2.ローズウォーターで美肌ケア

「シュゼットー! 待ってー!」


 フレゥールの町の目抜き通りを歩いていると、後ろからシュゼットを呼ぶ声が聞こえてきた。

 シュゼットが金髪を揺らしながら振り返ると、バルバラが髪を振り乱しながら坂を駆け下りてくるのが見える。

 シュゼットは手を振って答え、足元の飼い犬ブロンは「キャンッ」とかわいらしく鳴いて答える。

 バルバラは走ってきた勢いをそのままに、飛びつくようにガバッとシュゼットに抱き着いた。シュゼットは「おっとっと!」と言いながら、バルバラの体を受け止める。


「会えてよかったわ! 話聞いてほしかったの!」

「その表情は、ひょっとしてうまくいった?」


 シュゼットがワクワクしながら尋ねると、バルバラは首を縦にブンブン振った。それに合わせて、ブロンのクリーム色のシッポもブンブン揺れる。


「エタンって肌が綺麗な人が好きだから、すごく綺麗で素敵なお嬢さんだって言ってくれたの。それで……」


 たっぷりと間を取ったバルバラは、弾ける笑顔で「お付き合いすることになったの!」と声を上げた。


「絶対にシュゼットのおかげよ! ありがとう!」

「うまくいって良かった! でも、すごいのはローズウォーターだよ。あれならきっとバルバラの肌も綺麗にしてくれるって確信してたからね」


 ローズウォーターとは、バラの花びらをウォッカに六日間浸けて作る化粧水だ。香水としても使うことができるローズウォーターは、香りが良いのはもちろん、肌のきめを細かくし、肌を綺麗にする作用を持っている。

 万年肌荒れに悩まされていたバルバラは、半年前からローズウォーターを試し、意中の相手を射止めることができるほど肌が綺麗になったのだ。


「つまりはシュゼットのおかげってことじゃない! ローズウォーターを作って、使い方を教えてくれて、綺麗になるまでずっと励まし続けてくれたのはシュゼットなんだから!」


 バルバラはシュゼットの手を取り、その場でクルクルと回った。ブロンはキャンキャン吠えながら一緒になってクルクルと回る。


「本当にありがとうね、シュゼット!」

「ふふふ、どういたしまして」


 バルバラはこの後も仕事終わりのエタンと会う約束があると声を弾ませた。


「シュゼットもよかったら来ない? お互いの友人に、お付き合いすることになったことを報告しようってことになってるの」

「うーん。行きたいけど、おばあちゃんが待ってるから、今日は遠慮しておこうかな。荷物もあるしね」


 シュゼットは買い物の荷物がどっさり入った手提げカゴを軽く持ち上げて見せた。


「あ、そうか。ごめんね、重たいもの持ってる時に引き留めて」

「ううん。嬉しい報告が聞けて良かったよ。わざわざありがとう」

「ありがとうはこっちのセリフよ」


 ふたりはフフッと笑いあった。

 「ブロンも喜んでくれてありがとう」と言い、バルバラはブロンのフワフワした小さな体をワシャワシャとなでた。


 ご機嫌なバルバラと別れると、シュゼットは目抜き通りを抜けて、村の外れに続く細道を歩き出した。この辺りの道は完璧には舗装されておらず、デコボコしていて少し歩きにくい。


「もし靴擦れをしても、ラベンダーの精油を使ったミツロウクリームを塗ればすぐに良くなるからね」


 そうつぶやきながら勇んで足を進めた。その時だった。


「キャンッ!」


 ブロンが弾かれたように吠えた。

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