急に立ち上がり、僕に向かって手の甲を向けて差し伸べた。


「ラルク君、踊ろうか!」


 貴族のパーティーでは「ダンスを踊るんだ」とビクトリアが話していた事を思い出す。

 しかし平民の僕がダンスのステップを知る訳も無く、彼女の手を取れずに困り果てる。


 その様子に気付いた彼女はクスリと笑い、無理矢理僕の手を握って引っ張り上げた。

 その瞬間、体がふわりと宙を舞い彼女の体に引き寄せられた。


 そして、彼女のリードのもと他人には見せられないほど不格好なダンスが始まった。

 何度も彼女の足を踏みそうになり、焦る僕を見て彼女が笑う。

 そんな彼女の笑い声に僕もつられて噴き出す。

 いつしか動きに慣れ始め、笑い合いながら型に嵌らないステップを刻む。

 不格好なダンスパーティーは、美しい庭園の片隅でひっそりと2人だけの時を紡いでいた。



 深夜まで続いたガーデンパーティーは終わり、貴族の人々は酔い潰れて客室に運ばれて行った。

 クーヤさんは執事に指示を出し、酔い潰れた貴族の介抱させていた。

 僕は片付けをしていたジョルディさんを捕まえ、明日出立する事を話すと「畏まりました」とだけ言い頭を下げた。

 マウリッツさんも完全に酔い潰れていたから、挨拶はジョルディさんに伝えて貰おう。


 その後、僕達は部屋に戻り少ない荷物を整理して旅の準備を整えた。

 スピカとレオニスは大きく膨らんだお腹を見せるかのように仰向けに寝そべり恍惚の表情を浮かべていた。


 腹を見せて寝るなんて、完全に野生を失った室内猫の姿じゃないか。

 ……まぁ、可愛いくて良いけどね。

 僕は大きく欠伸あくびをして、布団に潜り込んだ。

 ・

 ・

 ・


 翌朝、スピカの猫パンチで起こされた。

 山際から太陽が顔を見せ始めた時間だったので、まだ少し眠い。

 夜行性のスピカにとっては、逆にもうすぐ眠る時間になるんじゃないかな。


 荷物を持ち玄関まで降りると、ジョルディさんを筆頭に全ての執事とメイドが整列をしていた。

 当然クラウスさんとマリーさんも列に並んでいた。

 もしかして、この人達は寝て無いんじゃないだろうか?

 その姿を見て、眠気が完全に吹き飛んだ。


「ラルク様、此度は大変お世話になりました。我がユーイン家従事者一同、心より御礼申し上げます」


 ジョルディさんがそう言うと、練習したかのように従者全員が一斉に頭を下げた。

 そして餞別と称して小さな黒い箱を手渡し、僕の目の前で蓋を開いて見せた。


 箱の中身は白金貨50枚だった。

 流通量で変動するらしいけれど、一般的な相場換算で単純計算すると約4000万ゴールドくらいになるはずだ。


「こ、こんなに貰えませんよ」


 あまりに高額な餞別に驚いて遠慮した。


公爵ロードマウリッツ卿からくれぐれもと申し付かっております。お気になさらず、お納めください」


 昨日、和解が締結した後にマウリッツさんが渡そうと決めていたとジョルディさんが話してくれた。

 そして「是非お2人にも、聖都のおいしい料理を食べてもらってください」と微笑んだ。

 うちの黒猫達の胃袋の許容量と消化率だけは誰にも負けないからな、聖都に着くころには腹ペコになっているに違いない。


「いいから貰っとけよ。これから向かう国の首都にしばらく滞在するんだろ? 余裕があった方が良いと思うぞ? 俺様の賠償金も入ってる事だしな!」


 僕が躊躇していると頭上からスピカが口をはさみ、自分の取り分も含まれている事を主張し始めた。

 まぁ、確かに聖都で長期滞在する事になりそうだし、宿代や生活費の余裕があるのは助かるんだが…

 金銭的に余裕があればあるほど、比例して2匹の大食らいの食事量が増えるような気がする。


「分かりました、ありがとうございます。マウリッツさんとクーヤさんにも僕がお礼を言っていたとお伝えください」


「承知したしました。ただ……いえ、なんでもございません。では、行ってらっしゃいませ」


 ジョルディさんは何か言おうとして飲み込んだような感じがした。


 こうして僕はユーイン家を後にした。

 ……と言っても、広大な庭園を通り正門まで辿り着くのに徒歩だと約30分はかかる。

 まぁ急ぎの旅でもないし、のんびりと行こう。

 頭上のスピカは大欠伸おおあくびをして張り付いたまま寝息を立て始めた。

 ついさっき目を覚ましたレオニスは軽快なステップで僕の前を歩く。


「おや? あれは」


 レオニスが何かに気付き目を細める。

 正門に近付くと、白いローブにフードを被った人物が守衛2人と話をしていた。

 その人物は僕の姿を見ると被っていたフードを下ろし、手を振った。


 朝日に照らされて、鮮やかな緑色のポニーテールが風になびいた。

 初めて出会った時と同じローブを纏い、ツンと尖った耳の半妖精種ハーフエルフが極上の笑顔で「ラルク君、遅いぞ!」と叫んだ。

 紛れも無く、その姿はクーヤさんだった。


「えっと、……クーヤさん?」


 僕が驚いていると彼女は首を傾げ、不思議そうなモノを見たような表情を浮かべた。


「聖都に行くんだよね、私が案内するよ」


 あっけに取られる僕の手を強引に引いて屋敷の正門をくぐった。


 守衛も少し複雑そうな表情を浮かべているように見えた。

 その守衛の表情を見て、先程ジョルディさんが言い淀んだ言葉の意味を理解した。

 ……”困ったお嬢様だ”と思ったけれど、口にはださなかったんだ。


 僕達は半ば強引にパーティーに加わったクーヤさんと共に、聖都ウプサラへと向かった。

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