第40話 いろあせぬあい

 気が付くと医務室のような場所だった。

 開け放たれた窓から夕陽が見え、優しい風が頬にくすぐる。

 ……体が痛くない、回復魔法で治してくれたんだ。


 気を失ったって事は、僕は負けたんだなと夕日を見ながら黄昏る。

 ……本気を出したネイは強かった。


 改めてルーン技術に頼った強さを自身の強さのように勘違いして自惚れていた事を自覚する。

 完全に公開サンドバック状態だったからな。

 見ていた騎士団の人達も、さぞ退屈な時間だっただろう。


 考え事をしながら夕日が沈むのを眺めていると、部屋のドアがノックも無く開いた。

 ドアを開いた人物はレヴィンだった。


「気が付いたようだね。傷は癒して貰ったけど、どこか不調はあるかい?」


 そう言って、ベッドの横のイスに腰掛けた。


「大丈夫、心以外はどこも痛くないよ」


 レヴィンは「冗談が言えるなら大丈夫そうだね」と苦笑する。

 わりと本音なんだけどな……

 模擬戦に負けた事よりも自分の実力不足と、公衆の面前でネイを泣かせた事が僕の心に大きく影を落としていた。


「そうそう、これを」


 レヴィンは僕に黒いカードを手渡して来た。

 これは僕の個人カードだ。

 模擬戦に負けたはずなのにどうして……?


「君が気を失った時にネイ様が負けを宣言したんだよ」


 レヴィンの話では僕は彼女に持たれかかったまま気を失ったので、ネイの勝利を宣言しようとした時に彼女が「……私の負けです」と宣言したそうだ。

 その後、彼女は気絶した僕を抱え舞台を降りたらしい。

 会場からパラパラと拍手が起こり、それはやがて大きな拍手に変わったそうだ。


「君を胸で抱えるネイ様の姿は、姫を守り戦う王子様のように見えて感動的だったんだろうね」


 そんな事があったのか……うん?

 胸で抱えるって、どういう感じなんだ?

 それに王子様みたいって……


 そこまで考えて僕は1つの結論に到達した。

 もしかして僕はお姫様抱っこの状態で運ばれていたのか?

 しかも、男の僕が女性の彼女に抱えられる形で……

 僕はその光景を想像して思わず頭を抱えた。

 どんだけ情けない姿を晒しているんだ僕は!!


 夕日に向かって叫びたくなる衝動を押さえ、レヴィンにネイの事を聞いてみた。

 レヴィンは浮かない顔をして「これを渡された後は見かけていませんね」と言っていた。

 彼女の号泣する姿を思い出して少し心配になる。


「ネイを探してくるよ! 今日はありがとう」


 そう言うと、レヴィンは「そうか、気を付けて」と笑顔で返してくれた。

 僕が医務室を出た瞬間、足元でぐにゃりとした感触を感じた。


「いっでぇぇぇ!」


 叫び声が聞こえて足元に目をやると、僕と床の間にレオニスが潰れていた。

 僕は思わず飛び退いて、潰れたレオニスを拾い上げた。

 びっくりした、怪我は……なさそうだ。


「だ、大丈夫か? レオニスだよな?」


「いきなり踏むなんてひどいぜ、あるじ」


 いや、まさか出入口の真ん前で寝ていると思わないだろう。

 レオニスの鳴き声を聞いたのか、医務室からレヴィンが顔を覗かせて苦笑していた。

 そういえばスピカの姿が見当たらないけど、どこへ行ったんだろうか?

 僕がキョロキョロと周囲を見渡していると、それを察したレオニスが口を開いた。


「先輩ならシャニカって子供と、その取り巻きに抱えられてどこかに行ったぜ」


 あのスピカがおとなしくシャニカさんに付いて行くとは到底考え難い。

 ……何か食物に釣られたな。


「所で、あるじは何を急いでんだ?」


「ああ、……ええと、ネイを探そうと思ってね」


 そう言うと、レオニスがさっき戦ってた女なら見たぜと返答する。

 なんでも以前船上で見かけたこの国のモンスターに跨って飛んで行ったと言う。

 この国のモンスターに跨って飛ぶ?もしかして騎士団が保有するワイバーンの事か。

 でも、いったいどこへ向かったんだろうか。

 ワイバーンに乗って出かけたなら、少なくとも歩いていける距離じゃなさそうだな……。

 仕方が無い、今日彼女を探すのは諦めるしかないか。


「じゃ、レオニス帰ろうか。そうだなぁ……どこかで夕飯でも食べよう」


「おお、いいな! 行こう!」


 レオニスはパァっと明るい表情になり、僕の肩へと飛び乗った。

 そして僕の頬にスリスリと自分の頬を擦り付けてきた。

 ルーティアさんや知り合いの姿は見当たらなかったので、僕達は入口の衛兵に挨拶をして宿舎を後にした。


 帰り道、レオニスたっての希望で魚料理を食べて帰った。

 帰宅後しばらくして遅れて帰ってきたスピカは満足そうに腹を膨らませていた。

 予想通り宿舎で餌につられていたようだ。

 満足そうにしていたにも関わらず、レオニスが僕と一緒に外で夕食を食べたと自慢すると「ずるいぞ! 先に帰るし! 俺様だけ仲間外れかよ!!」とプリプリ怒り出した。


 ずるいも何もそんなにお腹パンパンにしておいて、今でさえ食い過ぎだろ。

 結局2匹が取っ組み合いの喧嘩を始めたので、軽く仲裁をしてスピカの機嫌をとる。

 最終的に明日高級肉料理店に連れて行くという事で機嫌を直した。


 それにしても、今日はさすがに疲れたな。

 僕はネイの事が気掛りになりながらも、極度の肉体疲労からくる睡魔にあらがえず深い眠りへとついた。



 ――翌日


 昨日の模擬戦を終えて、個人カードが手元に戻ったので今後の事についてルーン工房の皆に事情を説明した。

 ”旅に出て世界を見て回る”という壮大な話は先輩達に信じて貰えず、出張して冗談が上達したなと笑われた。

 困ったな、セロ社長の口から説明して貰うしかないのだろうか。


 その日の午後、タイミングを見計らったようにグレイス軍務大臣がルーン工房に来店した。

 昨日開催された模擬戦の総評が始まり”根性だけはSランク冒険者”という評価を受ける。

 しかしそれ以外はDクラスだと酷評を受け、1時間近く有難いお言葉をいただいた。

 そして僕が旅に出るという話題となり、それを盗み聞きした先輩達はようやく僕の話を信じてくれた。


 グレイス軍務大臣が帰った後、僕は先輩達に取り囲まれて質問攻めに遭うハメとなった。

 男の先輩からは「よく決心したな、すげーよ!」と共感的な激励を受け、女性の先輩からは「明確な目的が無い旅って何か意味あるの? 休暇をとって小旅行で良くない?」と、もの凄く現実的な意見を言われた。

 ……”男は浪漫を求め、女性は現実を見つめる”とはよく言ったものだ。


 この後、男派閥と女派閥の壮絶な意見のぶつかり合いが始まり、そして結論が出ないまま後に”火の七日間”と呼ばれるルーン工房全体を巻き込んだ大激論が繰り広げられたのだった。

 その内容はあまりにも不毛なため、以降語られる事無くセロ商会中央広場ルーン工房の黒歴史として歴史の闇へと消えた……らしい。

 僕はネイの事と旅の準備で忙しかったので、結末はよく知らない。


 工房の仕事を終えて本社のセロ社長を訪ねた。

 昨日の事を話し、無事個人カードを返却して貰った事を報告した。

 セロ社長もネイの事を気にしていたけれど、それよりも気掛りな事があると質問をしてきた。


「ラルク君はいつ旅に出ようと考えているんだい? 個人カードが戻ってきたのならいつでも行ける訳だよね? ああ……誤解の無い様に、早く行けっていう話じゃないからね。ただ君の抜ける業務の穴は結構大きいから、早めに人員補充計画をカルディナ君と相談しないといけないんだ」


「一応、今月末をめどに考えています」


 名目上、長期休暇という扱いでルーン工房に籍を残して貰える。

 本当に何から何までお世話になりっぱなしで感謝の言葉もない。


「そうか、分かった。では来月1日付けで補充人員の調整をしよう。……と言っても後10日か、明日には人事発令を出さないとね」


「すみません、ご迷惑をおかけします」


 こうして、会社関係の人々への報告を終えた僕は、再度ネイに逢いに魔法師団の宿舎を訪ねた。

 そこで丁度待機していたアネッタさんとシャニカさんが対応してくれた。

 結局ネイは不在のままで、昨日は宿舎には帰ってきていなかった。

 アネッタさんの話によると、ネイは今月末まで長期休暇願いが提出されているらしい。

 ネイはいったいどこへ行ったんだろうか、明日には帰って来るかな?


 しかし、僕の考えは甘かった。

 何日経ってもネイが宿舎に戻る事はなかった。

 ルーティアさんが仕事の合間に調べてくれた情報によると、どうやらネイは国外に出ているらしく行先までは不明だという話だった。

 シャニカさんが「このまま帰って来なかったら……グスッ」と、今にも泣き出しそうな顔で不穏な事を言い、アネッタさんとルーティアさんも深刻な表情を浮かべる。


 ……僕が彼女を傷付けたせいだ。

 僕はあの日の彼女の泣き顔を思い出し、心の奥がズキズキと痛んだ。



 ――結局、ネイは帰って来る事は無かった。

 そして、彼女に逢えないまま9日間が過ぎた。



◇◇◆◇◇◇



 タロス国の合同演習以降、溜息が増えたとカルレン副団長に言われる。

 先日行われた凄惨な模擬戦のせいだと言い、適当に話を濁す。


「彼は一般人ですからね、魔法師団の副団長殿には勝てないでしょう」


「……そうですね」


 ネイ様が自ら負けを宣言したけれど、その試合内容は実力差が歴然とした戦いで騎士団の誰もがネイ様の勝利だと思っている。

 カルレン副団長は僕の替わりに出勤していたので、試合内容だけを聞いたのだろう。


「それよりもあの模擬戦以来、魔法師団副隊長殿の評判はもの凄いですね。私も拝見したかったです」


 模擬戦での華麗で圧倒的な強さを示すと同時に、今までの冷酷で冷たいイメージを完全に覆す子供のような大泣きが”ギャップ萌え”という状態を作り出し、騎士団に所属する男女性別問わず人気急上昇していた。

 しかし本人は姿を隠し国外へと旅立ったという話だ。

 当然噂が噂を呼び、尾鰭に背鰭までもが付け足されていた。


「戦っていた少年への恋に破れ、傷心旅行へ行った」とか「抱きかかえたまま駆け落ちした」等が噂の主流となっており、酷いのになると「模擬戦自体が2人の歪んだ愛情表現」だとか「浮気の代償として公開処刑された」と囁かれていた。


 男連中は希望的観測もはらんだ願望として”少年に振られた論”が広まっており、ネイ様とラルクの良好な関係性に詳しいルーン工房派遣組の女性研究者(仮)達の話では”愛ゆえの擦れ違い、そしてより深い絆の獲得論”が往々に語られていた。

 真実を知っている自分としては、どう転んでもラルクが不毛な立場だと感じる。


 それにしても……あのネイ様が感情を押さえられないほど怒り、そして涙を流したのは正直驚いた。

 しかし、彼女は何処へ向かったのだろう?

 ネイ様の取り乱し方は尋常じゃ無かったが、それが原因で国外へ出たとは思えない。

 彼女が国外に出たのには必ず別の理由があるはずだ。

 憶測でしか無いが、何か国内では入手できない物を探しに行った……とかじゃないだろうか。

 あくまでも仮説でしか無いが、それ以外に真面目な彼女が行動する理由が思い付かない。


 セロ社長に聞いたが、今月末にはラルクは旅へと出るらしい。

 僕は実力のあるネイ様の事より、ラルクの事の方が心配でならなかった。

 彼は昔に比べ確かに強くなった。

 しかし冒険者として旅に出るというのは、彼が考えているより危険が多い。

 模擬戦の時のように丸腰で猟犬のようなモンスターと対峙する事だってある。


 いくら特殊才能ギフトのおかげで死なないとはいえ、傷や欠損部位は自然治癒しないようだし……

 下手したら話に聞いた故郷での拷問よりも酷い目に遭う可能性だって否定できない。

 そう考えると、自然と溜息が漏れる。


 他者の事でこんなに頭を悩ませたのは初めてだ。

 はぁ、出発まであと数日か、本当に困った親友だな。



◆◇◇◇◇◇



 昨夜はルーン工房で送別会をして貰い、先輩達と楽しい時間を過ごした。

 ジャン先輩は悪酔いしたせいかネイ並みに大泣きをして、シラフの状態の女性達がドン引きしていた。

 そして今月の最終日にあたる今日は、僕が旅に出る予定にしていた日だ。


 今までお世話になった人達に挨拶を済ませ、後は定期船に乗り込むだけ……

 港にはレヴィンとセロ社長とカルディナ先輩とルーティアさんが、わざわざ見送りに来てくれていた。

 人混みを見渡すが、今日もネイの姿は見当たらない。


 最後に交わした言葉が「……ごめんね」なんて、凄く悲しいな。

 ……きちんとお礼を言いたかった。

 それに自分の気持ちも、ちゃんと伝えたかったな。


 またいつか逢える時が来るのだろうか?

 その時は昔話として、お互い笑って話ができるだろうか。


「おい、そろそろ時間だぜ?」


 頭頂部で寝そべるスピカが首を上げて船の方を眺める。

 乗客達が列をなして、ハイメス国方面行きの船に乗り込んで行くのが見えた。

 僕は少ない荷物を持ち、皆に頭を下げた。

 スピカは器用にぶら下がり落下を避ける。


「そろそろ行くよ、今日は見送ってくれてありがとう」


 そう言うと皆が少しだけ悲し気な表情を浮かべたように見えた。


「成長を期待しています、いつでも戻ってきてください」


 セロ社長が優しく微笑み、握手をしてくれる。

 僕も少年だった頃のセロ社長みたいに何かを発見してみせます。


「なるべく早く帰って来てくださいね」


 口調は普通だけど、カルディナ先輩の顔には「明日にでも出社して!」と書いて有るように見えた。

 ……幻覚だと思う事にしよう。


「副隊長の事はお任せください、私が補佐としてきちんと支えます。でも、いつか必ず戻ってきてあげてください」


 真面目なルーティアさんがネイを支えてくれると約束してくれた。

 こんなに心強い事はない。


「ラルク……君の旅に創造神の御加護があらん事を。僕も騎士団長としての責務を果たしながら、親友の帰りを待っているからね」


 レヴィンと硬く握手を交わす。

 親友という単語を面と向かって言われるのは少し照れ臭くて、そして凄く嬉しい。


 僕達は大型船に乗り込み、デッキから皆を見下ろす。

 下からでは分からなかったけど、港には想像以上に人々が集まっていた。

 デッキにはこの国から出る人々が手を振り、港ではこの国に残る人々がそれを見送る。

 そんな時、街中に風でなびく横断幕のような物が視界に写った。


 その横風を受けて揺れる横断幕には「ラルク頑張れ!」と書かれていた。

 あの場所はルーン工房のある位置だ。

 そして屋根の上には小さな人影が手を振っているように見えた。


「見えるかラルク! あれって工房のヤツラだぜ!」


 遠過ぎてよく見えないけど、あれが先輩達だってのは分かった。

 嬉しくて思わず笑いが漏れる。

 僕はルーン工房に向けて大きく両手を振った。

 ……届いているといいな。


 もうすぐ出航という時間になった時、急に周囲が騒めき始めた。

 乗客の視線は青空へと向けられ、僕達もつられて見上げる。

 1匹のワイバーンがこちらに向かって羽ばたきながら近付いて来た。


「あれはこの国のヤツだな。でもイケメン騎士は下にいるし誰が乗ってんだ?」


 レオニスが僕の肩の上で目を凝らしワイバーンを凝視している。

 出張の帰りを思い出し、既視感に似た感覚を覚える。

 僕の視力ではほとんど見えないが、僕はあのワイバーンの背に誰が乗っているか分かった。

 多分……ネイだ。


 タクティカ国の国章の刻まれたワイバーンは船上を旋回し、乗客から驚きの声が上がる。

 デッキには大勢の乗客がおり、着陸できるスペースは無い。

 そんな時、ワイバーンの方から女性の声が聞こえて来た。


「……ラルク! どこ!?」


 ワイバーンの背から姿勢をずらしたネイが身を乗り出しているのが見えた。

 やっぱり、あれはネイだ!間違いない!!

 彼女は片手に手綱を握り、逆の手をギリギリまで伸ばし何かを握っている様子だった。


「ネイ!!」


 僕が大声をあげて手を振ると、ネイはそれに気付いて手綱を操り上空を更に旋回する。

 ワイバーンがバサッと大きく羽ばたき、その風圧が周囲を通り過ぎる。

 そして乗客が「うわっ!」と叫び、目を瞑った。


 何度か上空を旋回して何かタイミングを計っているように見えた。

 そして少し離れ、僕と直線状の位置につき滑空しながら真直ぐこちらに向かって来た。

 ギリギリまで接近したワイバーンからネイが手を伸ばし何かを渡そうとしているように見え、僕も受け取ろうと思いっきり手を伸ばした。


 パシッ!!


 ワイバーンが斜めに傾きながら僕の頭上を通り過ぎる瞬間に一瞬だけネイと手が触れ、何か小さな物を手渡された。

 僕が手を開くと先端にクリスタルの付いたネックレスが握られていた。

 市販品というには不格好な感じで、ほんの少し歪んでいるように見えた。


 僕の手を覗き込んだスピカが「これ手造りだな。あのねーちゃんが作ったのか?」と言った。

 レオニスも興味津々といった感じで覗き込み、「クリスタルの中に花が入ってんな、結構手がこんでるぜ。」と言う。


 もしかして、ネイはわざわざこれを造るために国外に出ていたのか?

 ネイの乗るワイバーンはもう1度大きく旋回して船の周りをグルっと飛んだ。

 僕はネイに聞こえるように大声で叫んだ。


「ネイありがとう! 行ってきます!!」


 僕の声が届いたのか、彼女の微笑んだ顔が一瞬だけ見えた。

 ……そしてワイバーンは王都の方角へ悠然と飛び去って行った。


「ふぅうん……なるほどね。」


 頭上からスピカの何かを理解したような独り言が聞こえて来た。

 姿を見なくても聞いて欲しいオーラが溢れているのが分かる。


「先輩、何がなるほどなんだ?」


 僕が聞く前にレオニスがスピカに質問した。

 手間が省けたな、スピカはいつものように発見を語り始めるはずだ。


「ん~聞きたいか? ラルクも聞きたいか?」


 いつも以上に勿体ぶる感じで聞いてくる。

 非常に面倒なヤツだな。


「うん、教えて欲しいな。どうしたんだ?」


「さっきのアクセサリーに花が埋まってたろ? その花は”グローブ・アマランス”って言うんだ。その花言葉は――」


 ――ブオオォォォォ!!


 スピカが答えると同時に、船の汽笛が周囲に大きく鳴り響いた。

 どうやら、ようやく出航の時間になったようだ。

 ゆっくりと船が動き出し、周囲の景色が流れ始める。

 僕は貰ったネックレスを身に着け、港の皆に向けて再度両手を振った。


 これから新しい土地へ向かう。

 これまでに経験した事の無い冒険の予感が僕の中に形となって湧き上がる。

 期待と不安を胸に、船は海鳥と共に大海原を進んで行く。


 ――こうして僕は、もう1つの故郷タクティカ国を出航した。

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