初恋美少女からの好感度を上げ続けて6年後、気付けば他の美少女からの好感度も爆上がりしていた件
緒方 桃
幼少期から始まる"初恋ヒロイン攻略計画"
イントロダクション(タイムリープ〜高校生時代)
まさか俺、タイムリープしたのか!?
「そうか、
虚しさを助長する、夜の静かな公園。
そこのベンチで、俺はスマホを見てうなだれていた。
SNSで流れてきたのは、高校の頃から唯咲さんと親しそうにしていた男のアカウント。
そこには、彼がウエディングドレス姿の
くそっ、大して面識もない男を『関連アカウント』として流すんじゃねぇよ。
とんでもねぇテロじゃねぇか……。
(はぁ……、唯咲さんが……、俺の初恋がぁ……)
スマホを閉じ、更にうなだれる。
この絶望に対し、悔しいよりも『情けない』が先に来た。
だって俺、なーんにもやってないもん。
小学校四年の頃に一目惚れしてから、声をかける勇気が出せないまま見つめるだけ。
唯咲さんと仲良くできるチャンスは、たくさんあったはずなのに。
「それで、『俺の方が先に好きだったのに……』とか思う資格ないよな」
あー泣きそう。
一言も喋ったことないまま終わった初恋、始まらずに終わった失恋を前に涙する25歳非モテ陰キャ童貞、惨めすぎるだろ……。
(それにしても、……懐かしいな)
頭を上げ、ベンチにもたれかかる。
すると、長年唯咲さんに一方的な思いを寄せていただけの少年時代が脳裏を過(よ)ぎった。
初めて会った頃は確か小学校の図書館だっけ。
普段は大人しい性格で、だけど本を読む時は花が咲いたように笑う女の子だったな。
俺はそんな彼女に惹かれて、中学の頃には気付けば恋に落ちていて──。
……でも、一声もかけられなかった。
それから幾度か仲良くなれるチャンスはあったのに、それでも俺は何もできなかった。
唯咲さんの家が近所だと知って馬鹿みたいに喜んだくせに。
小学校の頃、イジメられていたって噂だった彼女を助けたら惚れられたかもしれないのに。
「……それにしてもあの陽キャ、改めて見ると腹立つくらいイケメンだなぁ」
もう一度、唯咲さんの隣に立つ彼に目を向ける。
見た目めっちゃ爽やかだし。
中学の頃にガタイなんて「絶対スポーツ極めてたやろ」ってくらい
そういえばアイツ、高校は唯咲さんと同じ偏差値は70超えの高校に進学したんだっけ。
(そうか、やっぱり唯咲さんにお似合いな人はあぁいうハイスペックなんだな)
改めて思う──そりゃ俺は無理だわ。
唯咲さんに声を掛けられないヘタレだし。
見た目はヒョロガリの陰キャ。
そのくせに学力は平凡。
おまけに部活でやってた野球では万年ベンチ外。
たぶんの〇太くんの方が可愛げがあって、俺よりも立派な男の子だと思う。し〇かちゃんと結婚するらしいし?(半ギレ)
(……でも)
もし人生やり直して、唯咲さんに好かれるために努力したら、ちょっとは変われたのかな?
もっと頑張ったら、今頃唯咲さんの隣で笑えたのかな……??
「……なんて」
スマホをしまい、ベンチから腰を上げる。
25歳、ヒョロガリ陰キャの非モテ童貞、おまけに地元でフリーターをやってる俺。
今からタ〇ミーで応募したスーパーのバイトに向かうの、巻。
手提げのカバンを幼稚に振り回しながら街中を歩く、その時だった。
「おい待て! 甘音!!」
「いやっ、離して!!」
背後から聞こえた男女の声。
振り向くと──見覚えのある女性が、男に腕を掴まれていた。
(……って、あれ? 唯咲、さん??)
間違いない。『甘音』と呼ばれた彼女は唯咲さんだ。
そして彼女の腕を掴む彼は、どう見てもイソスタの結婚報告で見た例の夫だった。
(アイツ、唯咲さんに何やってんだよ……!!)
くそっ、ここは俺が間に入って唯咲さんを──。
「やだっ、やめて! 離して!」
「おい待て!!」
しかし俺が走り出すより先に、唯咲さんは彼を振り払って逃げ出した。
勢い余って破れた袖からは、淡く紫に腫れた肌がチラリと見えた。
(……は? なんだよあのアザ)
一瞬、息が止まった。
「おいゴラァ!
「──唯咲さん!!」
そして男が追いかけるよりも先に、俺はカバンを捨てて走っていた。
男への怒りよりも、今は唯咲さんを心配する気持ちが先行していた。
(……どうして、どうして唯咲さんがこんな目に!!)
ヒョロガリ陰キャの俺よりも細くなった、彼女の背中。
それを追いながら、俺は泣きそうになっていた。
あの頃とは違う『萎れた花』へと変貌した彼女。
そんな風になったのは、あの男が唯咲さんに酷いことをしたからに違いない。
くそっ、それなら俺があの『DV夫』から唯咲さんを引き離してやる!
(……よしっ、追い付くなら今が好機か?)
まっすぐ走った先の横断歩道で、唯咲さんが立ち止まる。
信号は赤。俺が追いつくまでの距離は十分。
(……って唯咲さん!?)
しかしあろう事か、彼女はフラフラした足取りで歩き出したのだ。
止めなきゃ! 止めなきゃ!!
俺は無我夢中に走り出し──。
「危ない!!」
そして、唯咲さんを突き飛ばしていた。
視界の端から、トラックが迫っていたことに気付かず──。
『ドンッ!!!!』
トラックにぶつかった瞬間、視界が真っ暗になった。
誰かの叫び声や、けたたましく鳴り響くサイレン音はよく聞こえたが、時間が経つにつれて、それらがどんどん消えていく。
──身体が、消えるかのように感覚がなくなっていく。
(あぁ……、俺、死ぬんだ……)
冷えていく身体、遠のく意識。
その中で、俺はまた絶望していた。
くそっ、何がDV夫から唯咲さんを引き離す、だよ。死んだら元も子もないじゃん。
ホント、俺の人生、最後までダメダメじゃん。
「そんなっ、嫌っ! 死なないで!!」
あっ、唯咲さん。ご無沙汰してます。
そしてごめん、もうお別れみたいです。
泣きじゃくる彼女を見つめながら、俺は心の中で謝罪した。
(……はぁ。こんな人生、やり直せたらいいのに)
目が覚めたら学生時代に、唯咲さんに恋をしていた時代に戻ってねぇかな……なんて。
ありもしない『タイムリープ』を夢見て、俺は静かに目を閉じた。
○
『──ピピピピピピピッ』
耳障りな音が鼓膜を震わす。
しかしさっきの電子音とは違う。
幼少期から今まで俺を不快に起こしてきた、実家の
『ガンッ!!』
黙れと言うように、目覚まし時計を叩く。
くくっ……、実家暮らし歴の長い25歳非モテ陰キャ童貞のフリーターを舐めるでない。
お前の居場所など、目を開けなくても分かるわい。
(……って、なんで俺、家に帰って来てんの??)
だって俺は唯咲さんを助けるためにトラックに
意味不明の事態を前に、焦って飛び起きる。
そして、慌てて辺りを見渡した。
(いや、我が実家にしては懐かしすぎるような……)
目を開けた瞬間、異様な光景が広がっていた。
アニメやらバンドのポスターが貼られていたはずの俺の部屋。
しかし今はそれらが見当たらず。
代わりに捨てたはずの懐かしいおもちゃとランドセルが置いてあったのだ。
「って、なんだよこれ?」
いや待て待て。マジでどうなってんの!?
確かおもちゃは全部、捨てたはずだぞ?
ランドセルは
実家? とは違うどこか。
まるで昔の自分の部屋にいるような気持ち悪い感覚……。
「これじゃあまるで、小学生時代の部屋みたいじゃねぇか……」
……いや、違う。『まるで』なんて言ってる場合じゃない。
(……まさか?)
気付けば俺は、自分の身体を見ていた。
手のひら、背丈、そして……、毛の生えていない我が息子。
そのどれもが、ランドセルが似合う少年のサイズになっていた。
(まさかっ、まさかまさかまさかっ!?)
その『まさか』は、
ボサボサだった髪は、ガサガサだった肌は、別人のようにサラサラのツヤツヤで。
だけど顔は、間違いなく昔の自分のもので……。
「いや、夢かもしれん。ここは頬を
痛い。泣きそうなくらいに、痛い……。
「まさか俺、タイムリープしたのか!?」
信じられない。認められないけれど、認めるしかない。
──これは、人生をやり直せる機会だ。
しかもこの時代には初恋の女の子──
つまりこれは、もう一度彼女と仲良くなる絶好のチャンスだ!!
……えっ? ランドセルが似合う少年サイズ??
「……なんで俺、小学校時代に?」
タイムリープにしては、戻りすぎじゃね??
こういうのって相場は中学生とか高校生では??
俺ならば、唯咲さんに初めて恋をした中学生くらいに戻されるのかな、とか勝手に思ったけど。
カレンダーを見る──今から15年前。
つまりは10歳、唯咲さんと初めて出会った時代だ。
(……まぁ、いいか!!)
この時代でも唯咲さんに会えるし!
そもそも念願のタイムリープができたわけだから、唯咲さんと仲良くできる時代ならどこでも大歓迎だ!
「待ってろよ、唯咲さん!!」
小さな拳をきゅっと握る。
ここから俺の、初恋を成就させるための青春リトライが始まった──。
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