遥かなるプッティン・オン・ザ・リッツ

 プッティン・オン・ザ・リッツ。

 どこぞの平民ルイーズが帝都専門学校の生徒からギャンブルで巻き上げた金をすべてポーカーで奪い去り、出禁の裁判中も裁判所命令が出るまで莫大な金額を奪い去った結果倒産寸前にまで追い込まれたホテルである。

 かつての一流ホテルの一つは勝ちすぎた平民を裁判で叩き出したアンフェアなホテルとなり、食事をするのも宿泊するのもいいがカジノで勝つと出禁にされると言われ人は寄り付かなくなっていった。

 よりによって裁判所の根拠を狂わせるためにその平民ルイーズは今日はブラックジャク、今日はルーレット、今日は丁半博打と勝負をころころかえてポーカーで勝ちすぎるからだめだという裁判所命令をたくみに引き伸ばしていった。

 最終的に公営であれば違法だが私営で年収以上をこれだけの種類で勝つのであれば出禁は認められると判斷を下されたため、だったら私営でギリギリの利益を狙えば出禁に出来ないだろうと割きったため余計なことをしやがってと各ホテルから嫌われたため肩身も狭くなっていき縮小の一途を辿っていった。

 そしてよりによってホテルの利益はその平民の友人たちウェラー公爵とハリスン侯爵夫妻一派の会食などでかろうじて保持されていた始末であり彼にとっては屈辱この上なかった。

 そのうえ出禁にした平民はどんどん出世していく、神聖帝国戦争で平民が大公位を得た際にはあの店はあの大公を出禁にしていると拡大解釈され言われたい放題、一般客も遠ざかった。

 15年ほど前にその大公が帝都を離れ、夫の侯爵も爵位を譲り国境を固めに行くと大公の友人たちウェラー公爵とハリスン前侯爵夫妻一派も大きく会食をすることもなくなり、個別にホテルの食堂を使うだけになった。

 この食堂以外はほぼ使われず本館の殆ども使われることなく10の部屋が埋まれば上々という倒産寸前の状況で潮目が変わったのは約4年前、リリーナ・シュツッテンファンベルクとご友人達がやってきたときだった。


「随分ボロいホテルですわね。かつての一流ホテル、プッティン・オン・ザ・リッツもこのザマですか。カジノはスカスカ、食堂はそれなり、ホテルの一室は2階より上は使ってなさそうですし……」


 5歳の公爵令嬢にボロクソ言われながらもカルベニアンはオーナーとしての教示を崩さずにしていた。このホテルを支えているのは食堂の利益、そして屈辱的なことにかつてこのホテルをここまでの状況にした連中の貸切使用料金からの内部留保である。


「このホテルはかつて平民であり、今の新設貴族である大公閣下を出禁にしたので避けられているのですよ」

「ふぅん……出禁を解けばいいのでは?」

「そうはいきません。裁判所にすがって出禁にしたのです。それを解除したら他のホテルも恨むでしょう。余計なことをした挙げ句逃げ出したと。だからこそカジノの入口だけは金をかけているのです」


『ルイーズ及びルイーズ・ハリスン侯爵夫人、ルイーズ大公のご利用お断り』

 わざわざ金で作られた鉄板で書かれた利用拒否宣言を示すとカルベニアンはニッコリと微笑んだ。


「あの方は私が死んでもプッティン・オン・ザ・リッツのカジノは出禁です。仮に出禁を解いたことでこのホテルが盛り返すとしても出禁に正当な理由があったことはホテルの矜持として貫き通します。それに……」

「それに?」

「当ホテルの食堂は絶品ですよ。私が死ぬまで食堂だけでもホテルを持たせてみせましょう。それに縮小して各館を閉じた今でもよく使う部屋だけは綺麗にしておきます。それに……外装のボロさも味があるでしょう?」

「……ボロを着ても心は錦ですか?」

「多分そんな感じですよ、それにボロも温かい服に直しておりますから」


 そういったカルベニアンを見たリリーナはじっと黒い瞳で彼を見つめると。


「では楽しませていただきましょう、今日取れる部屋はどれだけ?」

「30室です」

「へぇ……3階まで使えますのね」

「もちろん、それくらいは可能です。何があるかわかりませんので。さすがに本館だけでも87室の管理は今の人数では不可能でして。しかし10階、最上階のスイートルームは空いております」

「ほう、なるほど……いいですわね、それでは全室借りましょう。私は最上階を、あなた達は好きな部屋を選ぶとよろしいですわ」

「では私は……そのひとつ下にしましょう」


 エスメラルダ・ブラックサルデンがそういうとさらっと9階の部屋を提示したカルベニアンは自信を持っていた。


「お部屋の準備をいたしますが、直ちに案内できないのは当ホテルの手落ちです。どうぞ食堂でお過ごしください」

「ええ、ありがとう。誰か、明日までお暇なお友達を呼んできてくださる?ここに泊まるように」


 全室を埋めるため友人たちをかき集めたリリーナは次々ホテルの部屋を抑えていった。

 サービスとしてケーキなどを出されたリリーナたちは味に満足しながら部屋に案内された。


「お服はこちらに、クリーニングしておきますのでそれまではこちらのガウンなどをお使いください。もしも誰かにお会い似合うのであればクリーニングの時間はずらしますのでどうぞいつでもお呼びください」

「ええ、急な泊まりですから誰とも会いませんわ。」


 翌朝、朝食を食堂で取ったリリーナは全員の話を聞いて決断を下した。


「このホテル、不足してるものは何かしら?」

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