おわりに
以上、「天界より見下ろすドラゴン・ケセファリス」に期待された機能について、図像、注文主の経歴、イタリアの世俗君主の事例を元に検討した。図像と顔料の分析からは、本作品が単に私的な祈念画としてだけではなく、公的な絵画としての一面の片鱗を見せていることが明らかになった。また注文主の経歴の分析によって、マグニフィケンティアの実践という、同時代のイタリアの小君主との共通点を見出すことが出来、これによって本作品の公的な絵画としての側面は殆ど揺るぎないものとなっただろう。
しかしながら今回の議論は作品と注文主という、作品を取り巻く周縁の関係について言及するにとどまっており、作品の核心を突く議論は展開できなかった。本作品の制作を手掛けたピエトロ・アレッツィの研究は不完全なところが多く、作品と制作者の間の関係性は体系的な研究が希求されている。また、イギリスに現存する魔法絵画自体が少ないため、様式研究に基づく魔法絵画の潮流についても深い議論がなされていないのが現状である。
今後はアレッツィという作家研究に焦点を絞っていくことで、イングランドの魔法絵画における本作品の位置付け、ひいてはヨーロッパ魔法絵画史における本作品の位置付けを明らかにしていくことができるだろう。
【主要参考資料】
・石井秀隆(1990)「イングランド
・鷹島弥生(2007)「ルネサンス期魔法絵画作品群における顔料・モティーフと保存状況の連関」『魔法化学史研究』12(38)
・小佐野重利ほか(2016)『西洋美術の歴史4 ルネサンスⅠ 百花繚乱のイタリア、新たな精神と新たな表現』(中央公論新社)
・カエサル,近山金次訳(2019)『ガリア戦記』(岩波書店)
・ジョン・スキャンター,長島巌訳(1978)『中世魔法師詩歌集3 薔薇の詩』(花園文学社)
・マイケル・バクサンドール,篠塚二三男ほか訳(1989)『ルネサンス絵画の社会史』(平凡社)
・Cornelius Hesse, "Magic and Silver", Heidelberg, 1977.
・Franz von Harmonious, "Memorandum über italienische Gemälde von einer Reise nach England." in M. Einhorn et al., Studien zur magischen Malerei im Mittelalter II, Köln, 1914.
・Magische Akademien Wien, "Bericht über eine Untersuchung der Gemälde in der Kollektion der Yardbird Kathedrale". Vienna. 1889.
・Martin Einzman, "The history of Index Librorum Prohibitorum in magic-painting studies", New York, 2010.
・Scott.K.Duestein(1993). "Identify the tableau of Kesepharyss: in the viewpoint of genre and place". ArtesMagicae. 125(5).
・大英図書館裏アーカイヴ
《天界より見下ろすドラゴン・ケセファリス》の社会的機能 有明 榮 @hiroki980911
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