赤い石

さて、今日はユリウスがいない日だ。

 花畑の整備を午前中に終わらせて、この前貰った本を読み進めたい。小説の方はなかなか不思議な言い回しが多かった。苦労というよりは、ストレスが多かったな。

 まだまだ勉強しないと。


 とりあえずは、木のバケツにハサミとタオルを入れてみる。今日は日差しが強そうだから帽子も被って家をでる。

「今月は13だぞ、まだ16まで3か月も残っているのになんでこんなに暑いんだよ」


 帽子を深くまでかぶりたくなる程の日差し、家の裏に流れている小川の方まで歩いて見ると、上っている魚を水中に見ることができる。

 小川の横には小道があるが、石畳も、もう何十年も人の気配がなかったような苔の生え方をしている。上流の方には森が見える。川の水はそのさらに奥にある冬化粧の残る山々からの栄養で、森の中の花畑の養分となってくれる。

 それから、俺は花畑、つまり森に向かって川に沿って歩く。昼時の少し前に出たため、昼飯はまだだ。だが、一見なにも食糧を持っていないかのように思えるが、そんな事はない。小さな灯篭のような物が小道には等間隔で並んでいるのだ。だが、その横には他には見ない大きな磨かれた石があり、なにか穴のようなものが見える。

 俺はふとおもむろに、石の上に荷物を置く。

 俺はズボンを膝上まで上げ、ズブズブと入っていく。足の裏に大きな石がツボを押してきて、気持ちがいい。川の水をバケツで掬って一旦置いてくる。ついでに魚を捕まえて昼飯にしてしまおう。


 転生特典なんてものはなかったが、この体は前世の体よりも運動神経が抜群にいい。魚の動きも目で追えて、魚を鷲掴みにして陸へ放り投げられる。

 今日の昼飯は岩塩を砕いて塩焼きにしようということで、締めて、木の棒に刺して焚火で焼く。魔法が使えたらいいんだけど、異世界なのにそんなもんないしな......。

 焼き魚を内臓を避けながら食べてゆく。苦くて幼い子供舌には厳しいのだ。

 そして、昼飯を頬張っていると、川底の中になにか光ったものが見えた気がした。なんだろうか?綺麗な石とかだろうか?

 またズボンをたくし上げ、俺は川の中に入っていく。

大きな石の上に何か小さな宝石のようなものが見えた。

 さらに川の深いところまで歩いていく。何度か足を取られそうになりながらも、先に進む。

 手を伸ばし水の中に入れ、波を立てないように慎重に掴む。

 だが、次の瞬間あと少しといったところで、石が転がっていきそうになってしまい、取ろうと川に倒れ込んでしまう。石は端がその衝撃で欠けてはいたが、それでもしっかりと、その手に石は掴んでいた。

 これは……ルビー?だろうか、赤い塊のようなものだ。宝石なんて詳しくないし、赤いのはルビーというぐらいしか知識はない。

 うーん、今度自分で綺麗に削ってみるのもありだな。確か硬かったような気がするし。

 そんなこともありつつ、川で濡れた服はそのまま花園まで歩くみちのりで、初夏の暑さにすぐに乾かされた。この暑さに少しは感謝した瞬間だった。


 あっという間に午後になってしまった。

出るのが遅かったかもしれないので、仕方ない。そして、俺は早足に花畑に向かった。


△△△△△


 花畑には昔は庭園と呼ばれていたのか、水道が整備されていた名残で、蛇口を捻ると小川の水がゆっくりと出てくる。


 蛇口の水を出して、手に掬い、口をつける。

いわゆる軟水と呼ばれるような味がする。気分かな?気分かも。


 銅でできたジョウロに水を入れ、花に水をやりに回る。フランス系の洋式の庭園にこんな庭園があった気がする。中央にバラが絡まってるガゼボがあり、なんと青色のバラが咲いている。どうゆう理屈だかはわからないが青いのだ。

 その四方にはユリやマリーゴールドが咲いている。どうやら季節に限らずここの花は咲いているのだ。正直どういう理屈なのかはわからないが綺麗なものはあって困らない。花は好きだしな。


 今日花畑に来ている理由の一つにガゼボの中にあった机と椅子の修繕がある。さっそくしてしまおう。


 丸いテーブルと椅子はどちらも金属製で、装飾の表面のタイルが割れたり剥がれたりしてしまっている。だが、ナットやボルトなどは折れたり錆びたりはしていない。なのでタイルを直す。

 前来た時に倉庫から予備のタイルを持ってきていたのでまずは全てのタイルをノミとハンマーを使って剥がしていく。ノミを左手に持ち、机を足で固定して右手でノミの尻を叩いて割ったり剥がしたりする。全て剥がし終わったら次は椅子のタイルだ。


「……めんどくさい」


 思わず声が出てしまったが、これが意外と大変だった。足で固定するのも力がいるし、剥がして再度使えるのは選別しながら接着剤らしきものも剥がすのだ。一台やるだけでも相当大変だ。

 これがまだ椅子が無ければましだったが……あまりにも面倒くさい。


 「アッ……」


 そんな事を考えていたらハンマーが吹き飛んだ。なにしてんだか。

 座りながら固定していた体制を崩さず手を伸ばす。うーん、届かない。もうちょい、あとちょっと!!


「こっち来い!」


 ハンマーは自ら動き自分の手の中に納まった。は?いやどういうこと?動いた?

 それにポケットが赤く光っている。さっきの赤い石か?いくら異世界だとしてもそれはありえないだろ。


 ええぇ……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人間不信は全てを得る(仮 ライス @shuniizima201216

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ