第12話 ユエのナイト

 クリスマス。

クラスメイトたちとのパーティ。

カラオケボックスのパーティルームではワイワイ楽しそうに賑わっている。

普段あまり話ができない子とも仲良くなれる機会とも、あってほぼ全員参加していた。

ソファの隅に座ってユエはジュースを飲む。

隣には仲の良い女子ミツキが座っていたが、いつの間にか男子が交代していた。


如月きさらぎさん、歌わないの?』

『う、うん。歌は上手じゃないから。みんな上手だね?』

『ほんと、でも如月さんの歌も聞いてみたいな。それとも一緒に歌う?』

 場の雰囲気なのか、今日は皆、積極的に見える。


『う・・・うん・・・私は今はいいかな。』

『そっか、じゃあ俺もいいや。ねえ、如月さんはさあ・・・。』

 話題をつがれてユエはにこにこと聞いていたが、視線を感じてカップを取るときにそちらを見た。

虎二とらじがこっちを見ている、不機嫌そうに視線を逸らすと男子と話し始めた。

なんか怒ってる?

いたたまれなくなってユエは隣の男子に断ると席を立つ。

部屋を出てレストルームに向かうと、女子たちがメイクを直していた。


『あ、ユエちゃん。楽しんでる?』

 色つきリップを塗ってにっこり笑う。

『うん、楽しいよ。なんだか今日可愛くしてるね?』

『フフ、今日こそはね?じゃあ先に戻ってるね?』

 パタパタと女子たちが出て行き、ユエは用を済ますと洗面台で手を洗う。

冷たい水で冷えた手をハンカチで拭いて、鏡で髪を整えてから外に出た。


 廊下は少し室内の歌声がぼやぼやと響いている。

カラオケボックスの面白い所だ。

部屋に戻る途中のドリンクバーの前でろうが俯いて立っていた。

『狼君?』

 ユエの声に狼が顔を上げる。

少しホッとした顔に見えた。

『どうしたの?何か飲むの?』

『うん、ユエちゃんもなにか作る?』

『そうだなあ・・・そうしようかな。』


 狼の隣でカップを持った。

『皆すげー浮かれてる。今日は結構カップルが出来そうな感じ。』

『そうだね?けど楽しそうだよね。』

 ジュースのボタンを押すと色のついた水が、シュワシュワとカップを満たす。

『狼君は楽しんでる?』

『まあね?ユエちゃんは?疲れてない?』

『フフ、大丈夫だよ。でも皆ジュースで酔っ払ってるよね?』

『アハハ、違いない。三年はまた違うクラスになる奴もいるからなあ・・・。思い出作りたいんだろうな。』

『そうだよね。』


 狼は一つジュースを作るとユエに笑いかけた。

『そろそろ戻ろう。』

 パーティルームに戻ると少し人数が減っていた。

元から家族との予定などで前半は参加するという形にしたらしい。

ユエはソファに座り隣の女子たちの話に加わった。が恋の話に、急遽変わり傍の男子も加わって盛り上がり始めた。

女子一人一人に話が飛び、ユエの番が来た。

隣に座っていた女子が男子に交代して何故か、付き合えば?みたいな雰囲気になりユエは視線を泳がせる。


 困った。

そう思った時、ワイワイ盛り上がっていた会話がぴたりと止まり、ユエが視線を上げる。

虎二が不機嫌そうにユエの手を引くと、空いているソファに座らせて隣にどかっと座った。

『なんか文句ある?』

『ないです。』と口々に言うクラスメイトたち。

場が悪くなったが虎二がにこっと笑った。


『俺はユエの騎士だからさ。ちゃんと俺に断って?』


 その言葉にドッと場が和み、冗談に受け取られたのか笑いが起きた。

それに乗じて『頼むぜ?』と虎二がパチっと目配せした。

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