第11話 中途半端

 クリスマス前。

ユエは突然、西島にしじまに呼び出されて、カラオケボックスの中で西島の歌を聞いていた。

アイドル顔負けのルックスにパフォーマンスつきの歌声は、きっと見る者の目を奪うだろう。

一曲歌い終えてマイクを置くと西島はジュースを飲む。

ユエはじっと静かにしていたが西島に促されて曲を探していた。


『ねえ、如月きさらぎさん。どういうつもりなわけ?』

『え?』

『え?じゃないわよ。中山なかやま君、とうとう別れるとか言い出して。』

『なんで?』

『こっちが聞きたいわよ!そもそも中山君は誰かさんの代わりにしてたんだし。』

ぼそぼそと西島は言う。


『で、如月さんは誰が好きなわけ?あの先輩、生徒会長の、それとも間山まやま君?』

『ちょ、ちょっと待って。なんでそんなこと。』

『如月さんがいい加減決めないからこうなってるんじゃないの?如月さんが決めてくれたら中山君だって踏ん切りがつくでしょ?』

『踏ん切りって・・・。』


 ユエが困ると西島はむっとした顔で睨んだ。

鈍感グズもいい加減にしないとさいあくだよ?あたしは直球で勝負してる。あたしは中山君が好き。大事にしてくれるし、手は出さないけどちゃんと見てくれてる。』

『・・・うん。』

『ちゃんと考えてよね?あたしは別れるつもりなんてない。ちゃんと好きなんだもん。うそでも何でも手に入れたからには離すつもりなんてない。』


 西島はまた立ち上がると曲を入力してマイクを握った。

本当マジで!今日は鬱憤うっぷん晴らすために付き合ってもらうから!』

 西島とのカラオケを終えてフラフラと帰宅する。

少し耳が疲れているせいでまばたきが多くなっていた。


『はあ・・・。』

 ゆっくりと歩いていると家の傍に虎二とらじを見つけた。

『虎ちゃん?』

 虎二はユエを見つけると片手を上げてにっこり笑う。

『おう!』


『どうしたの?何か用事だった?』

『いや・・・近くに来たから寄っただけだよ。』

『そっか。お茶でもしていく?お母さんが昨日パイを焼いてたから・・・虎ちゃん好きだったでしょ?』

『うん・・・でもいいのか?今、ユエ一人だろ?』

『うん。大丈夫だよ?』

 ユエは鍵を差し込むと玄関を開ける。


『そういうことじゃない・・・んだけどなあ。』

ぼそっと虎二が呟いたが、ユエが笑うと仕方なく頷いた。

『わかった、ご馳走になる。』

『どうぞ、上がって。お母さんももうじき帰ってくるだろうから。』

『うん。』

 ユエはキッチンに入るとお湯を沸かす。

『虎ちゃん、コーヒーがいい?紅茶?それとも緑茶?』

『コーヒーで。ブラックでいいよ。』

『はーい。』


 小分けのドリップコーヒーを入れて、冷蔵庫のパイをオーブンで暖める。

それを虎二の前に出した。

『サンキュー。』

 虎二はコーヒーを飲み、パイに齧り付く。

おいしそうに食べる姿にユエは暖かいカップを両手に持つと笑った。

『なんだよ?』

『ううん、おいしそうに食べるなって思って。中学生の時と変わらないね。』

『食うもんはな。けど成長はしてる。』

『うん、虎ちゃんは素敵になったよね。背もぐんと伸びて手だってすごく大きい。』

『ハハ、そりゃそうだよ。男は女を守るために体が大きいんだからな。』


 虎二はカップに口をつける。

『それはそうと・・・生徒会長のことどうするんだ?』

『え?・・・まだ決めてない。』

『ちゃんと決めないと駄目だぞ?中途半端はよくないから。』

 ユエは少し膨れて抗議した。


『虎ちゃんだって、西島さんとどうするの?』

『なんで西島?』

『言ってたよ?別れるとかどうとか。ちゃんとするのはお互い様じ・・・。』

『お前には関係ない!』ユエが言い切る前に虎二が言葉を被せた。

しんと静まり返って虎二がやってしまったと口に手を当てる。

その顔は真っ青だった。


『ごめん。怒鳴るつもりなんてなかったんだ。・・・ごめん。』

『うん・・・私のほうこそごめんなさい。そうだよね?関係ないもんね。』

 ユエが俯くと虎二は慌てて何か言おうとしたが、玄関のドアが開く音がして軽快な『ただいまー!』のユエの母親の声に邪魔された。

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