11.ミント入りのレモネードが二杯

「痛みはどう、ラーロ?」

「もう痛みはほとんどないよ! シュゼットの薬が効いてるんじゃないかな」

「キャンキャンッ!」

「ブロンもそう思うって」


 ラーロがシュゼットの家に滞在して三日が経った。

 この三日間は毎日激しい夕立が降った。そのたびに人々はびしょぬれになり、季節外れの風邪を引く人が続出したが、それとは裏腹にラーロは順調に元気になっていった。

 薬を塗りなおす度に傷が良くなっているのを実感することができ、シュゼットも安心できた。

 シュゼットの家での生活にすっかり慣れたラーロは、治療を受けたり、シュゼットたちが家事をしたりする間に、様々な話をしてくれるようになった。

 空の飛び方や、眠る時の姿勢や気を付けること、羽根の生え変わりなど。野生の魔獣ならではの話はとても興味深かった。

 それから、ラーロの家族の話もしてくれた。


「ぼく、お姉ちゃんとお兄ちゃんがいるんだ」

「へえ。それじゃあ三人兄弟ってこと?」


 シュゼットはガーゼを外しながら尋ねる。血はもう止まっている。


「うん。お父さんとお母さんが、もう一匹兄弟が欲しいって思って、ぼくが生まれたんだって。無事に生まれた時は、ふたりとも空をものすごい速さで駆けたもんだから、生まれたてのぼくは振り落とされそうになったんだ」

「ふふふ、それは大変だったね」


 ラーロもクスクス笑いながら、ミント入りのレモネードをペロペロ舐めた。蒸し暑い夏の日にこれを飲めば、清涼感のある香りに身も心もすっきりするのだ。


「お姉さんたちはどんなフェリアスなの?」

「お姉ちゃんはすごく体が大きくて、勇敢な性格なんだ。狩りをするのもうまいんだよ。お兄ちゃんはぼくと同じくらいの背格好で、すごく優しいんだ。ほとんど森にいて、鳥さんと話をしてるよ。鳥さんの友達がたくさんいるんだ」

「お姉さんもお兄さんも素敵だね。お兄さんの友達って鷹ってこと?」


 シュゼットがフェリアスの鷹に似た羽を指さすと、ラーロは首を横に振った。


「セキレイとか、ツバメとか、ロビンとかみたいな小鳥さんとも仲良しだよ」

「当たり前だけど、フェリアスもいろいろな性格がいるんだね」

「そりゃあね! ぼくたちも生き物だもん!」


 シュゼットが傷口に軟膏を塗布すると、ラーロは「気持ちいい!」と言って身体を震わせた。




 明くる日のこと、フランセットが朝からシュゼットの家を訪ねてきた。

 シュゼットは温室のドアをしっかり閉めてから、フランセットを迎え入れた。万が一、ラーロが見られて騒ぎになっては困る。


「こんにちは、シュゼット。今日は良い天気ね」

「はい。暑い中来てくださって、ありがとうございます」


 シュゼットはミント入りのレモネードを作って差し出した。フランセットはハンカチで汗をぬぐいながら「ありがとう」と言って、一気にレモネードを飲み干した。


「明日、夫がいない時間があるから、その時にまたうちに来てくれない? ロラがシュゼットに会いたがってるの」

「わかりました、ぜひ行かせてください」

「雨の日は相性が悪いみたいで、咳がひどかったわ。喉が取れちゃうんじゃないかってくらい。わたしが変わってあげられたらどんなにいいか。しかもダミアン先生の魔法治療の今日の午後だから、それまでは看てもらえないでしょう。心配でこの三日間はほとんど眠れなかったわ。たぶんあの子も咳でほとんど寝られてないんじゃないかしら。でも今日は少し楽になったみたいで、朝食の後は長く寝てるの」


 フランセットはロラを本当に心配しているようで、ほとんど息をつかずに話した。


「大変でしたね。寝不足が続いて体が疲れてるかもしれませんから、元気になるハーブティーを持って行きます」

「ありがとう、シュゼット。よろしく頼むわ」


 約束の時間は十一時と言うことになった。ついでに昼食を食べて行くように言われ、シュゼットは喜んで誘いを受けた。

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