城伯末女だけど、案外したたかに生きてます

遥風 かずら

第1話 沼りすぎて夢叶う?

「あんた、城ゲーに沼りすぎじゃない?」


 待ちに待った給料日。


 それと同時に訪れるのは、大好きなゲームにフル課金出来る至福な日!


 そんな光莉を心配してくるのは職場の同僚かつ、沼らせるきっかけとなったお城ゲームに招待してくれた女友達。


「事実沼ってるし、仕方なくない?」

「正直、心配になるんだが」


 新卒として同時に入社した友達との付き合いは、かれこれ六年ほど。だからこその心配っぷりだと光莉は思った。


「ちがーう! 私はルーシャ! ルーシャとして生きているのだ~!」

「ルーシャってキャラ名の? 現実とゲーム、ちゃんと区別出来てるんだよね? 睡眠以外あっちの世界にいる感覚とかじゃないよね?」


 友達から城ゲーに誘われた光莉はお城ゲーム、略して城ゲーに沼って抜け出せなくなっている大人女子。


 城ゲーは城や施設レベルを上げたり他人の城を攻撃したりするゲームのことで、光莉が沼ったゲームはストーリー性重視で魅力的なキャラが豊富だとして人気が高かった。強い女性キャラが国を守る設定が人気で、冷血非道な女将軍を倒すのが目的となっている。


 その一方で、男性キャラとの恋愛要素もあったりと沼る要素が満載だ。


「そこは大丈夫。だっていつか本当に一国の城主とか、お城の要職として働ければいいなぁなんて思ってるし!」

「え、本気? あの城ゲーの世界って、西洋だよ? 外国のお城で働くの? 日本じゃなくて? そうなると国際的に恋愛する感じかぁ……」


 ルーシャ・ホワイトは女城主の名前で、本名である真白ましろ光莉ひかりに似ていたのですぐに馴染むことが出来た名前だ。


 友達は城ゲーの中ではライバルとして一緒に遊んでいた。しかし見事に光莉だけが沼り、招待した彼女だけがゲームをやめてしまった。


 ほぼ毎日ログインをしてせっせと城レベルを上げていたらレベルが最大となり、配下の兵も最大数、倉庫レベルもほぼ最大値になったりと城ゲーの中の光莉は城主として最高レベルにまで達した。


「日本の歴史は勉強不足で疎くて。だけどお城自体好きだから、どうにかして西洋のお城で暮らしたいって思ってるんだよね。恋愛はお城の次くらい?」


 光莉の夢は城主としてお城で暮らしたり、そこで働く人間になること――なんて夢を見ながら城ゲーの世界に沼ってる。


 友達はそんな光莉の話に呆れてるけど、城ゲーに沼リすぎてることは本当に心配してくれている。


 あまりに心配をかけているので今回の課金を最後に引退しよう――と思いながら、光莉は横になりながらゲームを始めた。


 すると急に猛烈な眠気に襲われ、光莉は気づかぬうちに眠ってしまっていた。


「――うう〜ん……」


 (何だろう、何だか耳元に声が響いてる……)


「ルーシャ、起きな! 好きなだけ寝かせるほどな娘にするつもりなんてないよ!」

 

 誰かの声でずっと眠りを邪魔されてる気がするけど、一人暮らしだしそんなはずがないから多分気のせい。


 それなのに、さっきからずっと頭の中で響く声が気になって全然寝られない。


「あぁ〜もうっ!! うるさいなぁ! 寝られないじゃない!」


 光莉は思わず声を張り上げる。


 ところが、思った以上に声は出ておらず、全身に力が入らないどころか体を上手く起こすことが出来ない。


 もしかして金縛りにでも遭ってるのだろうか。そんな嫌な気配を感じつつも、やけに空腹を感じる光莉は、もしかして何日も寝てしまっているのではという考えがよぎる。


「……ほぅ、口答えする気かい?」


(あ、声は出てた。誰かが私に話しかけてる?)


 一人暮らしだから誰かがいるなんてありえない――そう思った直後。


「あはははっ! 強く育っているべきだと願っていたが、やはり末端の娘であってもあたしの血は弱く育たなかったか!」


 光莉の耳に高圧的な女性の声が届いた。


 気のせいじゃない、そう思って恐る恐る目を開けると眉間一つさえも動かさず、ただ黙って腰深い椅子に座ったまま細めた目つきで眺めている女性の姿があった。


「……あ!」


 覚えのある顔だと思っていたけど、この女性は――


「――冷血非道のブルグミラー女史!」


(しまった、本人を前にして声を出しちゃった)


 ブルグミラーは城ゲーのボスキャラで、平民出身ながら女将軍にまで上り詰め、難攻不落の城主としてプレイヤーを苦しめる人物。


 冷血と呼ばれるボスキャラながら、長く鮮やかな蒲公英色たんぽぽいろの髪、青鈍色の瞳をした彼女の見た目はとても穏やかで温かみのある人物に見えていた。

 

「……ふ、あはははははっ!! そうさ、あたしは実の娘を幽閉し空腹にさせ、末女を鍛えさせる冷血な母親さ! よく分かってるじゃないか!」


(……ということは、ここって城ゲーの中?)


 実の娘、しかも部屋に幽閉するような人だったなんて。


 それまで全身が動かせずにいた光莉は、聞こえてきた衝撃の事実を確かめる為に体に力を入れ、勢い任せに立ち上がる。


 と、同時に首を動かして自分の姿を見てみると、自分が動かしていたルーシャになっていたことに気づく。


 ルーシャ・ホワイトのゲーム年齢は十三歳で、最年少ながら強い城主として活躍していたキャラ。髪は純白じゃなく少し青みがかった雪色せっしょく、瞳の色は女将軍と同じ青鈍色をしていてとても目立つ。


 それが好きで遊んでいた城主なのに、まさかの将軍の娘。


(名前が変わらなかったのはいいけど、これからどうなるんだろ)


 どれくらいお腹を空かせられたのか分からないくらい痩せた体、手足も細い、しかもよりにもよって冷血将軍の娘として幽閉されていた事実に、光莉は思わず言葉を失ってしまった。


 そんな光莉の気持ちなどお構いなしに、目の前の女将軍は不敵な笑みを浮かべながら光莉の反応を待っている。


「どうした? あたしに言いたいことがあるんじゃないのかい? ルーシャ」

「……末女だから幽閉して何も食べさせなかったんですか?」


 あまりの空腹で今にも倒れそうだけど、せめて本心だけでも聞いておきたい。


「いいや、違う。あたしの娘である以上、強くなければならないからさ。弱っちいと、ここがいくら辺境だからって守り抜けなくなっちまう。城伯の役割ってのは、従える軍隊の指揮と防衛だろう?」


 ……城伯?


 確かブルグミラーは平民から上り詰めた将軍だったはず。

 

「平民だったのに城主で伯爵って、つまり叙爵された……」


 侯爵に次いでるからそれなりなんだ。


「そうだ。それがどうかしたか?」

「い、いいえ」


 城伯ということは辺境領地を統治していたりする立場だから、それってつまり結構いいところの娘なのでは。


 光莉は目の前に腰掛ける女将軍だけに目を奪われていたものの、ようやく目も慣れてきたので今いる部屋を見回してみると、どうやらレンガ壁の小部屋にいるみたいだった。


 牢屋のような鉄格子があるでもなく、ベッド、テーブル、安めのソファなどが置いてあり、小窓もある。


 幽閉と聞いて驚いたけど、実は意外と娘想いの母親?


「さて、ルーシャ。お前の覚悟は決まったかい?」


(え、何の覚悟?)


 城伯の女将軍、そして母親が末女に目をかけ、覚悟を訊いてくる。つまり、城主として継がせるという意味だったりして。


 もしそうなら、体に力は入らないけどきちんと姿勢を正して返事をしないと。


 光莉は直立不動の姿勢で女将軍を真っ直ぐ見つめ、声を振り絞りながら。


「ブルグミラー将軍。私、ルーシャは将軍の娘として城主を継ぎ、生きていくことを誓います! だから、どうか私を鍛えてください!!」


(多分これくらい言わないと助からない) 


 光莉の宣言を黙って聞く女将軍は、深く腰掛けた椅子から立ち上がることなく、口角を上げてどことなく嬉しそうな表情を見せている。


「……ほぅ。どこで学んだかは知らないけど、わきまえているようだね。ルーシャはあたしを倒して城主になりたい――そう思っているわけか。あっはっはっはっ!」


(あれ、そうとられた?)


 ブルグミラーをちらりと見ると、不機嫌そうにしておらず、むしろやる気満々といった表情に見えている。


 これが正解なら、ルーシャとして生きていくしかないけど。


「及第点だ。だけど、よく我慢したね。流石はあたしの娘だよ!」


 ブルグミラーはそう言うと、椅子から立ち上がりルーシャの小さな手を取り、軽く握りしめてくる。


「末女だから半ば期待なんかしちゃいなかったけど、ルーシャが覚悟してんならこれからは容赦なく叩きこむからね!」

「は、はい」

「よし、その薄汚れた服を脱ぎな! 城を歩き回るのにみすぼらしい姿を見せるわけにはいかないからね」


(え、今すぐ?)


 ルーシャを見ているのは女将軍にして母親だけしかいない。そう思いながらも、なかなか服を脱げずにいると――


「――母上!! 何のつもりで末女を鍛えるおつもりですか?」


 女将軍に似た気の強そうな女性が部屋の扉を勢いよく開け、部屋に入ってきた。

 

 え、誰?






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