第15話 チョコレート
バレンタイン。
浮き足立った男子たちがちらちら女子に視線を送っている。
本命チョコ、義理チョコ、貰った子たちが幸せそうにするのを横目に、不平を言う男子の声が聞こえる。
それを聞いて仕方なしと、クラスメイトにお徳用チョコレートを配る女子の笑う声が響く。
ユエはそれを見ながら笑っていたが、教室の開かれたドアの向こう側で
少し困った顔で虎二はそれを受け取ると、その後他のクラスの女子がチョコレートを抱えてやってきては受け取っている。
虎ちゃん、モテルなあ・・・。
ユエが笑ってみているとやっと終わったのか、沢山のチョコレートを制服のセーターで包んで持って帰ってきた。
『すごいね?』
声をかけると虎二は眉をひそめて笑う。
『どうせ義理ばっか。嬉しいけどこんなに食えねえよ。』
ユエは持ってきていたチョコレートの包みを虎二の机の上にぽんと乗せた。
『ユエから?』
『うん・・・でもいらないか?いっぱいだもんね。』とそれを引っ込めようと手を伸ばすと虎二が阻止する。
『貰う。だってこれ手作りだろ?ありがとう、嬉しい。』
『どういたしまして。』
『
『あげるよ。でも狼君、今呼び出されてていないんだよ。』
『ああ、狼もモテルからなあ・・・。で、先輩にはあげるのか?』
虎二は椅子に座る。
ユエの困った顔を見ると苦笑した。
『まあ、ユエのことだから作ってはきたんだろ?世話になってる人にはあげるくせがあるもんな?』
確かに
三人分、同じチョコレートで同じ包装だ。
透明のナイロン袋を上で縛って、ブルーのリボンがちょこんとついている。
『うん・・・。』
『だったらあげてこいよ。俺は教室にいるからさ。もし思いを伝えるなら・・・ガンバレよ?』
『え?ああ・・・うん。』
ぽんと背中を押されて、ユエはチョコレートをポケットに入れると、三年の教室へ向かう。
教室で居場所を聞くと霧河は生徒会室にいるらしく、そちらへ足をむけることになった。
廊下を進み、時々隅のほうでチョコレートを渡しているカップルが目に入る。
皆幸せそうに見えてユエは顔が緩んだ。
ああいうの・・・いいな。
生徒会室のドアをノックして返事を待ってから開ける。
中では忙しなく仕事をしている生徒たちがいた。
その中でひときわ険しい顔の霧河がユエを見つけて微笑む。
『ユエちゃん。どうしたの?』
『あの、バレンタインなので。』
ポケットから包みを取り出して霧河に差し出す。
霧河は笑うと両手でそれを受け取った。
『ありがとう、手作り?嬉しいなあ。』
『あ・・・あの。』
ユエが言葉を探していると、霧河を呼ぶ声が部屋の中でした。
『ごめん、戻らないと。これありがとう。じゃあね。』
『はい。』
ドアを閉めてユエは息を吐く。
私、何を言おうとしたんだろう?
踵を返して廊下を歩いていく。
階段に差し掛かり視線を上げるとユエは凍りついた。
足が動かずに硬直する。
『
階段の踊り場に一年の時の彼がいた。
どこかバツの悪そうな顔をして、ユエから視線を逸らすと階段を上がって行ってしまった。
ユエの心臓が早く走りだす。
冷や汗が出て両手を握り締めるとその場から逃げ出した。
別に何かしたわけじゃない。
ただ目があっただけなのに、膝が笑っている。
頭の中で罵声が聞こえる。
ユエはしゃがみこむと両手で耳を押さえた。
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