第43話 パワードスーツの分解 12


 アイカユラの持ってきた角材の束は、試し斬りに使って残っていた物ばかりだったので短い物しか残っていなかった。

 それは、どうやらレィオーンパードがカミュルイアンを率いて遊び半分で使ってしまっていたらしいと分かったエルメアーナは、諦めた表情をした。

「まあ、レオンらしいな」

「そうよね。あの子が一番年下なのだし、年齢的にも遊びたい時期よね。ジュネスとシュレがパワードスーツの開発で時間が無かったけど、レオンは暇を持て余していたって事なのね」

 エルメアーナとヒュェルリーンは、納得しながらボヤくように言う。

「使い切ってしまったのは仕方がないけど、でも、一言言っておいてもらいたかったわ。手配をするのは私なのだからぁ」

 面白くないさそうにアイカユラは言うと、その様子をヒュェルリーンは面白そうに様子を伺っていた。

「まあ、いいじゃないか。使えそうな物が有ったんだから」

 角材の束を見て開き直ったように言う。

「いいじゃないの。とりあえず使えるって分かったなら、それで良いでしょう」

 エルメアーナとヒュェルリーンは、アイカユラを宥めるつもりで言ったようだが、アイカユラは、まだ、納得できてなさそうな表情をしている。

「だって、未使用の試し斬りの棒なら、二本有れば余裕だったのに。それなら簡単に手に持って来れたのに、短くなっていたから必要な分を手にもつ事が出来なかったのよ。手で運ぼうと思ったら何度も運ぶ事になると思ったら嫌だから、何か無いか探しても何も無くて、結局、焚き付け用の薪を縛ってあった紐を解いて使ったのよ。その時間を返してほしいわ」

 その答えを、エルメアーナは何気なく聞いていたが、ヒュェルリーンは面白そうに聞いていた。

「何を言っているのよ。あなたは、一つ経験を積んだんじゃない。レオン達に感謝したっていいはずよ」

 意外な言葉にアイカユラは、何を言っているというようにヒュェルリーンを見る。

「あなたは、考える力という経験値をもらえたの。使ってない試し斬りの棒が有ったら何も考えずに、その棒を持ってきただけだけど、無かった事で問題が発生したでしょ」

 何を当たり前の事を言っているというように聞く。

「一度に持てない事で、一度に運ぶ方法を導き出して運んだという事は、問題を解決できたという事でしょ。だから、問題を解決するために考えたという経験値を積んだって事でしょ」

 言われた事は理解できたようだが、納得はできないようだ。

「今は、分からないかもしれないけど、これから先、もっと大きな問題に出会う事だって有るのよ。小さな問題解決だったとしても、それが一つ一つ経験となって生かされてくるの。小さな問題解決を積み重ねないと、大きな問題解決なんて出来ないから、今は、レオンのお陰で経験を積めたと感謝する事。きっと、後で良かったと思える時がくるわよ」

 優しく言われて、そんなものなのかと納得するような表情をする。

「フフフ」

 そんなアイカユラの様子の変化をヒュェルリーンは楽しんでいるように微笑を漏らした。

「おーい、それより、早いところ板の加工を終わらせてしまおう。その角材を使うにしても、中のスペーサー用の板の加工が終わらないと出来ないからな」

 エルメアーナの言葉に、アイカユラは現状を理解したというようにエルメアーナを見た。

「そうよ、今日の仕事はパワードスーツの分解と梱包だったわ。さっさと終わらせるわよ! ねえ、今、どこまで進んでいるの?」

 急に仕事モードに切り替わったアイカユラの勢いにエルメアーナは焦った。

「あ、ああ、今、一枚目の固定用の板を切っているところだ」

「えっ! 何? じゃあ、まだまだ、これからじゃないの! さっさと始めるわよ!」

 スタスタとエルメアーナ達の方に歩よると、加工中の板を覗き込んだ。

「私は何をしたら良いの?」

「あ、ああ、ヒェルと一緒に押さえてもらえば構わない。二人で固定してくれたら、もっと切りやすくなる」

「分かった。じゃあ、直ぐに始めるわよ」

「あ、ああ」

 黙って二人の会話を聞いていたヒュェルリーンは嬉しそうな表情をしていた。

 エルメアーナは踏み台の上に置いた板の位置を決めるとアイカユラに一つの角を示して持たせると、ヒュェルリーンを見上げた。

「ヒェルは、こっちを持ってくれ」

 ヒュェルリーンは嬉しそうな表情をして、言われるがまま指示された通りに持つ。

 二人が持ったのを確認すると固定するために乗せている足に体重をかけて、さっきと同じように切れ目を入れていく。

 四辺を綺麗に切ると、切れ目を確認してから梱包された箱の中に入れ、板と外装骨格の隙間を確認する。

「うん。良さそうだ。アイカ、持ってきた角材」

 そう言って左手を頭の後ろまで持っていき手のひらを開き、ここに乗せとろ指をヒクヒクと内側に軽く曲げた。

 それを見てアイカユラは少し面白くなさそうに息を大きく吐くと、言われた通り持ってきた角材を一本手に乗せた。

 エルメアーナは受け取ると梱包箱に入れた板の上に乗せると外装骨格の一番高いところに親指の爪を当てて印を付けた。

 中に入れた板を取り出して箱の外に立て掛けると、持っていた棒を底に当てて、外装骨格の高さを測るように、また、親指の爪で印を付け、印の部分を確認した。

「こんな所か」

 立ち上がるとアイカユラを見る。

「それじゃあ、六本か九本作るから角材を、そこの踏み台のところに持ってきてくれ」

 少し疑問そうな表情をしたが、アイカユラは指示に従って角材の束を落とさないように注意して踏み台のところまで持ってきてくれたので、その中から長い物を選んで引き抜くと、持っていた角材を当てて印を付けると定規で切る位置に線を引き切り落とす。

 その作業で九本の角材を作り縦に並べて置くと高さを確認した。

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