10

 途中で軽く食事を摂りながら、道なき道を進んでいく。

「これ、道分かるんですか?」

 と聞けば

「一度地図を見れば分かる」

 と返ってくる。流石だ。

 ところどころ視線を浴びながら進んでいく。空、というか天井の景色が変わることは無い。

 どうやって潰そうか、そもそもどんな場所なのか。考えても分かりそうにないことをぐるぐると考えていれば目的地だ。

「ついたぞ。ここだ」

 バイクが止まる。

「これはまた、凄いところですね」

 均等に並び立つ柱を中心に、適当な板材を張って拠点にしているようだ。「X」の拠点も外観は似通っているが、ところどころ覗く内装は全く違う。

「ごろつきが多そうな雰囲気ですね」

「X」をヤクザに例えるのなら、こちらはヤンキーだ。

「ひとまず、奥へ進むぞ」

 排気音を響かせながら進んだ。


「止まれ!」

 道なりに進んでいると、通行止めをせんとばかりに人が一列に並ぶ。

「何の用だ」

「ここのボスに話がある」

 とりあえずこう言っておけばいいだろう。

「…お前ら、噂の公認犯罪者だろ。{X}んとこの回し者じゃないのか?」

 もうそこまで広まっているのか。世界は狭い。茶々がバイクから飛び降りた。

「そうですよ」


「あんたなあ…」

 呆れた。こいつの脳に小細工や嘘という言葉は無いのか。

「こちらの組織を潰すように命じられたので来ました」

 緊張が走る。

「…今退けば見逃してやる。帰れ」

「ごめんなさい」

「お前らは二人。それに対してこちらには数百人の戦闘員がいるんだぞ」

「ごめんなさい」

 どうやら本当に無いらしい。

「おい、作戦はあるのか」

「?何の」

「数百人を相手取る作戦だ」

「ありませんよ。この程度の人たちであれば百人でも五百人でも結果は同じです」

 呆れた。しかし、別に自己を過大評価している訳ではないのだろう。そんな奴は生き残れない。

「悪いがそういうことだ。死んでくれ」

 向こうの指導者は頭を抱えている。茶々を相手どれば犠牲が出るのは確実だ。それだけ、嫌な相手であり、仲間を想っているのだろう。その気持ちが今は少し理解できる。

「ボス」

 無線に向かって話しかけた。ノイズ交じりの声が僅かに聞こえる。

「総員、戦闘態勢」


 今日は、スニーカーにズボン。パーカー。ドレスのように私の動きを邪魔する要素は一つもない。

「武器が残念ですね」

 殆どの男が鉄パイプを持っている。それでも十二分に殺傷力はあるが、特犯や警官を見てきた後だと、どうも見劣りする。

「ここを作った時の廃材かなにかだろう。銃なんて、普通そう簡単に手に入らない」

「俺たちはここで必死にやってきたんだ。よそ者が邪魔をするな!」

 ゆっくりと深呼吸し、私は深々とお辞儀した。横で灰さんがバイクのエンジンをふかした。


 鉄パイプを斬るのはちょっと難しい。私は人の頸を斬り落とすこともできない。でも、その代わりに人体の急所を調べ上げて知識を得て、最大限の努力でパワーを身に付けてきた。

「よっと」

 迷ったらとりあえず心臓。人殺しの基本。鋭いナイフのように突き刺さった刀を抜く。男らの身体からは急速に命が噴き出していった。返り血を避けようなんてことはもう思っていない。刀にも、自分にも、背負うべき業の現れとして受け止めている。

 一人殺すのに10秒ぐらいか。それでもそこに、刀の正確さを求める。あの双子を圧倒したい。もう、逃げたくない。


 淡々と殺してゆく茶々。あそこまで洗練された動きは俺にはできない。

 そこらから拾った血塗れの鉄パイプを左手に、右手でバイクを操作しながら敵を薙いでゆく。茶々の邪魔にならない程度の距離を取り、腰のホルダーから銃を外す。

 サイレンサーがついているそれを、バイクから両手を離して走らせながら扱った。

「確かに、たかが数百人だな」

 みるみる減っていく人の気配。20分後、その場に立つ者は二人。

「バイクってハンドル握らなくても乗れるんですね」

「それは俺だけだ」

「流石です。…ボスらしき人物が見当たりませんね、奥へ進みましょうか」

 納刀しようとした瞬間、茶々の髪を銃弾がすり抜けていった。

「おい!」

「大丈夫、いや、危なかったです」

 数センチ、首をもたげるのが間に合っていなかったら死んでいた。

「随分なご挨拶で」

 視線を向けた先には、たった一人、男が立っていた。


 銃を下ろし、こちらへ向かってくる。刀を構えたが、その姿に覇気が無いことに気づく。

「全員、殺したのか」

「はい」

 間違いない。確実に殺した。一人の死体に近づき、手を取る。

「すまねえな」

 その上から、首に刃を突き付けた。

「貴方以外に、もう組織の人間はいませんか?」

 か細くも芯の通った声。

「いない。ここにいるので全員だ」

「本当だな」

 灰さんも一応、銃を向けている。

「今更嘘をついて何になる」

 この組織は、私たちが地下へ踏み入れなければずっと、変わらぬ毎日を送っていたのだろう。例えその途中で数名が命を落とすことはあっても、壊滅に追い込まれることは無かっただろう。

「謝罪なんてしません。地獄で会いましょう」

「お似合いの結末だな」

 何の感情も乗せず、刀は斬った。


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