11. よすがの演説
「
文字通り飛び起きた私の息は完全に上がっており、心臓は痛いほどに脈を打っている。横では同じく飛び起きたのだろう、ひどい
「
私達を飛び起きさせたあの怒声がまた
起きたばかりなのに
気づけば先に着替え終えたミールが小上がりに
「へ、部屋の鍵!!私がかけるから先出て!!!」
視線は向けず、声だけでミールにそう
「え?!あ、うん!!分かった!!!!」
そして私の声に少し驚きながらも、
一足先に
朝日の眩しさに一瞬だけ目を
◇
寝癖もそのままに駆け出し、なんとか広場の
いくら昨日の握り飯と
……てか、他の子たちはどうなんだ?そんな疑問がふとよぎった私は、息を整えながら視線を軽く上げ、周囲にいる人間を見渡した。
だが、意外にも私とミールのような痩せた人間のみ……というわけでもなく、猫や豚、角の生えた
私を含め、ここにいるのは似たような
「
この嫌に脳に響く野太い大声。ましてや
集まった奴隷らの
そんな剛毛たわし男はこちらをゆったりと見回すと、よしといった具合に笑い
「さぁーて、大声で起こしてすまなかったな!一晩ぐっすりと眠れたか?」
意外にも、最初の一言は軽い謝罪からだった。この人、思いの外いい人なのか?……いや性格良くても不快だったことには変わりないけどさ。
そんな私の内心をよそに、彼は言い聞かせるように話を続けた。
「早速だが、奴隷であるお前らはここにつれてこられた理由を知らないはずだ!なんせ奴隷商から買った奴らが殆どだからな!そのうえで、今回はこれからお前らがここで生きていく上でしなければならないこと、覚えなければならないことを説明するために、この広場に集まってもらった訳だ!」
そういえば、昨日に部屋まで案内をしてくれたあの男もそんな事を言っていた。それが朝イチで叩き起こされるとは思ってもいなかったが。
「ということで!
へぇ~コウレンが教えてくるんだ。じゃあ結局空飛んでる時に聞けたじゃ………………いや待て、この男なんて言った?コウレンのこと、学院の頭って言わなかったか……?
そんな戸惑いを尻目に、気づけば剛毛たわし男は背を向けて奥へ下がり、合わせるように見慣れた眼鏡のあの顔が私たち奴隷の方へと歩み寄っていた。
「……えー、改めてご紹介に預かりました、この
がくいんちょう……学院の、多分、
奴隷向けの説明日前日に、なんの根回しもせず私らをここにねじ込んだんだ。その時点で、ある程度の責任者なのは明白だった。ただ、まさかここのトップとは思っていなかった。ぶっちゃけ
しかし……これは思っていたよりもラッキーかも知れない。なんせ、彼は(たぶん)高等教育機関の代表だ。社会的地位は安定しているだろうし、現代日本ほど文化や社会が発達していなさそうなこの世界なら、その
だが、内心浮かれ気味な私の様子に彼は気づく様子もなく、調子をそのままに言葉を続けた。
「……さて。早速ですが、奴隷である皆さんたちの
お役所の、財産……?彼の言った通り、てっきり私はこの学院に買われたものだと思っていた。では、なぜ私たちはここに集められたのか?
それに対する答えは、あっさりと彼の口から語られた。
「では、そんな皆さんに
その一言を聞いた
周囲の
迷宮に
ふと、右腕が誰かに強く握られた。見ればそこには両手で私の手を握り、こちらを見つめているミールがいた。その表情は重く暗い。声をあげ取り乱してこそいないが、胸が苦しくなるような表情だった。
「み、ミール……?大丈夫?」
「アズサ……迷宮、ダンジョンだって……」
不安そうに言葉を絞り出したミールを前に私は何も言えず、とりあえず落ち着かせようと両手で彼女を抱き寄せていた。同時に、彼女がポツリと
ダンジョン。この表現で私はようやく迷宮の存在を理解できた。
いわゆる剣や魔術の世界でおなじみの、モンスターやドラゴンが
なろう系の創作でもよく見かける、ファンタジー作品には欠かせない場所。けど、アジアン……というか、日本風なこの世界だと、どんな場所でどんな存在になっているんだ……?
結果として
周囲は相変わらず不安に飲まれている。それどころか、ざわめきがどこか
「――静かにッ!」
――その時、コウレンの一声が
「……皆さんが
……え、迷宮ってそんなに人が死ぬような場所なの?え、ガチで?え、
正直に言えば半信半疑なコウレンの言葉。だが、先のざわめきとミールのあの表情を思い出すにつれ、まだ実感はなくとも徐々に突きつけられた状況の
喉が少し乾く。胸の奥がじんわりと苦しい。思わず下唇を軽く噛む。鼻で吸った息の音がやけに大きく聞こえる。呼吸が、はやい。あ、やばい、ちょっと怖――
「……しかし!」
再びコウレンが声を張った。その一声に私の意識はまた現実の彼へと戻った。なんとか水面へと顔を出し息をしたような、そんな感覚を覚えながら、私はゆっくりと深呼吸をしながら耳を傾けた。
「しかし、皆さんをこのまま迷宮へ放り込むなんて無責任なことはしません。皆さんのために、私達は今ここにいます。私や後ろにいる先生方が八ヶ月をかけ、皆さんに迷宮で生き抜き、戦い、帰る術をしっかりと教えます」
そう言いながら、コウレンは彼の背後に並んでいる五人の大人に向かって右手を広げた。そして手はそのままに、こちらの群衆から目を離すこと無く言葉を続けた。
「そして……四十八ヶ月、つまり二年間を無事終えることが出来れば、皆さんには迷宮探査員としての資格と合わせ、市民としての
資格と戸籍。なるほど、あの時の未来云々ってのはこれか…………ん?待って?今なんて言った?四十八ヶ月を、二年間って言った……?
「え、ねぇミール……」
「ん、何?」
「この世界って二十四ヶ月で一年なの……?」
「……え、知らなかったのアズサ?」
こいつマジかよ、そう言わんばかりの表情でミールは呆れながら返事を返した。あ、はい。この世界はそうなんスネ。すっげぇ……なんか、訳わかんねぇや!!
じゃあ何?元日本人の私にしたらこれから実質四年間、デスゲーム生き残れってこと?…………バーカ!!!!!バーーーカ!!!鬼!!!!!悪魔!!!!コウレン!!!!!
予想外の日数にクソガキ
「もちろん、その二年間で苦しいことや辛いこと、命の危機に
まるで何も知らない大衆を
しかし、幼い他の奴隷らには思いの
「何かがあれば私たちがいます。そして、君たちには可能性がある。……今日から四十八ヶ月、よろしくお願いしますね」
先とは違うどこか
わざとらしい微笑みを貼り付けた顔。それを私は何も言わず、ただじっと見つめ返していた。
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