第2話 真実を追う
紅華さんが亡くなった。
あまりに突然だった。
公園で泣いていて、
誰かに襲われた。
でも助けてくれた。
だから、、、真実を知りたかったんだ。あれほど優しい人が、本当に人を殺したのか。
そしてなぜ黙秘を続けていたのか。
決定的証拠として、妹の証言や凶器についた指紋などもあった。だから殺人者には間違いなかった。だからニュースに取り上げられ、刑務所に入れられた。法による平等な裁きで。だけど、こんなのおかしいよ。ただの一般人が、実名も出さず匿名という鎧をまとい、私刑をくらわす。そして、周りは英雄視をしてしまう。人殺しには変わりないのに。
携帯の呼出音に気づいた。不在着信が11件。全て編集長からだった。折り返すと怒号が飛んだ。
「アイリス。お前何やってんだ。もう昼過ぎだぞ。お前らしくもない。早く来い。」
「すみません。体調がすぐれずに。療養したいので2週間ほどお休みをもらいます。」
「おい、何を言い出すんだ。それよりも」
電話を切った。
真相を追うためにも少し調査をしたいと思った。何かが引っ掛かっていた。まずは真実を言いたがらなかった紅華さんがメモを書き残していること、あの時私を置いて逃げたことからも生きるということにしがみついている気がした。そんな、そのなに臆病な人が自殺なんてするのだろうか。どんな真実があろうとも、間違った生き方や考えはしたくなかった。
気づいたら私は自殺したという高架橋に来ていた。黄色テープが張られていた。警察は自殺と決めつけていたためかもう撤収していた。風が吹き込み冷たい風が吹き込んだ。混乱していた頭も少し冷え周りの音も聞こえるようになった。河川沿いを散歩していた二人組が話していた。やはりこの件についてだ。
『あの家族殺し自殺したってな』
『しかも謝るメモを残すって謝る相手違うだろって』
『まぁ死んで当然だよな』
『間違いない』
二人は笑いながら通り過ぎた。疑問に思った。人が亡くなっているのに、笑いながら。当然?罪を犯した人間は人扱いされないのであろうか?芸能人のような有名人ではないから悲しめとは言わない。ただ生きていく途中で踏み外してしまった周りにいるごく普通の人間だ。それなのに当然?こんなのはおかしい。そう考えていた時に誰かから話しかけられた。花束を持った女性。その女性は近づいてきて質問を投げかけてきた。
「あなたはこの世に生まれてよかったと感じることはある?」
急な質問に戸惑ってしまった。すると続けてこう聞いてきた。
「あなたは悪人を許すような心を持っているの?」
「急に何ですか。そもそもあなたは誰なんです?」
私のした質問には答えるそぶりは見せなかった。しかし、早く答えろと言わんばかりにこちらを向いている。
「分かりました。答える代わりにあなたも質問に答えてくださいよ。」
そういうと軽くうなずいた。
「この世に生まれてよかったと思うことはたくさんあります。初めてテストで百点を取った時両親に褒められたこと、友達に恵まれたことや大きなプロジェクトをみんなで成功させたこととかたくさんあります。最近は少し辛くなってきましたけど、それでもよかったと思います。」
私はそのまま続けた。
「悪人を許せるか許せないかで聞かれたら答えは許せません。反省することなく涼しい顔をして普通の人として生きたり、目立つために犯罪を犯す人などを見ると虫唾が走ります。」
「じゃあなぜあなたはここにいるの?」
その問いに対して少し疑問を感じた。
「それは悪人と犯罪者はイコールではないと思っているからです。犯罪を犯してしまった人の中にはしっかりと反省している人もいる。復讐という悪魔に取りつかれて犯罪に手を染める人もいれば、贖罪を受けるために自分の命を絶ってしまう人もいます。自殺がいいわけではありません。責任から逃れるように自殺するのは嫌いです。でもやっぱり許せません。」
長々と話してしまった。でも次から次へとこぼれていく。私自身が正義のヒーローであるだなんて思ってもいない。ましてや、犯罪者である紅華さんを擁護しているわけでもない。あの人も責任に追われ逃げ自分で命を断ったとしたら私はあの人を信じれるだろうか。
「もう一つだけいいかな?あなたは性善説か性悪説どっちを信じる?」
「質問の答えにはなりませんが、私はどっちもなくてどっちもあると思います。」
「どういうことかな?」
「人によって正義や悪の価値観が異なるように、善いことと悪いことなんて人によって変わるかもしれないでしょう。だから私はどんなひとでも受け入れようと思ったのです。でも受け入れきれません。やっぱり悪は悪だと思ってしまうのですから。」
「あなたは優しい人なのね。ありがとう。それと質問に答えなくちゃね。私は
心さんは昔から紅華さんの友達で家族ぐるみで仲が良かったという。一緒に遊んだりキャンプなど行くことはたくさんあったらしい。しかし、紅華さんが両親を殺し妹も行方不明ということを聞き事実を集めるために情報を集めていたらしい。でも見つかる情報は紅華さんが犯人だという確証に近いものだという。妹さんも全く情報がないという。
「紅華は昔から静かだった。自分の気持ちは外に出さず
意外な一面があった。確かに口数は少なかったが、初めて会ったときは冷たい心を持った人だと感じた。でもあの時助けてくれたのは気まぐれや犯罪者と言われないためにしたことではなく、あの人の本当の気持ちであったのではないか、そう感じた。
心さんが得た情報についても教えてくれた。
事件が発覚した理由は血に濡れた妹さん、紫荊さんが警察に保護されたときから始まった。紫荊さんは『兄が両親を殺した』と伝え現地に警察がついた時紅華さんは包丁を片手に呆然と立っていたらしい。声をかけてみても全く反応がなく、まるで人形のようであったらしい。幸せな家族に見えていた。充実していてみんな仲が良くて、そんな家族に起きた悲惨な事件だったため心さんも放心状態であったらしい。心さんは現場を見たかのように事件内容を知っていた。この人となら本当のことが分かるかもしれない。
「心さん、私はこの事件はまだ終わっていないって思うんです。あんなにやさしい紅華さんが一時の感情に任せて人を、自らの親を殺すわけないと思ってしまったのです。あの人は私を救ってくれたから。殺したとしても何か理由があるかもと、、、」
「何が言いたいのかしら?」
「だから、、、これから私にもっと教えてくれませんか。紅華さんの抱えていた本当の意味が分かるかもしれないんです。」
心さんは首を横に振った。理由としてこれ以上関わりたくないと思っているかららしい。いつだってマイノリティは否定されてしまう。小さい頃から方にはめられる教育は、一定の知識や周りとの協調性を生み出すことができる。しかし、それで育ってしまうと必ずものさしができてしまう。マイノリティはみんなと合わせて生活できない空気の読めない奴と認識してしまうのであろう。
心さんはそれを恐れていた。周りと異なることをすることを。しかし連絡先だけは教えてくれた。
時間がたった。高架橋の下で何も考えることなくただ流れる川を見つめていた。これからどうするべきであるか、編集長が言っていた通りこんな無謀なことはやらなければよかったと感じてしまった。SNSで多くの人の考えを探していた。少し前の事件ではあるが、紅華さんが出所したことや亡くなったことからまた多くの意見が上がっていた。
『正義のヒーロー
やましいことがなければ自分は、無実っていうべきだよな。自殺ってことはやっぱり殺人者だよ』
『匿名で意見を言っていくbot
人殺しは死んで当然。裁判所も人殺しなんて死刑にすりゃいいのに、裁判官も腐ってやがる笑』
『YOTA
さすがに今でもこの犯罪者を擁護してる奴いないよな笑。いたとしたらそいつも同罪で笑。』
『20歳で起業!最短で起業できる方法を教えます
この事件何か裏があったりするのかな。今はもう亡くなってるから真実は分かんないけど、当事者じゃない人がさわぐのもな。
QEDbot
え?お前何言ってんの?そんなわけないやん。犯罪者は犯罪者でしかないの。まさかお前も人殺したことあんの?その思考回路ヤバ笑。ってことでお前も犯罪者。はい、QED笑。
チー牛っていうな
QEDbotマジそれなニュースでもここの場でもみんな人殺しって言ってるのに擁護するとかマジで頭悪w少数派がかっこいいとか思ってるんだw』
まだ他にもたくさんの意見が広がっていた。その中にあった疑問を持つ意見もマジョリティの意見につぶされていた。まさに心さんが感じていたことが起きていた。多くの人の意見を見ていたら、紅華さんは本当に人殺しなのではないかと感じた。
いやいやそうではないだろ。その考えはだめだ。信じてくれる人がいなくなることは、その人にとってとてもつらい経験になってしまう。誰にも信じてもらえなかった紅華さんを誰かが信じてあげなければ。私だけでも。
やはり私は私らしくいこう。真実を追おう。そのためにはまず情報が欲しい。些細な情報でもいい。多くの意見の中には否定的な意見もある。その人たちの考えを聞くことや、周りの人に意見を聞くのもいいかもしれない。私はまず紅華さんの家のご近所さんに話を聞くことにした。
「すみません。私記者のティーグリフ・百虎・アイリスと言います。一家殺しの風花紅華について少しお話を伺ってもいいですかね?」
出てきたのはおばあちゃんだった。
「あんた、まだそんな事件について聞いてるのかい。あの時たくさんの人に聞かれた。紅華ちゃんを信じてあげたかったのにあなたたち記者は、そっちで決めたことばっかり。小さい頃も問題児だったかとか、危険な子だったかとか。もううんざりなのよ。」
「そこを何とか。お願いします!真実を知りたいんです。」
「何が知りたいのさ。」
おばあちゃんは少し話を聞いてくれると言ってくれた。
「確かに紅華ちゃんは不思議な子だった。いつもぼーっとしていた。でも確か妹ちゃんが生まれたころ、変わったんだよ。妹ちゃんを守ろうとしたのかもね。優しい子だった。でも確か紅華ちゃんが高校に上がったくらいだったかな。結構ね、けんかの声が聞こえたのよ。それもあの子の両親と紅華ちゃんでね。それは激しかった。一度だけ大きな物音がしたの。その次の日彼は大きなあざを作ってたわ。聞いてみても『転んじゃっただけだよ、心配しないで。じゃあ行ってきます』って。何かあったのかもね。」
当時全く上がっていなかった情報が多くあった。当時は不思議な子や、高校からけんかしていたなどが書いてあったが、ここでは異なっていた。おばあちゃんが私たち記者を嫌った理由が分かったかもしれない。
「妹さんについてはどうでしたか?」
「あの子かい?あの子はいつもお兄ちゃんにくっついていた。守ってもらっていた感じよね。でも確か、高校で、、、何だったかしら忘れちゃったわ。」
やはり妹さんが関わっている。高校の時に何かあったに違いない。でもおばあちゃんは忘れているみたいだし、そこで思い出した。心さんだ。あの人に聞けば何か教えてくれるかもしれない。私は心さんに電話をかけようとした。
「あらこのニュースに出てる子、どこかで見覚えが。そうだわ!心ちゃんよ。大きくなったわね。何?今は政治家になったの。立派だね。ほらあなたも見てみな。立派だに。」
心さんがニュースに出ていると聞いて驚いた。しかも政治家だったとは。私はそう思い手帳から目線を上げた。
「あれ?心さんじゃない?」
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