第7話 隠されていたもの
私の夜はいつ明けるのでしょうか。
まるで私は教会という名の監獄に囚われた囚人。
そんな思いで毎日を過ごしてました。
来る人は皆いい人ばかりで、私を連れ出そうとしてくれました。
ただ、私には務めがあるのでそれを断っていました。
断れば皆「仕方ないか」と諦めてくれました。
そして、再び皆がこの教会から旅立つ時、私の胸は張り裂けそうになりました。
「また1人の日々が始まる」と。
そう、教会はまるで明けることのない夜でした。
でも……そんな私を連れ出してくれた人がいました。
彼は務めがあると言っても諦めることなく、強引に私を連れ出したのです。
正直、嬉しかった。
私の夜はやっと終わりました。
だから私は彼の力になりたいと心から思います。
でも彼は私のことなんて…………。
――――――――――――
「ん? ルシア寝ないの?」
ルシアは窓から夜空を眺めていた。
「空が美しかったので見惚れていました」
ルシアはそう言うと立ち上がり自分のベッドに腰をかけた。
「あの蘭丸?」
「なに?」
「何故貴方は私を連れ出したのですか? 魔法が使えるからって理由ですか?」
ルシアは少し悲しそうな顔で僕に問いかけた。
「ん〜、正直それもゼロじゃない。でもね、ルシアが教会でこれからもずっと一人だって考えると辛くてさ」
「どうして蘭丸が辛いのですか?」
「人には共感する気持ちってのがあるでしょ? 泣いてる人がいたら悲しくなったり、笑ってる人がいたら同じように笑えたりとかさ……難しいことはよく分からないけど僕はルシアに共感したから辛いと思ったんだよ」
「共感ですか? でも私は蘭丸に辛い顔を見せた覚えはありませんよ」
「なんだろうな……想像したからかな? きっとルシアは辛いだろうなって」
「それは同情ではないでしょうか?」
「同情か……なんか聞こえは悪けど、そうなのかも」
「そうですか……もし、私ではない他の誰かがそんな状況だったら同じことをしましたか?」
「たぶんしてたと思う。ずっと教会でひとりなんて悲しすぎるからさ」
「そうですよね」
「うん、そうだよ」
「わかりました、私はこれで寝ますね」
「ああ、うん。おやすみ」
「おやすみなさい」
ルシアの表情はどこか寂しそうだった。
この日は前日に眠れなかったこともあり、爆睡した。
ルシアと相談した結果、テイクエルスの教会に寄ることはせず、先を急ぐことにした。
ルシア曰く、アースランは魔族の街なため、人に知られていないとのことだった。
そのため、アースランの近くにある「コルメック」という街へ向かうことにした。
コルメックまでは直行する馬車があると宿の亭主から教えてもらっていたので、コルメック行きの馬車乗り場に向かった。
僕は馬車乗り場に到着し、御者に話しかけた。
「コルメックまで行きたいんですけど、この馬車であってますか?」
「ああ、あってるんだが……」
御者は困ったように頭をかいた。
「なんかありましたか?」
「いや、すまないね神父さん。テイクエルスからそんなに離れていないところなんだけど、コルメックまでの道中に魔物がたくさんいるようなんだよ。だから今日は馬車を出すことができねぇんだわ」
「そうでしたか。明日になれば大丈夫ですか?」
「いや……いつ通れるようになるかわからないんだよね。一応コルメックにある冒険者ギルドへ電報を送ったんだが、届いてから冒険者に対峙してもらうまで、そうだな……少なくとも一週間はかかりそうなんだよな」
「そんなにかかるんですか!」
「ああ、すまないね。もし急ぎだったらサリスマレ行きの馬車も出てるから一度サリスマレに行ってからコルメックに行くといいよ。あそこからだったら大きな街道を通っていくし、サリスマレには冒険者もいるからコルメックまで問題なくいけるよ」
「そ、そうでしたか。ありがとうございます」
サリスマレに行くことはできないからどうしたものか。
一日でも早く、アースランに行ってカタリナのことを伝えなければいけないというのに。
「ルシア……なんか方法ないかな?」
「蘭丸が魔物を倒してあげれば良いのではないでしょうか?」
「えっ? 僕が?」
「はい」
「魔物となんか戦ったことないよ……大丈夫かな?」
「私もありませんが、サポートします」
「いや……でも……どんな魔物かもわからないし数だって……」
「神父は困った方々を助けるのも仕事ですよ」
「でも、そんなことしたら僕が魔族だってバレてしまうんじゃないかな?」
「大丈夫です。プリーストですから。神父は基本的に魔法を学んで、使える方が多いようですよ」
「そうなのか……」
「心配であれば、コルメックで冒険者登録をするとでも言っておけば問題ないでしょう。それにコルメックで冒険者登録すれば、身分証明書の発行もされますから」
「そんな手があったのか」
「では、魔物について詳しく御者様に聞いてみましょう」
ルシアは御者に魔物について尋ねた。
魔物はゴブリンの群れで、おおよそ二十前後はいるようだ。
ゴブリンたちは餌を求め街道までやってきたようで、多少知恵が働くため、馬車などを襲い食料を奪うらしい。
そして中には人を喰らうゴブリンもいるみたいだ。
「御者様、詳しいお話ありがとうございます」
ルシアは話を聞くと御者に頭を下げた。
「いやいや、そんなお礼をされるような話じゃねぇよ。で、どうするんだいあんたたち。サリスマレに行くのか?」
「神父様がゴブリンを対峙してくれるようですよ」
えっ! マジ! ルシア勝手に決めちゃったの!?
「おお! 本当か! それはありがたい! 若いのに立派な神父さんだ!」
御者は僕の方に来て手を握った。
「い……いや……」
それを聞いた周囲の人たちも僕に近づき拍手を始めた。
これ……断れないやつだ……。
「ねぇ、ルシア……どうすんの?」
「倒せばいいだけですよ」
ルシアはそう言うと、両手を広げ唱えた。
「風が生み出す、飛行の力」
周囲の人々から「おお!」という歓声が上がった。
そしてルシアは僕の手を掴んだ。
ゆっくりと体が浮かび上がり、一気に横に引っ張られるかのように移動を始めた。
「ルルルルルルシア! 早すぎ! あああ!」
カタリナの方が幾分、穏やかで優しい飛び方だった気がする。
もの凄い圧のせいで目ん玉が飛び出そうだ。
「我慢してください蘭丸! 見えてきましたよゴブリンたちが!」
「どうやって倒せばいいかな?」
「空から攻撃魔法を放って倒してください」
「僕は風・水・火・雷・闇の初級魔法と、サリスマレを脱出した時に使った、闇と火の上級魔法しか使えないよ」
「では、その上級魔法を使ってください」
ルシアはゴブリンたちから少し離れた場所で止まった。
「でもルシア、僕の火傷見たでしょ? コントロールできないんだよ」
「それは怒りに任せ、全マナを使って放ったからですよ」
「でも、大きな被害を周りに出すかも知れない」
「大丈夫です、辺りに村などもありませんし、人もいませんから」
「ならルシアがやってよ」
「私攻撃魔法は一切覚えてませんので使えません」
「嘘でしょ!?」
「蘭丸、マナのコントロールは初級・中級・上級全てにおいて必要なことですから、初級魔法が使えるならできますよ」
「その初級だって……コントロールできなかったんだよ」
「……」
「ちょっとルシア! 黙らないでよ!」
「で……でも蘭丸、引き受けてしまったのでやるしかありません」
「……わかった、やってみるよ」
「ここからなら届くと思います。カタリナに教えてもらったことを思い出してやれば絶対できます」
「おし!」
ルシアは手を離しても飛んでいられるように魔法を僕にかけてくれた。
そして僕は両手を天高く突き上げ唱えた。
「闇と火が生み出す、黒炎の渦よ!」
辺りの空気が僕の頭上に集まってくるのがわかった。
「闇を司る神、イライアスから受け継がれし力」
ゴブリンたちをやっつけるだけのマナ、やっつけるだけのマナ。
最初にカタリナが見せてくれた時のように大きくはないが、形にはなってる。
これなら――。
「破壊の限りを示せ!」
僕はゴブリンたちに向かって魔法を放った。
ゴブリンたちはこちらに気づく様子もなく、ダラダラと休んでいるだけだった。
そこに僕の魔法が炸裂したのだ。
カタリナのようにクレーターができるほどの威力はないが、ゴブリンたちがいた辺りは黒炎の海と化していた。
ゴブリンたちは即死し、真っ黒い死体になっていた。
「風と水が生み出す、雨雲よ。燃え盛る大地を沈めたまえ」
ルシアは詠唱し、黒炎の上に雨雲を出した。
すると、次第に黒炎は消え、鎮火した。
「やりましたね! 蘭丸!」
ルシアはそういうと僕に抱きついた。
だが、僕はあることに気づいてしまった。
そう……。
ルシアは隠れ巨乳だった。
「ちょ、ルシア……やわらか! じゃなくて離してくれるかな? 苦しいよ」
「あっ!ごめんなさい、蘭丸! つい興奮してしまって……」
僕もある意味……興奮してしまったよ。
「とりあえず成功して良かった」
「本当に凄いですよ蘭丸、尊敬します」
「あはは、ありがとう。まぁこれでコルメックに行けるね」
「はい! それではテイクエルスへ戻りましょう」
ルシアはそういうと再び僕の手を掴み、移動を始めた。
「ルシアさあああん! 死んじゃうううううううう!」
この飛び方、嫌いだ。
テイクエルスに戻り、御者たちの待つ馬車乗り場に降り立った。
「おお、神父さん! ずいぶん早いな! やっぱダメだったか?」
御者がすかさず尋ねてきた。
「いいえ。神父様の手により、ゴブリンは殲滅しましたよ」
ルシアが僕の代わりに答えた。
「本当か!? こんな短時間でか! すげぇな神父さんは……。どんな魔法でやっつけたんだ?」
「闇魔法で一撃ですよ!」
ルシアは自慢げに言った。
「ええ! 闇魔法だって!? こりゃ珍しい! すげぇな!」
「そうですよね! 神父様は凄いのですよ!」
「いやー! かっこいいな! 神父なのに闇魔法! 闇のプリーストなんちゃって! あはは!」
こんな話をしているところを聞いてか、周囲にいた人たちも僕に近づき、お礼を言ってくれた。
中にはパンや果物をくれた人もいた。
「いやあ〜! こんなことされちゃあ、俺もお礼しないとな! そうだ! 二人分の運賃は無料にするからそれでどうだ!」
と御者は言ってくれたので、凄い得した気持ちになった。
それから馬車に乗り、テイクエルスを後にした。
馬車には十人くらいの人と荷物を乗せられるくらい広いものだった。
乗客は僕ら含め、六人ほど。
ルシアが御者にどのくらいの日数でコルメックに着くか聞いたところ十日前後とのことだった。
そして、一時間ぐらい走った時、僕は御者に声をかけられた。
「な……なぁ神父さん……ここだよな?」
「えっ?」
僕は馬車の外を見た。
そこにはゴブリンであったであろう丸焦げの死体が転がっていた。
「これが神父さんの魔法かよ……すげぇな」
「そ、そうですか?」
「これは冒険者、いや魔法騎士レベルだぞ」
「あはは、ありがとうございます」
「神父さんはずっと神父なのか? 元冒険者とかじゃなくて?」
「そうですね、ずっと神父です。コルメックに着いたら冒険者の登録をしようとは思ってますけど」
「おお、そうか! それは是非やった方がいい! あそこのギルドには腕利きの冒険者も何人かいるからな!」
「それは楽しみですね……はい……」
ノリで言ってしまったが、僕は冒険者になれるのだろうか?
初級少しと上級魔法がひとつ使えるだけ。
剣術と武術はイザークに教わり、ククル村で鍛えた程度だし。
「御者さん、冒険者登録って何するんですか? もしかして試験とかあります?」
「何を言ってんだよ神父さん! あるに決まってるじゃねぇか!」
「あ……そうですか……。ありがとうございます」
僕はルシアの元に行き声をかけた。
「あのさ、冒険者登録……やめない?」
「どうしてですか?」
「試験があるんだって! どんな試験かもわからないし、僕には無理じゃないかな?」
「蘭丸、先ほどもそうでしたけど、あなたはもう少し自分に自信を持ってはどうですか? どのような試験かは分かりかねますが、大丈夫ですよ」
「そ、そうかな?」
「とりあえずギルドに行って、試験の内容だけでも聞いてみましょう。それで無理と思えば、やめればいいだけですから」
「そうだよね、そうしよう」
それから三時間ほどすると日が暮れ、辺りは暗くなった。
「おいみんな! 今日はここまでだ! テントあるやつは外に張って休んでもいいし、ない奴は馬車の中で休んでくれ! 食事は各自で頼むな!」
御者の話を聞いた乗客たちは馬車をおり、テントを貼り始めた。
「蘭丸、私たちは馬車ですね」
「そうだね。でもコルメックに着いたらテント買おうね」
「そうですね。それより蘭丸、アースランについたらどうするつもりですか?」
「ああ、カタリナのことをみんなに伝えるよ」
「その後ですよ? 旅の目的忘れてませんか? 魔王を見つけるんですよね?」
「あはは、そうだった」
「しっかりしてくださいよ! それでどうします?」
「アースランで何か情報をつかめるかな? それ次第で動き方を決めるでいんじゃない?」
「もう! やる気ないんですか!?」
「ごめん……でも、手がかりすらないからさ……」
「じゃあ、コルメックでも情報収集です!」
「ルシアがいてくれて本当良かったわ」
「私も蘭丸を一人で行かせなくて良かったと思っています。蘭丸だけだったら魔王探しやめてそうですし」
「それはひどくない?」
「ひどくありません! 挙句の果てにはこの国は滅ぼされていたかもしれませんよ」
「そんな〜」
「さて、冗談はここまでにして、食事にしましょ」
それから数時間して、辺りも静まり返り、僕らも寝ることにした。
「あの蘭丸」
「どうしたの?」
「今日は手……つないで寝てもいいですよね?」
「あ……あの……えっと……」
ルシアは僕に近づき、手を握ってきた。
肩に柔らかい母性を感じる。
「ダメですか?」
「ダメじゃありません」
僕は魔王を見つける前に寝不足で死ぬかもしれない。
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