プッティン・オン・ザ・リッツの夜

 財閥のトップである3人の会議は夕方にまで渡っていた。

 財閥下の社長も集まりホテルの一室を抑えて今後のことを話し合っていた。


「そちらは?」

「だめだ、寄付金に関していくつか脅しをかけている。総帥からもあまり好かれてはいないから切り捨てられる……」

「私はやっていないが下部がやっている。連帯責任で飛ばされるかもしれない。ゼジュユルド氏も責任を逃れられないならば派閥の我々は終わりだ」

「私も代表から好かれていない。ところで高田財閥は?」

「来ない。ガンギブソン社長もパーウェル社長も来ないのであれば頼りにならないだろうが……。高田総帥も今は寄れないだろう」


 会議は踊る、されど進まず。

 鉱山系の財閥である高田財閥がいなければ話ができない各財閥の人間もおり、身を守ろうにも盾にしようにも行き詰まっている人間は今をどうしようにも自分たちだけではどうにもならず、やけになりバンケットルームで痛飲している。

 このように首が飛ぶだろうと覚悟してる人間は着地点を探して話し込んでいる。

 そしてまた別の一室では……。


「動議を出す」

「ベルソンヌのところは次の会議で出せるのか?」

「こうなれば総帥に降りてもらう他ない。どうあがいても痛い目を見るぞ。我々が軽視していた商務省から、しかも最低限連携を取っていたフーヴァーではなくトマスだ。失脚した嫌がらせだぞ!先に総帥を切れば手を出せないかも知れない。最悪退職金を貰えれば失敗しても良い。この行動で席次が維持か温情で下がらなければ良い」

「タルタも保険のことで揉めたからな。我々はフーヴァーにも敵視されている」

「高田鉱山の保険もロートルドの傘下企業の保険もあるからこれはまずい。勝てるのか?」

「我々3人はいつか財閥のトップを取るために暗躍してきたではないか。これは絶好の機会だ」

「しかし、失敗した場合は?」

「こちらで記者会見を開く。財閥を批判して辞任を表明して逃げる」

「記者会見が許されずその場で罷免された場合は?」

「同じよ、元社長として暴露してやる。いつまでこのように干されねばならんのだ」


 それぞれがクーデター計画と失敗後にどう逃げるか、どう民衆の指示を得るかを話し合っていた。

 そしてまた別の一室。


「反対派粛清の絶好の機会だ。我ら一族だけが社長になれば良い。すべての責任を外部の連中と後から一族に入った連中のせいにすれば良い」

「そうだ、そして我々が潔白だと言えば良いのだ。そうすれば民衆は外が悪いと思うだろう。官僚連中に鼻薬を嗅がせてやればよかろう。もとより寄付金の強要など対して責められるものでもない。証明されても謝罪と全額を内部留保を吐き出してしまえばいいだけのことよ。それが響くようなら新総帥でも狙えば良い」

「私も新代表ですな。ですが私は信望が少ないので外部の連中を使ってまず今のタルタの主軸を叩き出す。これで安心ですな」

「我々は主軸は一族ですからな。何の問題もない、タルタ財団が話の分かる方になるのであれば応援しますよ。保険業の一分を分けていただきたい」

「結構、ですがすべて任せるわけではありませんせんよ、海上保険、鉱山、不動産は絶対にこちらで握っておきますからな」

「おお、構いませんとも。そこまで手放したらしゃぶり尽くすだけですからな。その判斷があるのは楽でいいですからな。さて、パイの分け前はどうするか」


 そして財閥のトップである3人が話し合うバンケットルームの奥。


「まず我々はベルソンヌ馬車株式会社社長を変える予定だ」

「おっと、彼は先日タルタ財閥へ格安で馬車を下ろす契約をしていますが?」

「いや、それは……情勢が変わった以上は待ってほしいですな。新社長がいきなり損失を出したことになる」

「しかし契約は契約ですからな。あなたも賛同したでしょう?」

「それはこのような事件が起きると思わなかったからだ。そもそもそれはイントツルスの持ち込みに過ぎない。だが彼を首にせねば我々の見識が疑われる。証人として呼ばれたような……」

「おや?証人として呼ばれた時点で売ると思ってるとは。どれだけ冷遇したのですかな?」

「ではあなたはゼジュユルド氏を切らないのか?」

「無礼なことをいうな若造。私がゼジュユルド社長を切る理由があるのか?私にはないがな。言っておくが馬車保険に関しては緊急の事件に関して支払いの遅延があることを通達するぞ。なにせ業務不履行状態だからな」

「その場合は遅延相手にそちらの非を……」

「遅延の肩代わりも出来ないのに?ベルソンヌ馬車株式会社の新社長は大変ですな、この件についても責められるとは」


 経験の浅さでベルヌーイが押されておりベルソンヌ財閥は高田財閥がいなければ御しやすいとみた2人は総掛かりで利権を剥がしにかかった。


「では木材加工品も遅れることになりますぞ」

「それは高田財閥に頼ればよろしいですからな」

「左様ですな、ロートルド財閥は海こそが戦場。国外からでも仕入れるので無用ですとも。ですが造船が遅れた場合我々は帝国にも帝国海軍にもルイーズ大公にもベルソンヌ財閥の2代目が原因ですと報告することになるでしょうな」

「新社長にいきなり損害を押し付けて解任されるようなことがあれば帝国からも非難されますよ!」

「しかし契約は絶対ですからな。身を切れば帝国は貢献を評価するでしょう。ああ羨ましい。私は信頼できるアシュルトム造船所社長のバーゲンハイムくんを切るなどとてもとても……想像もできません。彼は盟友ですよ?私が1代で成り上がったのは彼あってこそ。彼を切ったら私は失脚待った無しですな。第一、証人程度で切り捨てるならイントツルス社長をベルソンヌ馬車株式会社に10年もおいたのはあなたでしょうに?どうしてその程度で?」

「功績あって切る理由がなかったからですよ」

「おや、この証人一回で切り捨てるほどの失策を?10年分の功績を帳消しにするミスをしでかしたのですか?」

「おお、それなら仕方ない。それで何をしでかしたのですか?」

「いえ、それは……その……」


 ロートルド財閥とタルタ財閥は経験浅い2代目を一気に詰めた。

 ベルヌーイは父の補佐としての経験上、殴る前には多少のアピールがあるはずだと思っていた。それは彼の父がいたからであって彼がいたからではない。

 アピールして殴るにはそれ相応の問題があったうえで、相手が強力な場合である。

 経験が浅いだけならそれ相応の理由がなくても殴られ身ぐるみを剥がされることを知らない。自分がしていてもされる側だとこの時まで思っていない甘さがここで露呈した。

 高田豪三郎がいたとてしてもイントツルスの更迭案を出したら引き剥がす側に回ったであろう。なんといっても彼が何かをしてるという話は入ってきていない。接触もできない。それなのに真っ先に更迭を始めるということは何らかの落ち度があるが表に出せない、この騒動を利用して10年社長だったものを失脚させる。

 どちらにせよベルヌーイはベルソンヌ財閥総帥として不適格であるから教育料として優しく利権の引きはがしか、金銭を搾り取るであろう。


 実際のところイントツルスがいましていることを知れば更迭は正解ではあろうが、それをされてることを公表した時点で彼は詰むだろう。

 部下の制御もできない挙げ句に他財閥を巻き込む愚か者だと。

 高田財閥はすでに巻き込まれているのだから高田財閥の分も剥がしておいてやろうか、とっておいてやろうかと考える余裕すらヘイドン・セラーズとロートルドにはあった。


 そして各部屋で聞き耳を立てる人間がいたことには誰も気がついていなかった。

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