07
「え、わざとやったの?」
一人の時間ばかりになってここと多く話していたら狙ってもいないのに吐かれてしまった。
「……だって僕以外にへらへらしているからむかついたの」
「そうだったんだ」
「でも、反省したよ、もうしないからとこが仲良くしたい子と仲良くして」
変なパワーによってキスまでいってしまったのだから責任を取らないといけない。
ただ衣子がそこまで求めているのかはわからないから難しい状態になってしまった。
「もう変なことはしていないんでしょ?」
「うん」
「自分から離れているからまあ当たり前と言えば当たり前だけど誰も来ていないよね、だから誰かが来てくれるまではこのままでいいや。ここにはお世話になったからね、貯めているお金を使ってなにか美味しい食べ物を食べる旅に出てもいいかもね」
二万円ぐらいならあるからすぐに尽きてしまうということもないだろう。
「学校があるから無理だよ」
「毎日日帰りでいいでしょ?」
「それだと少し物足りない状態になりそう」
「それぐらいでいいんだよ、だからこそ次はあそこにいきたいってなると思うからね」
さてと、楽しむためにもしっかり切り替えて授業に集中しよう。
でも、私にだけではなくてもここが見えているからついついそちらに意識を向けてしまうことが多かった。
この点だけはデメリットかもしれない、どうしてもつんつん触れたくなってしまうのもアレだ。
「よし、ここいこう」
「まだ周りに人がいるのによく話しかけられるね」
「気にならないよ、あ」
一日も続かなかったのはこのせいか。
まあでも、過去のことを気にしていても意味はないから教室から出ようとしたら「ちょっと待って」と舞に声をかけられてしまった。
「私も付いていくから」
「京子先輩が待っているからそっちを優先した方がいいよ」
「京子のことを出して逃げようとしても――え、本当にいたんだ……」
いま終わったばかりなのに早すぎる。
流石にこの状態で連れていけはしないから挨拶をして離れた。
いつもと違って自宅がある方向とは逆へ歩いていく。
「ここ、なにが食べたい?」
「チョコ系の食べ物が食べたい」
「チョコか、これならもっと見て回っておくべきだったね。スーパーとその少し先までのことしか知らないからあんまり役に立てないよ」
「スーパーに売っている物で十分だよ」
だからといってそのまま甘えてしまうのも一応はご主人様として情けない気がする。
せっかくそれなりのお金でスマホを契約してもらっているのだからこれを駆使して探していけばいいか。
時間はまだある、梅雨の季節でも今日は雨が降らなさそうだから余裕だ。
「チョコアイス美味しい」
「アイスでいいの? それだったらいつでも食べられるけど」
「十分だよ、それよりとこも食べないと溶けるよ?」
「食べるけどここが遠慮してばかりで気になるよ」
アイスは冷たくていいけどここと話せるときは温かい方がいい。
なにも機嫌をよくしてもらいたくてしているわけではないのだから楽しくやりたい。
それでもあまりに唐突すぎるとなにかしてもらいたくてしているようにしか見えないのだろうか?
「遠慮をしているのはあそこにいる舞だね」
「あれ、付いてきていたんだ」
京子先輩はいない、どうやら一人のようだ。
どこか他のところに向かっていたり違うお店に寄っているとかならよかったけどじっとこちらを見ていたから流石に近づく。
「ぐ、偶然だね、こんなことがあるんだね」
「舞、最初から付いてきていたことは僕がわかっていたからね?」
隣の市まで公共交通機関を利用してやって来たとかではないから偶然遭遇する可能性は普通にある。
正直に言わせてもらえばそうやって言うときにきょろきょろしていなければ説得力があったかな、と。
「ここ、江連を説得してよ」
「とこが離れる選択をしたのは僕のせいだから協力してあげたいけど言うことを聞いてくれるかな?」
「それはわからない、だけどいまのままだと嫌だよ」
変な力で相手をコントロールできてしまうことがわかってからはこれもここが無意識に力を使用しているようにしか見えなかった。
「江連、衣子だって不安そうな顔をしていたよ、別にこの件は江連が悪いわけではないでしょ?」
「私とここはセットなんだから私が悪いんだよ、だから離れれば迷惑をかけなくて済むでしょ?」
「それなら江連が悪いとして、やり逃げは卑怯だと思うけど」
よくないけど私がここの力によって暴走、その結果で衣子とキスをしてしまったとかの方がまだ救いはあった気がする。
何故ここも衣子に働きかけてしまったのか……。
「舞には言っておくけど僕が嫉妬したからなんだよ、キスとか過激なことをさせれば引いて去っていくと考えていたの」
「え、でも、衣子の方からしたんだよね? 江連の方からしないと効果がなくない?」
冷静にツッコミを入れてくれることに感謝しかない。
ここは「あ」といま気が付いたみたいだった。
「でしょ? しかも今日衣子がいかなかったのは嫌だったからではなくて江連のことを考えてのことだから、うん、逆効果にしかなっていないと思う」
「も、もういいんだよ、もう嫉妬して変なことをしないって約束をしたからね。衣子が本気でとこを支えてくれるならそれで十分だから」
支えられる側ではなくて支える側になりたいけどね。
やっぱり隠してしまいそうに見えるからどうしたい? と聞いて引き出してあげたいのだ。
これが目の前にいる舞とかだと聞かれる側になってしまう。
「ここ的には衣子がいいの? いやほら、私達にだってできたのに衣子にだけだからさ」
「別にそういうわけじゃないよ? でも、衣子だけははっきりしていたからやりやすかったんだよ」
「あのね、気持ちを利用するとか最低だからね?」
「は、反省しているから許して」
「ま、私が怒るのは違うか」
こくこく頷いて結局舞に怒られていた。
いつも人といることが当たり前の舞のところにいたら昨日みたいなことはしていなかったはずだ。
まあ、弱くもないからそもそも都合のいい存在が現れていなかっただろうけどそこだけははっきりしていることだ。
「江連、いまから衣子を呼んでもいい?」
「萬場さん、ここのこと預かってくれないかな?」
「ありがとう――ん?」「え、とこ?」
「一週間ぐらいだけでもいいからお願い」
一回ゼロにしてリセットがしたかった。
結局のところは甘えてしまっているからいつまで経っても一人なのだ。
その間に自力で友達を作る、ここがいなければ完全に自分の力でできたと言えるから自信だってつくだろう。
「その後、ちゃんと言うことを聞いてくれるならいいよ」
「頑張るからお願い」
「頑張るってよくわからないけどね。で、ご主人様はこう言っているけどここはどうなの?」
「う~……一週間ぐらいならまあ……」
「それならここもそのつもりでね」
衣子を呼ぶことは別に嫌だったわけではないけどなくなって少し安心した自分もいる。
近づくならここがいないタイミングでだ、あり得ない存在だから離れていてもあまり意味はなさそうなものの一ミリでも安心できるのは大きい。
「さて、ならまずはここを着せ替え人形にしよう」
「着られるけどこのサイズの服を持っているの?」
「作るから大丈夫。江連、じゃあまた来週ね」
「うん」
学校があるのにまた来週とは面白いことを言う。
自分から遠ざけたくせに離れていく背中をじっと見てしまったりもした。
「衣子」
「とこさん、もう大丈夫なんですか?」
「衣子こそ大丈夫?」
「はい、私なら全く問題ありませんよ」
それならいい、とはならないけど付いてきてもらった。
またあの空き教室で今度こそ二人きりだ。
「名前の件も戻した方がいいのかな?」
「いえ、結局それも私のしたいことの一つでしたからね」
「え、それならキスもそうなの?」
「そ、それは誰かとお付き合いをしたらいつかはする行為だとは思いますけどいますぐにとは……」
ここと舞がいたらこらと怒られてしまいそうだ。
もうこの話は終わりにするとして、今度一緒にお菓子を作ってみたいという話をした。
いつもは無理でもたまに作ればここも満足してくれるはずだから。
「いまここさんはいないんですね」
「私の力で人と仲良くなりたかったから萬場さんに任せたの、いまは大丈夫だよね?」
「はい、それと今更ですがとこさんから来てくれたことに驚いています」
「責任を取らないといけないと思ったの、だけど一方通行なのはよくないからまずは仲良くなりたいな」
まずは土台をしっかり整えなければならない。
「気にする必要はないと思います、無理をされてもそのことが気になってしまうだけですよ」
「そうなのかな」
「そうですよ。私は普通にとこさんと仲良くなりたいです」
「それも無理だったら寂しかったからよかったよ」
やっぱり遠ざけてしまったことを後悔している自分がいる。
常識人の舞にいてもらうべきだった、すぐに甘えようとしてしまうのが本当に駄目だ。
暗い顔をしているわけではないのはいいことだけど抑え込むプロなだけかもしれないし。
「まずは連絡先を交換しよう、受け入れてもらえたら衣子が初めての相手だよ? ほら、嘘ではないよ」
「夏美さんはともかく、舞さんともしていないのは意外です」
「衣子って萬場さんの隠れファンなの? すぐに萬場さんのことを出してくるよね?」
そんなに一緒にいたいのなら約束なんか破っていますぐにでも連れてくる。
一週間が経過した後に舞が出してきたなんらかのことを守れば怒られることもないだろう。
「優しくて引っ張っていってくれる方なので好きですよ?」
「変わる可能性はあるのかな?」
「わかりませんがゼロではないと思います、舞さんが同性でも問題ない方かどうかはわかりませんが」
あ、なんかみんなに対して言ってそうだ。
それでも誰かといちゃいちゃしているわけではなかったから連れてきた。
京子先輩との時間が減っているのはいいことなのかどうかはわからないけどいまなにかしてあげたいのは衣子にだから私的には悪くない。
「一週間とはなんだったのか」
「ここさんはいないんですね」
「それがね、暑いから学校にいきたくないって言っていまは家なの。なんか露骨な差を見せつけられている気がするんだよね」
珍しい、いつもは人といたいからと言って付いてくるのに休むことを選んだのか。
必ず帰ってきてくれるという安心からかな? それとも、やっぱりそこが私と舞の差なのだろうか?
でも、安心して休めるのようになったのであればそれが一番だ。
露骨な差を見たくて預けたところもあるからここでも感謝するしかない。
「それで私はなんのために連れてこられたの?」
「衣子が一緒にいたいみたいだったからだね」
「本当? 江連って考えすぎるところがあるからさ」
「本当ですよ」
「それなら安心だ」
今回は私が絡んでいるから出してくれているだけかもしれない。
まだなんでも吐いていくタイプだと判断するのは危険だった。
「でも、近づいていなかった理由を聞きたいです」
「江連から一週間だけ時間が欲しいって言われてね、それでちゃんと守っていたのにこの子ときたら本当に酷いよね」
「ということはとこさんといたいということですよね? 頼んでよかったです」
待ってほしい、これでは私が勇気を出せなくて彼女を使ったみたいに見えてしまう。
幸いかそうではないのか舞はにやにや笑みを浮かべているだけだった。
「別にそこまで求めていないけどね、ただ避けられるのが嫌なだけで」
「ふふ、舞は素直じゃないわね」
「あ、京子さん」
「こんにちは、とこちゃんを留まらせておけるなんて衣子は流石ね」
それではまるでふらふらしているように聞こえてくるから微妙だ。
京子先輩はそのまま私の後ろまで移動して優しく抱きしめてきた。
何故? と考えている間に「なにをしているの!」と京子先輩ガチ勢の舞が怒る。
衣子の方は「物凄く自然でした、流石です」と行動力の高さに感心しているようだった。
「七月になったら誰かのお家でお泊まり会をしましょう」
「それなら江連の家か衣子の家がいいな、二人はどう?」
「私の家でもいいよ?」「私も大丈夫ですよ」
「悩むわね。あ、先に言っておくとここにいるメンバーだけね」
あと二人増えるだけだけど参加させないのは意外だ。
別に葵さんと井辻さんが目の前でいちゃいちゃしようと気にならないからもし本当にお泊まり会というやつをやるなら誘うつもりだった。
「はは、夏美とかに意地悪をするね」
「流石に全員は無理よ、まずはとこちゃんに慣れてほしいという狙いもあるの」
「なるほどね、そう言われると確かにってなるよ」
「それに衣子も遊んだことはあってもお泊まりなんて初めてだろうからね」
「そうですね、晴とはしたことがありますけど舞さん達とはありませんからありがたいです。ただ、一応この話をして参加したいと言ってきたら……いいですか?」
少しでも仲間外れにしている感じがないようにしたいのかもしれない。
あとは幼馴染といられなくて寂しいとかだったら可愛くてよかった。
葵さんは手強いだろうけど幼馴染の頼みなら聞いてくれるだろうから勇気が出ないようだったら協力しようと思う。
「ええ、その場合は構わないわよ、私がとこちゃんをよく見ておけばいいものね」
「京子はともかく衣子がいるのは大きいね」
「あら、厳しいわね?」
これは私達がいるから仕方がないところもある。
「とにかく、今回のこれで江連に参加したことを後悔させないことだね。それさえなんとかできれば失敗にはならないからね」
「ええ」
心配されないように協調性があるところを見せよう。
とりあえず解散になって二人が出ていきこの場には私と衣子だけがいる。
こちらを見たままなにも言わないから黙って見つめていると「髪を結わせてもらってもいいですか?」と言われたので頷いた。
「とこさんはもう少し伸ばしてもいいかもしれませんね」
「衣子はどっちがいい?」
「私的にはいまのままでも十分ですけど髪を伸ばしたとこさんも見てみたいですね」
「衣子はいまのままがいいと思うよ、長くて奇麗でいい匂いがするからね」
「奇麗かもいい匂いかもわかりませんが一応意識して管理しています」
これは言ったりしないけどコンタクトとかにしないでいまの眼鏡のままでいいと思っている。
「あの……ここさんがいてもいなくても本当は関係なかったのかもしれません」
「うん? 抱きしめたくなったとか?」
実は自分も不思議な能力を有しているとか、はないか。
あったらずっと一人だったのはありえない、それこそ都合のいい存在を増やしていたことだろう。
「はい……いいですか?」
「後悔しないならいいよ」
「絶対に文句を言ったりしませんからその点は安心してください」
あ、後ろからか。
実は先程の京子先輩に嫉妬をしていた、とかなのかな。
「私、実は中学三年生のときからとこさんのことを知っているんです、秋に突然やって来たので最初は驚きました」
「それならみんなも顔ぐらいは見たことがあるのかな?」
「それはわかりません、ですがはっきりとしているのは私ととこさんが同じクラスになったということですね」
「え、衣子いたんだ」
「はい」
拒絶していたわけではないけど覚える気がなかったことも確かだった。
前々から見られていたと思うと微妙に恥ずかしくなってきてしまうのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます