叶えて、ヒミツの願いごと②
私たちが行うのは、町が催す七夕祭りの準備だ。
短冊を笹に吊るし、通りの各所に飾る。
私たちの担当は町の東側5か所。すなわち、5本分の笹を準備する必要がある。
これがかなりの量で、現に集められた短冊は、100枚を優に超えている。
青年が言うには、短冊を書ける一人当たりの上限が3枚らしく、その3枚を全て費やす者も多いらしいのだ。
願いも多様で、家族の健康から受験の合格祈願、さらには世界征服といった大仰なものまである。
「多いですね……飽きてきました」
「お前が安請け合いするからだろうが」
「臨時収入のためです。やるっきゃないですよ」
「お腹、空いた……」
やっと1本、短冊を吊るし終えたわけだが……。
確かにこれは、なかなかに骨が折れる。
「あっ、良いこと思いつきました!!」
と、ザラメが手を合わせて提案する。
「競争しましょう!! 2人1組になって、どっちが早く2本分の笹を早く飾れるか!」
「面白そう……やる」
「私も大賛成だぞ、ザラメ!」
「罰ゲームはあるのか?」
「折角なので入れましょう! そうですねぇ……。負けた方には、笹の設置に行ってもらいます!」
「よし、乗った」
全会一致で可決し、ペアはグーとパーで決めることになったわけだが……
「ザラメはデウスさんとペアですね! 絶対勝ちましょう!!」
「勿論だとも! ああっ、夢のようだ……!」
なんという星の導き!
ザラメとペア。即ち、ザラメが私のパートナー。
もう一度、次はルビも振って強調しよう。ザラメが私のパートナー。
ああっ、胸の高鳴りが治まらない。高揚感に酔いしれそうだ。
「これは実質、夫婦の営み……愛の共同作業ということだな」
「全然違いますぅ!」
私は誓おう。必ずや、君を勝利に導くと。
青年とコスズには悪いが、この戦いは負けられないのだ。
私は拳を握り、胸を張って宣言する。
照明に照らされた舞台俳優のように堂々と、そして勇ましく高らかに。
「無論、負けるとは思えんがな!! この戦い、我々の勝利だ!!!!」
日が沈み行く頃合い、決戦という名の舞台は幕を下ろし――。
「こんな……はずでは…………」
私は、愕然と敗北に打ちひしがれていた。
「デウス様…………元気出し、ぷすっ」
「笑いよったなコスズ!」
「これが神業ってやつだな。ようやくお前も神らしくなってきたじゃねぇか」
「こんなことで神と呼ばれたかないわ!!」
屈辱のあまり、唇を噛む。
ザラメは、青年の服の袖をぐいぐい引っ張りながら、不満を告げていた。
「郡さんもう一回っ! サドンデス!!」
「無理拒否却下! 勝負に二言はねぇんだよ」
「だってあれはずるいです、コスズちゃんをそうめんで釣るなんて! あれが無かったら、ザラメたち余裕で勝ててたのに!!」
「作戦の勝利、頭の差ってやつだな」
「ぐぬぬぅ……!」
「そうめん……大盛り……」
そうめんの載ったチラシを持って跳ねるMVPコスズ。よほど楽しみらしい。
一方私は、四つん這いになって頭を垂れていた。
「すまないザラメ。力及ばずだった……」
「デウスさんが謝ることじゃないですよっ。気にしないでください」
「…………今頃ザラメに、『デウスさん愛してる! 同棲して!!』」と言われてるはずだったのに」
「勝ってても言いませんよ?!」
そんな私とザラメの愛の問答を遮るように、青年が笹を指さして言う。
「とりあえず、負け犬2人でとっとと持ってけ。慰め合いなら他所でしてこい」
「うー……」
「仕方があるまい。責務は果たそう」
神たる私が、いつまでもごねる訳にはいかない。
「では行ってくる」
「麺つゆ忘れんなよ」
「ねぎも……」
「生姜もほしいな」
「デザート……」
「注文が多いぞ君たち!!」
青年とコスズに見送られ。私は笹を担ぎ、ザラメとともに部屋を後にするのだった。
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