本当にあった怖い話

@ttt345

第1話 「笑顔」

 専業主婦のTさんの話。その日スーパーでの買い物を終えたTさんは、ぼうっと道を歩いていた。午前はパートでずっと立ち仕事だったせいか、ずいぶん疲れていた。

 Tさんは人にぶつかった。

 ぼうっとしていたから気づかなかったのだ――Tさんの話を聞く人はそう言う。しかしTさんは、「違う」という。「その人は突然、現れたんだよ」と。

 Tさんは「すみません」と謝り、その人の顔を見た。

 笑顔だった。

 一見ふつうの笑顔だが、生気が込められていないというか、例えるならば人形がにんまりと笑っているような感じだった。ぞっとして、Tさんは走って家に帰った。

 家では、Tさんの五歳の息子がロボットのおもちゃで遊んでいた。Tさんはそれになんとなくほっとした。いつも通りだった。いつも通りの日常が、さっきのおかしな体験を浄化していくようだった。

 と、息子が突然笑った。

 さっきの人の笑顔と瓜二つのように、Tさんは思われた。たまらず、Tさんは悲鳴を上げた。聞きつけた夫が書斎から出てきて、泣き叫ぶTさんを必死になだめようとしたが、だめだった。

 以来、Tさんは、笑う人がいると、「あの人が操っているんだ」「あの人にみんな、笑わされてるんだ!」とヒステリックにわめくようになった。Tさん自身は決して笑わなくなり、部屋にこもるようになった。やがてTさんは精神科に入院した。家族は、Tさんのことをとても心配している。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る