第18話 俺が君のナイト

 初めて手を繋いで廊下を歩く。

人はまばらだけど、ユエは隣を歩くろうを見上げて微笑んだ。

『なんか・・・ドキドキする。』

『うん、でもこれからはこれが普通。』

 狼はぐっと握った手を持ち上げてにこりと笑う。


『そう・・・だね。』

 玄関で靴を履き替えて校門前を通り過ぎる時、が友達と笑ってそこにいた。

ユエの心臓がドクっと跳ね上がり視線を逸らした。

そっと隣を歩く狼の手がユエの手を包み込む。

顔を上げると狼は頷いた。


『大丈夫、俺がいる。傍にいる。絶対に守るから安心して。』

 その言葉がユエの胸に光をともす。

『うん。』

 ぎゅっと握り返してそれでも前を見られなかった。

 狼はユエの耳元で囁く。

『大丈夫、こっち見て。』


『狼君?』

 顔をあげると狼はとびっきりの笑顔で言った。

『俺のほうがから。ユエちゃんはだし。』

 ユエが噴出すと狼も笑った。

『よし、帰ろう?どっか寄ってく?あ、クマのケーキ。』

『え?』


 狼はユエの手を引くと、さっさと一年のあの彼のグループの隣を通り過ぎて行った。

 帰り道、霧河きりが先輩と寄り道した喫茶店の前に立つ。

中はやっぱり女性客たちでごった返している。

手を繋いだまま中に入り席に着くと、少し落ち着かないのか狼はコーヒーを口にした。


『狼君?』

『うん・・・上書きのために来たけど・・・慣れないなあ、ここ。』

 女性客の視線を集めている狼は椅子にもたれかかった。

『上書き?』

『うん、だってこの前は付き添いだもん。これが。』


 クマのケーキをつついてユエは笑う。

『そっか・・・そうだよね?』

 ユエがケーキを口に頬張ると狼は頬杖を着いて微笑んだ。

『でも先輩がユエちゃんを誘ったり理由もわかる、こんなに可愛くておいしそうに食べてくれたら嬉しいよ。やっぱりさ。』


『そうかなあ・・・。普通だと思うよ?』

『わかんないだけ。ユエちゃんはいつも素敵なんだから、あんまりフラフラしないで俺の傍にいなさいよ?』

 狼は苦笑するとユエの手を掴んでケーキを一口食べた。

『うん、美味い。』


『気に入った?また来る?』

 ユエが意地悪に聞くと狼は笑う。

『うん、けどテイクアウトして俺んちで食べる。ってのはアリかな?中学生の頃はそうしたけど・・・恋人としてどう?』

 ユエの顔が熱くなる。

『う、うん。』

そう答えるのが精一杯だった。

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如月の虎と狼 蒼開襟 @aoisyatuD

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