第3話 幽明境を異にする

 言い争いが聞こえ、父の怒鳴り声が聞こえた後。

 母の叫び声が聞こえその次に父の苦しむ声が聞こえた。


 目の前が真っ赤に染まっていた。


 私は震えて声が出なかった。


 幸せを築いていた家庭はただのナイフ一本で壊れてしまう。


 一時の感情に任せ、、、


 人は人を殺してしまうのだろうか。


 両親の腹部に刺創を見つめ苦痛を感じてしまっていたのだなと感じた。


 思わず私は家を飛び出た。とりあえずこの場から離れたかった。両親には申し訳ないけどこの空間にいたいとは思わなかった。いつも迷惑をかけてしまっているのに、今回も迷惑をかけてしまっていた。でも逃げ出したかった。

 あんなにも仲が良かったとに、、、


 何も考えたくない。

 いや、考えることが怖いのかもしれない。

 次は私なのではないかと考えると背筋が凍ってしまった。


 段々と日が沈み夜を迎えていた。夜中は赤色灯が光っていないかを確認し、学校の先生に会うことを防ぐ為に高架橋の死角となる場所で夜を明かした。


 草木に露が降りていることを頬で気づいた時、遠くでサイレンの音や多くの車が集まっていることが分かった。それも方角的に私の家であった。きっと見つかってしまったのだろう。は捕まったのだろうか。でも今は自分の安全を確保するべきだと考えた。


 何処へ逃げるべきか。遠い記憶の中に祖父母の家に行ったことを思い出しながらその家へ向かった。そのなかでものことを憎んでいた。

 信じていたのに。


 祖父母の家に着いた時、私の顔を見た瞬間抱きしめられた。


「死んだかと思った。死んじゃったかと思った。身内を無くすのはとてもつらいから。」


 そういいながら二人とも泣いていた。


 日が暮れて月が傾き始めていたから、今日は眠ることにした。でもあの状況が目に焼き付いていて眠れなかった。


 朝になり気持ちを整えるために散歩に出た。

 昔見た記憶と全く同じ景色だった。

 でも一軒もともと空き家だったところに駄菓子屋ができていた。


 なんとなく立ち寄り駄菓子を眺めていると、母親と同じくらいの年齢の女の人が出てきた。その人は私を見るなりこう話しかけてきた。


「あなた、辛いことあったでしょ。」


「え、、、」


「目を見ればわかる。辛く悲しみに満ちた奥に恨みがある。」


「なんですか、急に」


「私がいえることじゃないけれど、絶対にため込まないでね。意外と人間は脆いから。」


 その人はただそれだけを伝えをくれた。

 私はその駄菓子屋を去り祖父母の家に帰った。ラムネを飲みながらぼーっとしているとニュースの声が聞こえた。


「自分の両親を殺害した疑いで風花紅華容疑者が逮捕されました。風花氏は両親を殺害したと思われるナイフを持っているところ、近隣の住民に目撃され通報されたのことです。また、風花氏は、、、」


 このニュースが流れたとき自然と笑みがこぼれた。


 祖父母が絶望に満ちている中私はあの駄菓子屋に向かうことにした。


「あら、もう来てくれたの?いらっしゃい」


「あの、、、その、、、」


「そうだ。まだ自己紹介してなかったわね。私は、五十嵐カスミ。この辺の子供たちからはカスミおばさんって言われてるの。まだ若いってのにね。あなたは?」


 今ニュースで流れている人と同じ名前だと私も何か言われるかもしれない。そう思ってしまい言葉が出なかった。


「大丈夫、大丈夫。あなたが何者でも私は突き放したりしないよ。なんでも話してみて。」


「私は風花紫荊です。紅華の妹の、、、」


「そう。お菓子食べる?結構いろんな種類あるんだよ。」


「あの、、、なんでカスミさんは私が何か抱えてるって分かったんですか?」


「私もそうだったの。一人の好きな人がいたけどその人の抱える気持ちに私は気づけなかった。今でも悔いてるの、あの時なにかできたんじゃないかって。こういうの幽明境を異にするっていうみたいだよ。本当の意味は死に別れを告げることで生きる人と死せる人は異なる世界に住むって。これを故人との永遠の別れを象徴して生前に伝えられなかった思いが残るの。あなたの目がねあの時のあいつに似てたから。なんでも自分ひとりで解決しようとするあいつにね。」


 急な告白に私は驚いた。

 たったそれだけの、目が似ていたというそれだけのことで

 私を気遣ってくれていたのか。


「だからなんでもいいよ。なんでも相談してみて。」


「私はまた逃げてしまった。またお兄ちゃんに迷惑をかけてしまった。私が悪いのに。私が、、、」


「自分を責めちゃいけないよ。自分を信じれるのは自分だけなんだから。だから責めないで。反省するのと否定するのは全く違うから。」


「反省と否定?」


「そう、今紫荊ちゃんが感じてるのは、お兄さんに何かを押し付けてしまったことを後悔してるのではないかな?」


「それは、、、そうですけど。」


「そう。そして紫荊ちゃんは自分が悪いといってたね。それは自分を否定することになる。その否定を反省に変えるのよ。」


「どういうことですか?」


「私が悪いじゃなくてこの時こうすればよかったかもしれないって。そう思うことで違う未来が見えるでしょ。ならその未来にまた戻るようにこれから生活すればいいのよ。死んでしまった人は戻らないけど、関係が悪くなっただけなら戻るかもでしょ。」


「私が悪いじゃなくて、こうすればよかったと、、、」


 それから私は次お兄ちゃんに会ったら謝る、お兄ちゃんを信じるということを胸にしまっていた。絶対にお兄ちゃんに会う。いつ出所するか分からないけどいつまでもお兄さんを信じようと。でも次にその名を聞いたのはお兄ちゃんが死んだというニュースだった。


 謝れなかった。ずっと信じていたのにそれも意味がなくなってしまったのか。これがカスミさんが言っていた幽明境を異にするという意味なのか。いつまでも隠れているつもりはなかった。けど、周りからの目が怖くてずっとここにいた。でもそんなこと言っていられなかった。早く手を合わせたかった。そして早く伝えたかった。本当のことを。でももう聞こえないかもしれない。一つのことに注目が浴びるとそれ以外は見えなくなってしまうのだから。


 実際にお兄ちゃんがなくなった場所に来た。一言だけ


「本当にごめんね」


 それだけ伝えた。誰にもばれないうちに花束を置いて帰ろうとしたら遠くでトボトボと歩く一人の女性が見えた。一目でわかった。この人は記者なのだと、この人もまた盲目の人なのかもしれないと。でも、少しの希望を信じて話しかけた。


「あなたはこの世に生まれてよかったと感じることはある?」


 これを聞いてこの人は真実を追う人なのだと分かった。でもここで私が紅華、お兄ちゃんの妹であると知られたら詰められるかもしれない。私はならばの名前を使おう。両親を殺した女の名前


 と。



 ーニュースで心さんが別人であると気付いてからー

 まったく違う人だった。高架橋であった心さんはとてもやさしそうな人だったけど。今映っている人は何かに憑りつかれたかのように疲れ切った顔をしていた。今テレビに映っているのが本当の心さんなら、さっき会った人は誰なのか。きっと心さんを知っている人に違いない。そう思った。


 私はまた情報を集める為にまた高架橋へ向かった。するとホームレスの方が集まって話していた。私のほうを見ると近寄ってきて言った。


「あんた紅華さんにくっついてた女だろ。確か白虎やらなんやらっていう。」


「はい。私のことですけど。」


「実はな俺ら紅華さんが殺される以前のやり取りを見てたんだよ」


 まさかの発言だった。警察もすぐに自殺と決めていたことから事件性はなかったと思われていたのに、やはり殺されたんだ。


「すみません。詳しく聞かせてもらえませんか?」


 その人達が言うには紅華さんは誰かともめていたらしい。遠くから聞こえるからに妹とか紫荊と聞こえたらしい。そして言い合いはどんどん激しくなり、紅華さんが紅華さんが去ろうとした時に後ろから首を絞めたらしい。


 風花紫荊、、、兄が殺したとだけ警察に伝えその後行方不明となった人物。なぜ今になって出てきたのか。その時私の脳裏にこんな考えが生まれた。


 


 出所してきて自分のことをばらされたくないから兄をやったのだと。


「なんて卑劣な。あんなにやさしい人を殺すなんて」


 この説を考えた人は私だけではなかった。SNSではだんだんとこの説が浸透していた。その理由として一つの証言があった。


「風花紫荊は高校で先輩だった花鳥心に暴力をふるい停学になった。」と


 このひとつの証言が広まり、


『それ聞いたことがある』


『やっぱり怪物の家族も怪物なんだよ』


 という意見が出てきた。


 あの時おばあさんが言いかけたことはこのことだったのだ。まさか、妹さんである紫荊さんがそんなことをしていただなんて。


 でもこれで


これで真実を追えた。自分の正義を貫くことができた。


そう考えたときに一つの疑問が生まれた。


これでは真実を追って追いついたのではなく、作っているのではということだった。嘘だと思っていたことが真実ではないかと思い始めて、焦っていたのだろうか?現実を見たくなくて現実を逃避していたのではないか。


「これじゃああの人たちと一緒だ。真実の裏を見ようとせず何もかも鵜呑みにしていたSNSの人たちや、散歩していた人たちと」


一度でも真実を追えたと真実を貫くことができたと思った自分を恥ずかしく思った。何が真実を追う記者だ。こんなのではダメだ。ならばその裏側を見るしかない。


私はもう一度情報を整理してみることにした。


そういえば裏があるといったときに大きな声で怒鳴られた覚えがある。もし裏があるとするのであれば考えられるのは数人。紅華さんは妹である紫荊さんを守ろうとしたのではないか。いやもしくは自分を売ったことを恨んで、、、?


考え始めるときりがなかった。でも一つ分かることがある。ホームレスの方が見た自称紫荊さんの人相である。ホームレスの方に聞いたところ分かったことがある。


紫荊と名乗った人は


そしてもう一つこう話した


「確かニュースとかでみたこたあるよな」

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怪物 UNKNOWN @NONEXISTENCE_unknown

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