第8話 罪の定義


 数日が過ぎ、僕とルシアはコルメックに到着した。


 道中ともに過ごしてきた人々や御者にお礼をいい、僕らはコルメックに足を踏み入れた。


 僕はコルメックに到着し次第、アースランにすぐ向かおうと考えていたが、肝心なことを忘れていた。

 

 「蘭丸はアースランの場所分かりますか?」

 ルシアが少し怒った顔をして僕に問いかけてきた。


 「当たり前だろ!だって地図に書いてあるじゃん!」

 僕が自信満々に答えるとルシアは……怒った。

 

 「蘭丸!しっかりしてください!地図を見る限りアースランの明確な場所は示されていませんでしたよ!」

 「えっ!?そうだったの!?」

 「そうです!地図が読めないのはどっちですか?」

 「すみません……どうしよう」

 「それなら情報収集するしかありませんね」

 「人間の街だから難しいんじゃない?魔族の街を知ってる人いるのかな?」

 「魔族の街が近ければ蘭丸の様に身分を隠しながら街で活動している方がいるはずです。その方から情報を収集するのです」

 「いやいや、僕まだ人間……じゃないか」

 「今そんなことはどうでもいいんです!」

 「よくないよ!大切なことだって!」

 「論点がずれてますよ蘭丸!」

 「ごめん……じゃあどうやって魔族を探す?」

 「私も人間に化けている魔族を見つけるのは難しいので、魔族が集まりそうで、なお情報も集まる場所に行くのです」

 「それはどこだろう?」

 「冒険者ギルドです。まず魔王を探す目的のためにも冒険者登録は役に立ちます。そして人間に化けて冒険者として活動している魔族もたくさんいます。そのためギルドへ行き冒険者登録することは様々なメリットがあります」

 「流石ルシアさん!天才!」

 

 僕は言うなりルシアの頭を撫でた。

 

 「そんな……こと……あり……あり……ありがとうございます……」

 

 ルシアは照れを隠すために頭を押さえながら下を向いた。

 うん、可愛すぎる。

 その行動の殺傷力はまるで上級魔法並みだ。

 

 「天使かよ」

 「はい?何を言っているのですか蘭丸。私はシスターですよ」

 「天然なとこもさっ!ねっ!?そういうところだよルシアさん」

 「たまに蘭丸はおかしなことを言いますね。私には難しいです」

 「いいんだよ、難しいからいいんだよ」

 「謎です。話を戻しますけど、この流れでよろしいですか?」

 「もちろん!ありがとうルシア!」

 「蘭丸の力になれるなら私は嬉しいです」


 もう言葉さえ出せなかった。

 尊すぎるよルシアさん。


 ということで、僕らは真っ直ぐ冒険者ギルドへと向かった。


 コルメックは結構栄えている街だった。サリスマレの様に街の兵士が偉そうにしている姿も見かけないし、なんというか旅人や冒険者が多い街だなって感想だ。


 冒険者ギルドも目立つところにあり、大きな裁判所のような建物だった。


 「入りましょう!蘭丸!」

 「僕大丈夫かな?冒険者の試験受かるのかな?」

 「自信持ってください!絶対大丈夫です!」

 「そうかな?とりあえずやってみるか!」


 ギルドの中に入ると少し拍子抜けしてしまった。

 想像では、酒場なんかもあり冒険者たちが騒いでいるイメージを持っていたけど、実際は役所のようで、入口で整理券を渡され番号が呼ばれるスタイル。

 そして、皆わいわい騒ぐこともなく静かに自分の番を待っている。


 異世界来たのにあんまり異世界感なくねって叫びそうになったくらいだ。


 「342番か……結構待つのかな?」

 「私は蘭丸の次ですね343番」


 ん?待てよ?


 「えっ!えっ!なんでルシアまで整理券取ってるの!?返してきなよ!」

 「なぜですか?私も冒険者になりますよ?蘭丸と共に行動するのですから」

 「とは言ってもだよ、危なすぎるよ」

 「私をみくびらないでください!」

 「確かにルシアは魔法も凄いし、頭もいいけどさ、危ないことはしてほしくないんだよ」

 「そんなことを言っていて魔王を見つけられると思いますか?」

 「それは……」

 「安心してください。絶対蘭丸の役に立ちますから」

 「そ、そこまでいうなら……」


 それから20分くらいして僕の番号が呼ばれた。

 そしてほぼ同時ぐらいにルシアも呼ばれ窓口へ。


 「ようこそ、コルメック冒険者ギルドへ。冒険者登録でよろしいでしょうか?」

 「はい」


 担当してくれるのは若い女性のスタッフだ。

 ちょっと美人。これは期待通り。

 

 「こちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」

 「はい」

 

 僕は名前や魔法属性、志望動機を記入した。

 志望動機は冒険者として人の役に立ちたいという全くの嘘でもないことを書いておいた。


 「闇属性ですか!もしやあなたが闇のプリースト様ですか?」

 「そう……なりますね……一応。というより、コルメックにまでその話広まってんの?」

 「はい!もちろんです!ギルド長もお喜びになりますよ」

 「はぁ、そうですか」

 

 そのふたつ名好きじゃないんだけどな。


 「闇のプリースト様なら試験など必要ないと思いますが、規則ですので受けていただく必要があります。よろしいでしょうか?」

 「はい」

 「ありがとうございます。それでは簡単に試験内容の説明をさせていただきます。まず試験は魔法試験と格闘試験に分かれております。こちらは自由選択できず、ギルド側で決めさせていただきます。冒険者には双方の能力が必要なため、それを見させていただく形になります」

 「はい」

 「試験内容が決まり次第、また番号をお呼びしますので、もうしばらくお待ちください」

 「分かりました」

 「それではよろしくお願いいたします」


 受付が終わり、番号が呼ばれるのを待っているとルシアも戻ってきた。

 

 「蘭丸、説明わかりましたか?」

 「うん、流石に僕でも理解できたよ」

 「それはよかったです、蘭丸のことだからなんかトラブル起こさないか心配でしたよ」

 「もう過保護だなルシアは。それよりルシアこそ試験大丈夫なの?」

 「全く問題ありませんよ」

 「それならいいけどさ……こっちこそルシアのことが心配だよ」

 「蘭丸は本当に優しいですね、ありがとうございます。でも今回は私を信じてください」

 「うん、わかったよ!頑張ろうね!」

 「はい!頑張ります!」


 それから試験の担当者であろう人が全体に向けて声をかけた。


 「それでは現在までに受付された方の試験項目を発表します。まず魔法試験の方をお呼びします。呼ばれなかった方は格闘試験になりますのでよろしくお願いいたします。発表します……」

 

 番号が次々と読み上げられ始めた。


 「336番、339番、340番、342番」


 「あっ僕の番号だ」

 「蘭丸は魔法試験ですね!」

 ルシアは笑顔で言った。

 

 「番号を呼ばれた方は魔法試験になりますので準備が出来次第こちらにいらしてください」

 

 あれ?

 「ルシア、呼ばれた」

 「いいえ、呼ばれていません」

 「じゃあルシアは格闘試験ってこと!?」

 「そうなりますね」

 

 それを聞いた瞬間、見えない手で心臓を掴まれた気持ちになった。


 「今番号を呼ばれなかった方は格闘試験になりますので、準備が出来次第ご案内しますので、このままお待ちください」

 

 「あのさ、ルシア、試験項目はわかったけど何するんだろうね」

 「説明の時にそれを聞かなかったのですか!?」

 「うん」

 「ダメですよ、ちゃんと漏れがないように質問しないといけませんよ。試験の内容は受験者同士の立ち合いです」

 「立ち合い……?試合ってこと!?」

 「はい。ただ魔法の場合は魔法のみ、格闘の場合は格闘のみで、相手が降参するか戦闘不能になった時点で終了です。そして勝者が合格になるという仕組みの様です。それと誤ってでも相手を殺害してしまった場合は不合格となるそうです。そして不合格になったものは一年間再試験を受けられない様ですよ」

 「えっ!そんな危ない試験なの!?僕はさておき、本当にルシア大丈夫なの?」

 「全く問題ありません」

 「格闘経験あるの?」

 「甘く見ないでください。私は神父様と厳しいトレーニングを日々積んでまいりました。負けることはありませんよ」

 「そうなの!?」

 「ええ、教会にくる方々と試合をしたことも一緒にトレーニングしたことも沢山あります。私は強いですよ」

 「まじか!凄いねやっぱりルシアは!」

 「私の活躍を目に焼き付けといてくださいね」

 「他の人の試験見ることできるの?」

 「はい。試験会場には回覧席がある様でして、一般のお客様もいる様ですよ」

 「おお!ルシアの試験が楽しみだ!」

 「まずは蘭丸も合格してくださいね」

 「うん!やってやるよ!」


 そして僕とルシアは別れ、自分の番を待つことに。


 僕の試験は4回目ぐらいに行われるようで、すぐに会場へ呼ばれた。


 会場に入るとそこはまるでコロシアムで、円形の舞台の上で戦うような作りになっているみたいだ。

 回覧席もかなりあり、ざっと100は超える数の人がいる。


 ルシアがどこで見ているかはわからないな。


 そして僕の相手も入場してきた。

 相手のぱっと見の印象は、盗賊やゴロツキのような柄の悪い感じがした。


 怖いな、早く終わらせよ。


「よう兄ちゃん!怪我しないうちに降参しな!俺は手加減しねぇぞ?」

「僕も本気で行きますね」


 あ、緊張してきた。


「両者準備はよろしいようですね!それでは試験開始!」

 試験官らしき人が合図をした。


 合図の直後相手はすぐに詠唱を始めた。


 「水が生み出す……」


 僕はコルメックまでの道中マナのコントロールと魔法の訓練をひたすらしてきた。

 ルシアは魔法の天才だ。

 彼女自身の魔法はもちろん、教えることまで超一流だ。

 そして、訓練の最中彼女は徹底していた。

 まさに細かいミスまで許さない徹底ぶりだった。

 だから魔法の実力をかなり上げることができた。

 詠唱のコツもね。

 ルシアは詠唱の省略が何よりも上手かった。

 だから徹底して詠唱を省略することの訓練もしたんだ。

 

 まず相手に詠唱させ、先に相手の属性を見極める。

 フェイクで加護でない属性を使う人もいるがそれはかなりの実力者でないと難しいとのことだった。

 

 俺の加護は現在闇と火、元々は水。

 だから相手が水の場合は……。

 

 そして相手よりも早く詠唱!

 

 「闇魔法、引力と重力!」


 相手の体を僕の方へ引き寄せ、目の前の地面に闇の光と共に叩きつけた。

 相手は声も出さず、気絶した。


 その瞬間、会場は一瞬静まり返ったが、一テンポ遅れて歓声が轟いた。


 「勝者342番!合格です!」


 ふぅ、終わった。


 それから僕は退場した。


 控え室に戻るとそこにはルシアがいた。


「蘭丸!おめでとうございます!」

「ありがとう。ルシアが訓練してくれたおかげだよ」

「いいえ、これは教えたことを確実にこなしてくれた蘭丸の実力ですよ。実力がないものにあのようなことはできませんから」

「そう言ってもらえると嬉しいよ。ところでルシアの試験はいつ?」

「今から行ってまいります」

「あっ、今からなんだね!ルシアも頑張ってね」

「はい!頑張りますね」


 ルシアは会場へと向かった。



 

 ――――――――――――



 私は必ず合格しなければいけない。


 それは私が蘭丸のそばにいるためにも。


 これは私の居場所を作る戦いでもあります。


 絶対に負けることはできません。




 私が会場に入った途端、一気に静まり返りました。

 みなさん私を見て心配しているのでしょう。

 私のような少女が果たして戦えるのかと。


 相手の方は20代半ばの男性。

 体の大きさ的には一般的ですが、体つきはトレーニングをしているようで、とても逞しく見えます。


 「おい、おい、俺の相手は女の子かよ!?しかもシスター!?やめてくれよ、これさ俺が死んだ時、地獄行き確定なやつじゃん」

 「安心してください、私が負けることはありませんから」

 「おお!凄い自信だな、それじゃあ遠慮なくいくぞ!」



 あぁ、神様。

 誰かと一緒に居たいと思うことは罪でしょうか?

 そして、その感情により口から出た言葉は罪なのでしょうか?


 私には悪意はありません。

 ですが、これは罪と言えるでしょう。


 初めてでした。

 嘘をつくという行為。

 どうかお許しください。


 私は格闘経験なんてありません。

 訓練などしたことも、人をぶつようなこと生まれてこの方、記憶にありません。


 ただ、蘭丸と離れたくなかった。


 私、死んじゃうかもしれません。

 


 

 

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フラれて異世界来たら彼女なんかいらなくなった。そして僕は君になる。 etc... @yomeasmi

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