第6話 「視線」

 Tさんは最近、後ろに視線を感じる。

 事の発端は一か月前だ。Tさんは付き合ってまだ間もない同級生とデートの待ち合わせをしていた。しかし、約束の時間を三十分過ぎても彼は来ない。仕方ない、電話するか――そう思ってポケットからアイフォンを取り出したとき、ちょうど着信があった。知らない番号だったが、はずみでTさんは通話ボタンを押してしまった。

「もしもし?」

 出たのは彼の母親だった。話を聞いて、Tさんは愕然とした。彼は、家を出てすぐのところで、トラックにはねられ、そのまま病院に運ばれたという。今は生死の境をさまよっているらしい。Tさんが勢い込んで「今から病院に行きます」と言うと、来ない方がいい、来てもショックを受けるだけだと断られた。結局、Tさんは彼の無事を祈ることしかできなかった。

 次の日になって、Tさんは彼の母親から訃報を聞いた。悲しかったが、それ以上にショックの方が強すぎて、うまく泣くことができなかった。Tさんは彼との思い出をたぐるように、ラインを開いた。ふだんはラインをあまり見ないので、ずいぶん通知がたまっている。Tさんは彼との個人チャットに、一件のメッセージが来ていることに気づいた。それは昨日のもので、こう書かれていた。

「つきました きみのちょうどうしろにいます」

 それ以来、Tさんは後ろに視線を感じる。

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本当にあった怖い話 @ttt345

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