第32話 パワードスーツの分解
エルメアーナは、アイカユラとの話を楽しんでいた。
しかし、何かが違うという表情になった。
「そろそろ、この2台を分解して梱包するか」
エルメアーナの今日の仕事は、レィオーンパードとアリアリーシャの完成したパワードスーツを分解して梱包する事にあった。
完成させたパワードスーツに見惚れて眺めていたところをアイカユラに指摘されたが、お互いに思うところを話し始めてしまい作業を始められずにいた。
「あ、そうよ。あんたがボーッと眺めていたからぁ」
アイカユラは、自分の目的を忘れてしまった為、少しヒステリック気味に返した。
「色々、話せたから、じっくり眺められた」
アイカユラの反応に対応する様子もなく、エルメアーナは淡々と自身の気持ちを答えた。
その表情は、完成したパワードスーツに満足そうな表情をして、自身の様子を気にする事も無かったので、アイカユラは、その姿に自分の事は目に入っていない事を悟り仕方なさそうに両手を広げる。
「そうね。早く仕事を終わらせましょう。納品された梱包箱を持ってくるわ」
「ああ」
エルメアーナは答えるが、そのどこか上の空な様子がアイカユラには少し面白くなさそうだったが、何も言う事もなく工房から出て行った。
扉の閉まる音がした。
「そうだな。次は、頭も付くから、より人型に近いのか。……。次の3台は、頭も付いているからジュネスの物に近い」
そう言って外装骨格のみの3台を見比べるように見た。
その3台には頭を覆うように円柱が肩の上から出ていた。
「こっちは、頭が付いているけど、顔は無いんだよな。……。まあ、顔なんて実用性が無いから必要無いと思うけど、なんか、ちょっと、物足りない? かな」
独り言を呟くと、直ぐに完成したアリアリーシャのパワードスーツを建具ごと動かして作業台の方にゴロゴロと押しながら移動させる。
何も無い作業台の前に持ってくると、壁にある棚から必要な工具を取り出してきて作業台に並べると、道具の一つ一つを確認していく。
全部の道具が揃った事に納得すると、パワードスーツを見た。
上から下までをじっくりと眺めると、人差し指で順番を決めるように確認する。
「まっ、こんなところかな」
そう呟くと、道具を取って、パワードスーツから外部装甲を外し始めた。
外した外部装甲は作業台の上に並べ、部品は小箱の中に入れていき、全部の外部装甲を外し立っているのは外装骨格のみとなると、もう一度眺め始めた。
「外装骨格、腕と脚を外すのか」
少し悩むような表情をしていると工房のドアが開き、アイカユラが木箱を台車に乗せて戻ってきた。
「お待たせ」
入ってきたアイカユラに視線を送ることもなく、エルメアーナは外装骨格を眺めていた。
「ああ、遅かったな。もう、外部装甲は外してしまった。これから外装骨格の腕と脚を外すところだ」
「すごいわ。もう、完成させて発送できるまでになっているなんて凄いわね」
その声を聞いてエルメアーナは反応するように入口の方を見た。
「ヒェル。来てたのか。来ると分かっていたなら、分解するのを待ったのに、今、アリーシャの外部装甲を外したところだ。でも、レオンのパワードスーツは完成した状態だから見て行ってくれ」
満足そう言って、壁に並んでいる3台の外装骨格のみのパワードスーツの横に完成したレィオーンパードのパワードスーツを指差した。
ヒュェルリーンは、言われるがままレィオーンパードのパワードスーツを見る。
「ふーん。隣の3台と比べると、格好が違うわね。ちゃんと防御できそうだけど、でも、何で頭が無いの?」
それを聞いてやっぱりかというような表情をした。
「こっちもだけど、レオンとアリーシャは、自分達の感覚を大事にしたいからって、2人だけ頭が無いんだ。その代わり、2人は頭に鉢当てを用意してある」
ヒュェルリーンは、その答えを聞いて少し考え込む表情をする。
「そうなの、ね」
少し心配そうに答えた。
「まあ、使う人の自由でしょうから、それで良いんでしょうね」
そう言うと作業台の前のアリアリーシャの建具に支えられた外装骨格と作業台の上の外部装甲を見た。
「ねえ、分解には何日位かかりそうなの?」
「ああ、今日には2台とも分解して梱包できる。夕方には出荷準備も終わると思うんだが……」
最後は疑問符が残ったように言うと、ヒュェルリーンは気になったようだ。
「思う?」
「ああ、問題は外装骨格が意外に重い。外部装甲は、小さなパーツを組み付けるようになっているけど、外装骨格は、右腕左腕右脚左脚と胴体に分けるだけだからな。私一人だと持ち上げるのに苦労しそうなんだ」
そう言って、エルメアーナは、ヒュェルリーンとアイカユラを交互に見て少しニヤけた。
「でも、三人なら持ち上げて梱包する事も大丈夫じゃないか」
二人は、エルメアーナのニヤけた表情の意味が理解できたようだ。
すると、ヒュェルリーンとアイカユラは、お互いの顔を見た。
二人とも梱包の為に使われる事を理解したようだ。
「そうね。重い物を動かすには人数が必要ね」
「シュレが居れば魔法で動かせたんだが、ここにはそんな魔法士は居ないので、よろしく頼む」
二人は、ヤレヤレといった表情をする。
「それなら、昨日のうちに私に人を用意するように言ってくれた良かったのに。夕飯の時にでも言ってくれたら急いで手配したわ。ヒュェルリーンさんに迷惑を掛けちゃったじゃないの」
「いえ、それは無理よ。ここの工房の中にパワードスーツの事を知らない人を入れる訳にはいかないわ。使える人足は私達だけだったのよ」
アイカユラの言葉にヒュェルリーンが違を唱えたが、言われてアイカユラも納得した。
秘密の維持をする必要の有る物を知らない人に簡単に見せる訳にはいかない。
それを聞いてアイカユラは、自身の考えの浅さをヒュェルリーンに指摘された事に気が付き謝ろうとすると、それを制するように手をかざした。
「大丈夫。それより、今日の私達は重労働になるわ。お互いに頑張りましょう」
笑顔で言うと、アイカユラの背に手を当ててエルメアーナの近くに移動した。
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